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5-8 ポイズナスクローラー戦

「エンリル、右だっ。回り込まれた」

「わかっておる」


 エンリルがドラゴンの杖を振りかざすと、噴き出た炎が俺達の右前の側面を薙ぎ払った。暗闇が明るくなった瞬間、牙を剥いたなんちゃらクローラーの姿が浮かんだ。


「ご主人様、左も」


 レナが俺の胸を叩く。


「くそっ! 吉野さん」

「うん」

「数が多い。タマ、左側面の敵の頭を蹴り飛ばせ」

「ボス」

「敵は素早いよ、お兄ちゃん。想像以上だ」

「わかってる。ケルクス、お前は正面だ。数が多い。なるだけ近づけさせるな」

「婿殿」


 もう戦闘が十分以上続いている。想定外だったのは、エリーナのバンシースクリームが効かなかったこと、それにムカデとかイモムシから想像するよりはるかに素早く、敵が動き回るためだ。スクリームが効かない以上、おそらく聴覚はないのだろう。それにこの素早さ。いつぞや橋の上で戦った虫系アンデッド「冬虫夏蠍」を思い起こさせる。ムカデ野郎のくせにゴキ並ってことさ。


「ご主人様!」

「わかってる」


 目前に飛んできた敵を、剣で両断した。切断面からなにかの液体が飛んできて、俺の腕を濡らす。


「痛っ!」


 赤熱した鉄棒を押し付けられたようだ。飛び上がるほど痛いし、ひりひりする。唾液だけでなくどうやら、野郎の体液にも毒があるようだ。


「平さん」


 エリーナとキングーがポーションと毒消しをかけてくれる。


「平ボス」


 隙あらば突っ込んでこようとするムカデ野郎を蹴り飛ばし踏み潰しながら、タマが叫んだ。暗闇に走る炎で、猫目がキラキラ輝いている。


「中央奥にどでかい奴がいる」

「マジかよ」

「形状は他と同じ――っ」


 飛びかかってきた奴をかわし、頭を踏みつけている。


「――でも三倍はある」


 左側面をクリアし、タマは正面に駆け戻ってきた。


「博士、どうです」

「そうねえ、平くん」


 命がけの戦いの最中というのに、マリリン博士は悠然と構えていた。俺達チームの中心に陣取り、手に持つ動体センサー「まっくらくん」をぽちぽち操作して。


「たしかに大きいね。そいつを取り囲むように護衛らしき一団がいるし、女王蜂みたいなもんかもね。インセクツ系モンスターだし」

「ご主人様、きっとクローラークイーンだよ。多分……群れをコントロールしてる」

「だから横を取ろうとするとか、妙に戦術的なんだな。たかが虫のモンスターなのに」

「おう。そいつは楽しみだ」


 エンリルが俺の腕を掴んだ。


「平、王者の顔を見に行くぞ」

「よし」


 俺は瞬時に決断した。


「ケルクス。お前と吉野さんは残ったチームの魔導役だ」

「了解」

「ドライグ。お前は守備チームの前面に立て。魔法で狩り残した野郎を潰せ」

「前衛だな。楽しむわい」


 トリムがいればな……。


 脳裏に、俺の大事なハイエルフの笑顔が浮かんだ。あいつは弓矢での連射が得意。魔法とはまた違う遠距離攻撃で残ったチームを守れるんだが……。


 俺を助けるために身を捨てたトリム。あいつを蘇らせるために、俺はここで踏ん張らないとならない。


「タマ、一緒に来い。暗闇を見ろ」

「任せろ、平ボス」

「行くぞっ!」


 ときの声を上げながら、俺は駆け出した。剣を振りかざしたまま。タマが足場を見ながら先頭を進み、エンリルが炎で敵を焼きつつ道を指し示す。


 俺達三人は突っ走った。回復役を連れてきていない。それだけに迅速に勝負をつけないとならない。長引けば俺の負けだ。一気に敵地奥深くまで侵入し、ボスの首を取る。


 言葉にせずとも、タマもエンリルも、それはわかっている。敵を焼き潰しながら駆け込んだ俺達の前に、ひときわどでかいムカデ野郎が見えてきた。あれがクローラークイーンって奴なんだろう。


「護衛を焼け、エンリル」

「わかっておるわい」


 エンリルがバトンのように杖を回転させると、炎が三百六十度全てに飛んだ。器用に俺とタマの位置だけは避けているのが凄い。どういうコントロールだろうな、あれ。気味の悪い絶叫を上げながら、ムカデ野郎が次々、炎に包まれてゆく。


「ご主人様」


 防具の中から、レナが俺の胸を叩いた。


「クイーンの表皮はことさら硬いよ。だから首と胴体の間の体節を狙って。剣で突き通すんだ」

「わかった」


 ――そう答えたものの、敵は首をもたげている。頭頂の位置は、地上二メートル。致命傷を与えられる高さではない。


「タマ、いつぞやの奴をやるぞ」

「よし。混沌神のときの戦法だな」


 前方の敵を一度牽制すると、タマが駆け戻ってきた。


「目が回る。少し我慢してくれ、平ボス」

「タマに抱かれるのは慣れてる。マンションのベッドでな」

「減らず口がきけるなら、大丈夫だ」


 俺を抱え上げる。


「寝台で抱き合えるとはよいのう……。余も交ぜてもらおうか、平よ」

「ああ。この戦いが終わったら、みんなでイチャイチャしよう」

「ご主人様、それヤバいフラグ……」


 現実世界のコミックとか、マンションでやたらと読んでるからな、レナは。ヘンにネットのジャーゴンに詳しい。


「行くぞっ。ボス」


 タマが俺を振り回した。砲丸投げのように回転する。


「やっ!」


 掛け声と共に、俺を放り投げる。一直線に。敵ボスの喉笛を狙って。


 じいさまの形見、バスカヴィル家の魔剣を、俺は構えた。


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