8-7 嫁の誓い
「はあ……はあ……」
腕枕で俺に抱き着き、トリムは荒い息だ。裸の体から、汗が次々湧いてくる。
「痛かったか、トリム」
「平気……」
それだけやっと口にしたものの、心ここにあらずといった雰囲気。
「かわいかったぞ」
抱き寄せると、汗の玉が流れ落ちた。背中を撫でてやる。
「よく頑張ったな」
「あたし……どうしたんだろ」
ようやく意識がはっきりしたのだろう。俺の肩に頭を乗せてきた。ちゅっと音を立てて、俺の体にキスしてくる。
「いつも平とキスするとぼんやりするけど、今のとは……全然違ってた」
「どう違ってた」
「体の内側からなんか、よくわからないのが急に上ってきて、気が遠くなって……」
ふうと息を吐いた。
「その瞬間、すごく幸せを感じた。平が愛おしくなって……、あたしの体と魂、全てが平に捧げられた感じ……。あたしは……平のもの。平だけのもの……」
顔を起こすと、俺をじっと見た。透き通った、ハイエルフの瞳で。
「あたしもう、平のためならなんでもできるよ。なんなら死んだっていい」
「ありがとうな。でも、俺のために死ぬなんて言うな。俺のためを思うならお前は、俺と自分のために生きるんだ」
「あたし自身より平のほうが、あたしにとっては大事なの」
手を伸ばし、俺の頬を撫でてくれる。
「さっき平のために戦って怪我したときにも、それ思ったんだよ。……そして今は、あのときの千倍も感じてる」
「それが愛だよ。俺だってトリムのためなら、なんだってできる」
「愛……」
トリムはくすくす笑った。
「さっきしてくれたこと、あれも愛の形でしょ」
「ああそうさ」
間違いはない。
「なら……平、また愛してくれる?」
「ああ。いつでもいいぞ」
なんなら今すぐでもな。サキュバスのレナと契約した結果、俺の肉体は魔改造されてしまった。無限とも思える精力を手に入れたからな。
「これでもう、あたし平の嫁だよね」
「ああそうさ。どこに出しても恥ずかしくない、俺の自慢の嫁だ」
「……お嫁さんがこんなことするなんて、知らなかった」
「かわいかったぞ、トリム」
「吉野さんやレナも、平の嫁でしょ」
「そうだよ」
「こんなこと、してるの?」
「ああ」
レナは夢の中がほとんどで、あんまり現実ではしないけどな。
「タマとも」
「そうだ」
「ケルクスとは? ねえケルクスとは」
「……まあ」
次々訊かれると、なんだか恥ずかしいわ。
「何回?」
トリムは体を起こした。
「何回したの、ケルクスと」
「そりゃ……」
露骨な質問だ。それでもちょっと考えてみた……。
ケルクスとは基本、新月の晩だけ。その日ふたりでダークエルフの集落に飛んで、ケルクスの家でひと晩過ごす。つまり月一度だ。
「さ……三回くらいかな」
「さ、三回……」
トリムは絶句した。
これは正しいが、嘘っちゃ嘘だ。月イチ逢瀬とはいえ、その晩は明け方まで寝かせないからな。だから正しくは「三回」じゃなくて「三晩」だ。正確な回数なんか、覚えてやしない。五十回以上なのは確かだろう。
「こんなに痛いことを、三度も……」
トリムは絶句している。
「大丈夫。特に最初が痛いんだ。トリムもそのうち痛まなくなるよ」
「本当?」
「ああ、本当さ」
「ならあたし、五回する」
「は?」
「五回だよ、平。ダークエルフなんかに負けないもん」
また俺の胸に、キスしてきた。
「ねえ平、今から四回、してよう……。まだ夜中にもなってないし。……さっき、いつでもまたしてやるって言ってたよ、平は」
言質取られてた。まあ実際言ったしなあ……。
「いいけど……」
精力なら問題ない。ただ……。
「でも今日だと多分、ずっと痛いだけだぞ、お前」
「いいよ。平なら我慢する。……大好きだから」
「じゃあ試してみるか」
「わーい」
喜んで、俺を抱いたまま柔術のように体をくねらせ、俺を上にしてきた。
「はい、どうぞ」
下から見上げてくる。……やっぱ、なんか違うわ。