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1-6 月の光

「その……本当にいいのか。タマゴ亭さん……」

「王宮では、あたしはシュヴァラ王女よ、平さん」


 くすくす笑っている。ふたりがこれからひと晩を過ごす、王女の寝室で。ふたりっきり。ベッド脇の小さなソファーに、肩を寄せ合って座っている。女の子特有の甘い香りが、部屋に漂っていた。すでに魔導照明は落とされ、窓から入る月の光だけが俺達を照らしている。


「そ、そうだな……。なんか慣れなくて」


 なんせ出入りの仕出し業者「タマゴ亭」看板娘として付き合ってきた日のが、はるかに長いからな。


「吉野さんたち、もう寝たかしら」


 首を傾げると、きれいな髪がさあっと流れた。


「多分……。まあレナは別だろうけど。あいつ今頃、こっちのこと想像してにやけてるに違いないわな」


 もう。手に取るようにわかる。サキュバスの考えなんかな。


「絶対そうね」くすくす

「ああ」


 国王と姫様の頼みを受け入れた晩、俺達は王宮に泊まることになった。吉野さんが急遽、宿泊出張の申請を会社に出してくれて。俺と自分の分の。なんかふわふわした気分のまま、俺達と姫様、それに国王だけのこじんまりした晩飯を済ませた。


 事は秘密の婚姻だ。食卓の周囲に配され俺達の世話をしてくれたのは、王宮でもよりすぐりの腹心侍従のみ。ごくごく少人数だ。サーブする側の都合もあってか、食事内容も簡素なもの。とても王女輿入れの晩の飯とは思えなかった。


 だが王も王女も、なんだか幸せそうだったよ。楽しげに吉野さんやタマの話にツッコミを入れつつ、サタンやキラリンが大人ぶるのをからかったりしてな。


「それで……」


 テーブルのカップを取り上げると、タマゴ亭さん……じゃないか、シュヴァラ王女は口に運んだ。


「いつまであたしたち、お茶なんか飲んでるの。もうだいぶ夜も更けてきたよ」

「それは……いつまでだろ」


 なんだか落ち着かない。


「仕方ないなあ……。お嫁さんがたくさんいる人とは思えないわ。それでも遊び人?」


 距離を詰めてくると、俺の腕を抱いてくれた。肩に頭をもたせかけて。


「女のほうからこんなことさせるなんて」

「ご、ごめん……」


 姫様は、俺の首に手を回してきた。唇が近づいてくる。


「ん」

「……」

「……ん……ん……」


 舌で促すと、王女の唇は開いた。俺を受け入れるために。


「……ん……んん……んっ」


 体がぴくりと震える。唇が離れた。


「素敵……。平さん……キス、上手ね」

「そうかな」

「うん。あたし二回目だけど、初めてのときは高校の同級生で、なんだかごっちんってキスもどきだった。唇さえ触れ合わなかったもん。それより先におでこがごっちんして」

「コントかな」

「ほんとそう。あたしに告白してきて勢いでそうなったんだけど、なんか気まずくなっちゃって、彼とはそれきり。あれが初めての彼氏候補だったのに。それから……」


 くすくす笑う。


「ずうっとあたしには彼氏ができなかった。あれが唯一のチャンスだったのよ。でも……ようやく彼ができた。平さんという……素敵な人が……」

「タマゴ亭さん……」

「シュヴァラでしょ」くすくす

「ひ、姫様……」

「ほら……」


 タマゴ亭さんは、真っ白でふわふわの、婚姻夜着を身に纏っている。胸のリボンに、俺の手を導いた。


「リボンを解いて。旦那様だけが解けるリボンを。そうしてあたしを、平さんのものにして。吉野さんのように。これから一生、平さんだけのものに……」

「……」


 リボンには魔法が掛けてあるようだった。あれほど固く結ばれていたのに、両端を引くと、すっと解ける。上から下まで。自然に服が開くと、首から太腿まで、タマゴ亭さんの体が晒された。室内を照らす、満月の光に。


「きれいだ……タマゴ亭さん」

「もうそれでいいわ」くすくす


 呼び方はともかく、きれいだというのは本音だ。控えめだが張りのありそうな胸。先もすごく小さいので、年齢よりも幼く感じる。はかなげな腹の下に、かわいらしい下着がある。下着の前だけぷっくり膨らんでいるのが、胸や体の幼さと反していて、やたらと色っぽい。


「触って。胸も体も、全部ご主人様だけのもの。まだ誰にも……触れさせていない」

「……」

「どきどきしてるね」

「なんだか怖いもん。……けど嬉しい。不思議な感情ね。自分でも不思議」

「かわいいですよ」

「あっ……」


 ゆっくり動かすと、姫様の体が震えた。


「なんだか……びりっとした」

「怖いかな、まだ」

「触ってもらったことないし、男の人に」

「優しくするから、大丈夫」

「うん……。信じてる、平さんのこと……あっ」


 また体が震えた。だらんと手を垂らし、無防備に俺の手に体を任せている。ぴったり合わされた太腿が、もじもじと動いている。


「もう止まないよ俺、姫様」

「わかって……る」


 蚊の鳴くような声だ。普段のおきゃんな下町娘からは想像もつかない。


「脱がせていい?」

「脱がせて……。平さんのものにして」


 荒い息で、また唇を求めてきた。キスに応えながら俺も服を脱ぎ、王女の下着をむしり取る。


「姫様……」

「平さん……好き」

「好きですか」

「うん。……予想よりずっと早く好きになった。自分でも信じられないくらい」


 じっと俺の目を見つめてくる。きれいに澄んだ瞳で。


「一生愛して……平さん……」

「寝台に」

「うん……」


 もつれ合うようにふたり、ベッドに沈んだ。



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