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2-3 タマに甘えられる

「なら海部さんは、何も教えてくれなかったのね。退任理由を」


 俺のマンション。いつもどおりみんなでわいわい晩飯を食いながら、仲間に報告した。


「そうです、吉野さん」

「でも不思議だねー。だってそうでしょ。次期社長候補筆頭なのに、社内闘争することもなく、黙って身を引くなんて」


 テーブルに座り込んだレナが、ほっと息を吐いた。レーズンを両手で抱えると、むしゃむしゃとかぶりつく。


「おいしいねー、これ。ワインに合うよ」


 自分専用のドールジョッキで、ワインを飲んでいる。


「まあ、葡萄繋がりだしな。そりゃ合うだろ」

「ドライな白にも、濃い赤にも合うのよ、レーズンは」


 吉野さんが付け加える。


「でもたしかに不思議ね。レナちゃんの言う通りよ。海部さん、平くんとも同盟組んでたもの。社内陰謀を暴こうって」

「平ボスになにも言わずに突然決めたのはおかしいな」


 俺の隣に陣取っているタマが、横から俺の頭を抱え込んだ。顔をぺろぺろ舐め始める。そろそろまた発情時期なのか、タマにしては珍しく最近は俺べったりだ。今晩も寝台で仲良くする予定だし。


「ああ……平ボス、おいしい」


 獣人ってのは、面白い愛情表現するよな。


「それでさ……」


 抱き寄せてやった勢いで、タマは俺の上に身を伏せる形になった。起こしてやろうとしたが、手を振り払う。仕方なくそのままほっておいた。


「それで……あっ……誰か、なにか思いつかないか。急転直下のこの動きの理由を……んっ」

「平がわからないんじゃなあ……」


 タマのことをうらやましそうに見つめながら、トリムは首を傾げた。


「でもその人、平の盟友でしょ、言ってみれば。なにかヒントくらいくれたんじゃないの」

「ヒントかあ……」


 あの会合を思い出そうとした。なにか……言ってたっけな。


「そう言えば、全然関係ないことを口にしてたな……」


 海部の言葉が色々、頭を巡った。


「かどわりがどうとかとか」

「かどわりってなに、平くん。門松とかじゃないの」

「いえ吉野さん、かどわりって言ってました」

「聞いたことないわね」

「現実世界の婿殿と吉野殿が知らんのでは、あたしらではどうしようもないな」


 それだけ口にすると、ダークエルフのケルクスは、濃い色のワインを口に運んだ。


「うむ、うまい」


 濃い肌が少しだけ赤くなっている。


「他になにか言っていませんでしたか、そのカドワリーとかいうものについて」


 バンシーのエリーナが、フォークを置いた。食事を中断し、真剣な瞳になっている。


「なんか時代劇みたいなこと口にしてたな、そう言えば。門割は明治に廃止されたとか。戊辰戦争の土方がどうとかとか」

「それでわかったよ、お兄ちゃん」


 中学生並の見た目に反し酒豪のキラリンは、ぐいぐいやっている。その傍ら、例によって脳内検索したんだろう。なんたって元はマリリン博士謹製の異世界スマホだからな。俺が肌身放さず持ってたせいで妄想モンスター化しただけで。


「門割制度だね、それ」

「そうそう。な……なんかせ、制度だとか……ほざ……いてた」

「十七、八世紀あたりの制度だよ、お兄ちゃん」

「江戸時代中期ね」


 さすが吉野さん。俺と違って賢い。全員、俺の嫁だ。タマの行為に、今さら誰も驚かない。厳密に言えばエリーナやキングー、サタンはまだだが、三人からも求愛を受けているし、やがて俺の嫁になるのに決まってるしな。


「門割は、薩摩藩だけの制度。農民を組織化し、数年ごとに担当耕地をローテーションするんだ。土地によって豊かな土地や痩せた土地があるでしょ。ローテでその有利不利を解消する目的で」

「へえ……平等主義みたいなのね。いいことだわ」


 吉野さんは感心している様子。


「いいことばかりじゃないよ、吉野さん」


 キラリンがまた酒を飲んだ。


「だって薩摩藩の年貢は九割という極悪税金だからね。鹿児島の農民だけじゃなく、琉球の農民も、薩摩には苦しめられたんだ」

「なるほど。とことん搾り取るために、完全に詰んじゃう農民を出さないためか」

「生かさず殺さずだのう……」


 優雅な手つきで、エンリルは鶏を口に運んでいる。ハイドラゴンの婚姻形態だけに、なんというか王族ぽいんだよな、こいつ。


「まるで魔族のように残虐じゃ」

「ふん……」


 サタンがエンリルを睨んだ。


「我ら魔族のほうが合理的だわい。ヒューマンやエルフよりはのう」

「それに薩摩は貧しい土地だったもの。それも生きる知恵だったのよ。あの時代の倫理を今の道徳で語っても仕方ないし」

「そうですね、吉野さん。それに江戸時代の誰も知らないような制度を突然話題にしたのは、たしかに不自然だ。でも……」


 甘えてくるタマにキスを与えてやった。嬉しそうにタマは、俺の舌を熱心に吸っている。


「でも、それがなんのヒントなんです。なにか……符牒とかですかね」

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