pr-4 グリーンドラゴンの秘密
「ふう……」
巣穴の寝台に横たわり、エンリルは溜息をついた。
「さすがは平、嫁四人を失神にまで追い込むだけのことはある。圧倒されたわい。強い男よ……」
体を起こすと、俺の胸に口を着けた。
「こうした行為は初めてだが、いいものだのう……。平のことを、これまで以上に愛おしく感じたぞ」
ちゅっと音を立てて、また口づけしてくる。
「これでもう余は、平の嫁じゃ」
胸に頭を乗せ、頬ですりすりしてくる。誰がどう見てもかわいい美少女だが、元の姿を知っているだけに俺は微妙だ。キスするったって、元が大型ヘビトカゲだからな。……まあ媚薬に押し流されて、そのヘビトカゲを嫁にしちゃったわけだが。クソっ。
「抱いてくれ、平」
「ああ……」
ぐっと抱き寄せてやると、エンリルの口から吐息が漏れた。
それにしても胸があるってことは、子供に授乳するんだろうか。ヘビトカゲみたいなものなのに、哺乳類のように。それとも婚姻形態を魅力的に見せ人型雄を誘うための、擬態の一種なんだろうか……。マリリン博士に教えたら大興奮ものだな、これ。
「なあエンリル」
「なんだ平、まだしたいのか。なんだか恥ずかしいのう……」
俺の脇に顔を寄せ、くすくす笑っている。
「昨日あれだけ四人を相手にしたというに、余を三度も抱いて、まだ足りぬか。さすがサキュバスの契約者だけあるわい。レナからよほど精力を注ぎ込まれておるのだな」
「お前、俺が死ぬと思ってるんだろ。次の大陸で。危険に満ちた大地だから」
「……まあ、恐ろしい地ではある」
言葉を濁した。だが否定しなかった以上、その可能性は高いと考えているのだろう。
「だからその前に、俺の精が欲しかった。俺が死んだら、もう子種を得られないから。違うか」
「それは……」
エンリルは言い淀んだ。一瞬、悲しげな表情を浮かべて。
「秘密だ。だが平がそう思うのなら、余は悲しい。……今はそれだけ知っておれ」
「そうか……」
エンリルの髪を、しばらく撫で続けた。どうもそういう訳でもなさそうだ。受精のためだけのドライな関係なら、俺の死後、別の男を探せばいいだけの話だし。むしろそちらのほうが簡単だ。なんせこの美少女姿だからな。まあ……その前にドラゴンつがいとしての資格があるかどうか、どえらく審査はされるだろうけど。
「なあエンリル。もうひとつ教えてくれ」
「なんなりと」
もう何十回めかはわからんが、小鳥のようにキスをし合う。
「ドラゴンは人型種族と契るんだな」
「そうよ」
「ならその……イシュタルはどうなんだろうか。グリーンドラゴンだって、ドラゴンロードと、基本は変わらんはずだ」
実はさっきから気にかかっていた。イシュタルの巣穴に、吉野さんは毎月マッサージに行っている。まさかとは思うが、そこで人型になったイシュタルに口説かれてないだろうな。吉野さんはイシュタルのドラゴンライダー。無理やり襲うようなことはないと思うが……。
「なんだ、そんなことが気になるのか。嫁思いだのう……。吉野がうらやましいわい」
大声で笑うと、ごろんと仰向けになった。形のいい胸が、誇らしげに天井を指している。
「イシュタルは余と同じ。雌じゃ」
「そ、そうか……」
「ドラゴンの種を人型種族に孕ませたら、その娘は子を産むどころか、腹が破裂して死んでしまう」
それもそうか。種族違いの妊娠は難しそうだ。ドラゴン側が雌なら、「そういう繁殖をする」体に元々生まれてるんだから、問題ないんだろう。
「したがってドラゴンの雄は淘汰され、雌しか残っておらん。……少なくともこの大陸には」
ゴブリンの逆パターンだな。
「別大陸には雄のドラゴンがいるのか。俺が行く場所に」
ドラゴンに敵対されると危険だ。エンリルもイシュタルも呼べなければ、ドラゴン間の交渉もできない。ドラゴンは高速移動でき、あっという間に現れる。気づかないうちに頭の上に来てブレスを吐かれたら、キラリン退避を使う間もなく全滅だ。
「いや、向こうには、余やイシュタルのようなドラゴン形態はおらん。雄も雌も」
「ならいいか。それにイシュタルが雌なら、吉野さんも安全だし」
「それはどうであろうかのう……」
上を向いたまま、くすくす笑った。そうすると胸が揺れる。俺をまた誘うかのように。
「イシュタルは変わり種。どうやら女好きのようであるぞ。……特に吉野を」
「いやいやいやいや」
マジかよ。
「それは困る。百合ドラゴンとか勘弁しろよ」
「イシュタルも、最近機嫌がいいでのう……。はてはて、吉野と情を通じ合っているのやも」
「冗談よせよ」
「心配なのか」
「そりゃそうだろ。お前みたいに媚薬を使って吉野さんを陥落させるかもしれんし」
「ああ、あの茶か……」
面白そうに含み笑いする。
「な、なんだよ」
「あれには催淫効果などない。ただうまくて栄養に満ちた、宝茶よ」
「へっ?」
「お前は心から余を抱きたいと思ったから、抱いたのだ。自らの欲望のままに」
「騙したのか」
「違うのう……」
楽しそうに、俺の体を横抱きにしてきた。
「お前が自分の魂に正直になれるよう、ちょっとした暗示をかけただけよ」
なんだよ。「効果」とか口走ったのも、俺に勘違いさせる策略か。
「平、お前は余を愛おしく感じ、愛してくれたのだ」
また、ちゅっと胸にキスしてくる。
「だからこそ余は、お前の嫁になった。先程な。そして……」
にじり上がると、俺の目をじっと見下ろす。長い髪がざっと流れて、俺の胸をくすぐった。
「そしてこれからもずっと嫁じゃ……。お前に望まれる限り」
またキスしてきた。