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7-1 トリム復活!

「皆さん揃いましたね」


 ドラゴニュートの里。その中心にある聖堂に、俺達は集合した。邪神の影との戦いから一週間ほど。マナ噴出がすっかり元に戻ったのを確認して準備万端、いよいよトリム復活の儀式を行うと、魔道士グローアがゴーサインを出したのだ。


「頼む」


 懐から俺は、「トリムの珠」を取り出した。聖堂の供物台、八芒星テンタグラムが描かれた真ん中に置く。


「よく頑張ったな、トリム」


 ルシファー戦で俺達を救う代わりにトリムは命を差し出し、エルフ巫女禁忌の魔法を唱えた。自らの身体を全てマナに分解し、その力を用いて究極のマナ召喚魔法を紡ぎ出す奴。


 トリムの命はそれで尽きるはずだったが、俺への気持ちが魂だけは現世に留まらせ、この珠となって結晶化した。この珠に大量のマナを注ぎ込み、グローアの一族だけが起動できるという古代魔導術を施せば、トリムの体は再構成され、現世に戻る。……理論的には。


 トリムの瞳と同じ色の珠は、気のせいかうれしそうに見える。


「よしよし……」


 珠の表面を撫でてやった。


「待たせたなトリム。今から蘇らせてやるぞ」

「いよいよ。いよいよね、平くん」


 吉野さんも感慨深げだ。


「トリムちゃんの声、早く聞きたいわ、私」

「あたしもだ」

「ボクも」

「もちろん、私もだ」


 皆、口々に同意している。


「ダークエルフのあたしが婿殿とことさら仲良くなったから、トリムの奴は嫉妬しているに違いない」


 ケルクスが、俺の首に腕を回してきた。


「この姿を見れば、現世に戻る元気も湧こうと言うものよ」


 俺にキスしてくる。横目でトリムの珠を見つめながら。


「トリムよ。絶対蘇るのだぞ。いいか、一生分の力を使え。でないとあたしに婿殿を取られるぞ」


 ケルクスなりの激励なんだろう。ダークエルフとハイエルフは本来、犬猿の仲。それでもふたりは俺の嫁として友情を育んできたからな。なんだかんだで一番仲良くなったし。俺と三人で寝台を共にするほどにも。


「グローア様。平殿とお仲間は、ドラゴニュートの恩人。我等からも、よろしくお願い致します」

「わかっています」


 微笑むとグローアは、真剣な眼差しとなった。


「では……儀式を始めます」


 深い息を数度繰り返すと、トリムの珠に触れた。優しく表面を撫でている。ふと、珠から湯気のようなものが立ち上り始めた。微かに紫に色づいている。


「マナだよ、ご主人様。地下から開放されたマナが、聖地の地脈を通して八芒星に流れ込んでるんだ」


 俺の肩に立ったレナが、耳元で囁いた。


「肉眼で見えるほど濃いマナなんて、滅多にないよ。奇跡だよ、これ」


 瞳を閉じたまま、グローアはなにか呟いている。古代の魔法だからか、マナ召喚魔法というのに発動まで時間が掛かるんだな。


 詠唱魔法と異なる原理だから、普通はマナを一瞬で召喚できるんだがな。戦闘では、詠唱時間が致命的な弱点になることもある。その欠点がないのが、マナ召喚タイプの魔法だ。ただし、これはこれで、戦闘フィールドのマナ量に威力が左右されて安定しないという欠点がある。


「高まってきたよ。信じられないほどのエネルギーが、トリムの珠に注がれてる……」


 レナも興奮気味だ。この儀式をマリリン博士に見せたら喜ぶだろうなあ……と、ふと思った。絶対あいつ、マナ測定マシン「マナマナくん」とか作って持ち込みそう。


「あっ!」


 思わずといった様子で、レナが叫んだ。


「すごい……」


 俺も無意識に口にしていた。まるでアルコールを燃やしたかのように、無色透明のまま、凄まじい熱気が、珠の周辺から湧いて出ている。すぐ近くにいるグローアが火傷で倒れそうなものだが、平然としている。もしかしたら熱じゃないのかも。熱のように感じられる魔法のパワーかなにかかもしれない。


「トリムニデュール……」


 グローアが声に出す。


「あなたを愛する仲間が待っている。私が体を再構築する。自らの魂の欠片に戻れ。ヴァルハラの地での、栄誉ある休息は終わった」


 突然、珠を強く握り締める。


「帰還せよ! トリムニデュール!」


 叫んだ瞬間、グローアの口から大量のマナが放出された。珠にまっすぐ注ぎ込まれる――と思う間もなく、珠は黄金に輝き出した。太陽が落ちてきたかと思うほどの。あまりの光量に思わず、目を固く閉じた。


 どのくらいそうしていたのか、光が弱まりようやく目を開けられるようになった。眩しさでくらんではいるが、ようやく周囲の光景が見え始めたら……聖台の背後に、トリムが立っていた。懐かしい姿で。瞳を閉じ、両手を胸の上に交差させ、まるでエジプトのミイラのような形で。


 トリムの瞳は、ゆっくり開かれた。


「……」


 最初は焦点が合っておらず、ここがどこかもわからない様子だったが、すぐに表情に生気が戻ると、瞳が俺を捉えた。


「平……」

「トリム……」


 腕がゆっくり下りた。トリムの足が一歩、前に出た。俺に向かい。俺を求めるかのように。


「平……」


 そのままよろよろ進んでくる。


「平……平……」

「トリム……」

「平……の……」


 両腕を広げた俺に、駆け寄ってくる。俺は抱き締めようとした……。


「バカーっ!」


 いきなりはたかれた。


「毎日毎日、寝台であたしにエッチな行為見せつけて。どういうことよ」


 えっ……。俺の思ってた「感動の再会シーン」と違うんですが、それは……。



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