表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
306/444

4-1 ふたりの嫁力

「なんと。アールヴが生きておったと言うのか」


 俺達の報告を聞いたケイリューシ王は、玉座から滑り落ちなんばかりに驚いていた。


「はい。ほんの数日前までは。集落の規模からして……おそらく千人くらい」

「それが今では、安否不明の王女だけか……」


 眉を寄せている。


「あなた方は――」


 いつものようにケイリューシ王の脇に座るコルマー王妃が、身を乗り出した。


「アールヴと会話したのですね」

「ええ王妃」


 吉野さんが頷いた。


「ンターリーという、国王の補佐でした」

「国王はンカールという名前だったのですね」

「そう言っていました」

「そう……」


 椅子の奥深く、座り直した。


「ンカール王とンターリー様、そしてアールヴの民に魂の安息が訪れるよう、祈りを捧げましょう」

「ケイリューシ様、コルマー様」


 トリムが一歩前に出た。


「ンターリーは、アールヴとエルフ諸族、そして平の友愛に祝福を与えて事切れました。それは見事な詠唱で……」

「さすがはアールヴ。伝承のとおり、魔力に恵まれているだけありますね。……その力、生きて使うことができたなら、どれほど世界を救ってくれることか」


 コルマー王妃は、溜息を漏らした。


「返す返すも残念です」

「わしらと友誼ゆうぎを通じてくれたというなら、アールヴを滅ぼした連中をこのままにしておくわけにはいかんのう」


 ケイリューシ王の瞳は、怒りに燃えていた。


「平殿、もうブラスファロンにも報告したのか」

「いえ……」


 俺はケルクスを見た。俺をまっすぐ見つめると、頷いている。


「この後行きます」

「そうか。ではブラスファロンに伝えてほしい。ハイエルフはアールヴのため、派兵する用意があると。……おそらくブラスファロンも協力してくれるはずだ。祝福を受けたなら応えるのが、古き掟」

「でもケイリューシ様」


 レナが割って入ってきた。


「ボクたち、シムルグールを見ました。ルシファーが使役してると思います」

「なんと」

「馬鹿なっ」


 王の側に控えるハイエルフの近衛兵たちが、職務の戒律も忘れ、思わず大声を上げた。


「シムルグール。不浄なるドラゴンか……」


 ケイリューシ王は、魂が抜けたように玉座に体をもたせた。


「それはとてつもなく厄介だ。太古の時代、連中はドラゴンが防いでくれた。だがもはや、この大陸にドラゴンはほとんどおるまい。平殿と吉野殿がドラゴンライダーとして友誼を通じる二体を除けば……」

「大人数の軍を派遣したらあっさり見つかるし、弓矢も魔法も届かない上空から攻撃されると思うよ」

「ではどうしたら……」

「とりあえず、ボクたちが様子を探ってみるよ。少人数だし、どうせアールヴの里には、もう一度戻らないとならないし」

「母……天使イシスにも聞いてみましたが、シムルグールは普通の魔物ではありません」


 キングーが付け足した。


「使い手が操る、ゴーレムのようなもの。平さんなら、ルシファー軍の弱点を見つけられるかもしれません」

「お兄ちゃんなら大丈夫。あのオオウナギ見た晩、鰻重を三人前も平らげたからね。あんなん、チョチョイのチョーイでしょ」


 キラリンがわけのわからない参戦の仕方をする。それに三人前食ったの、お前だろ。俺は二人前だったし。


「あたしが平ボスの目となり耳となる。隠れて探るのにはベストのパーティーだ」


 タマが俺の腕を取って甘えてきた。人前でタッチしてくるとか珍しいな。もしかして二回目の発情が近いのかもしれない。


「ああわかったわかった」


 ケイリューシ王は手を振った。


「平殿のパーティーなら、頼りになる。それは認めよう。……ダークエルフの魔道士が嫁に加わって、ますます力が増したしのう」


 呆れたように笑う。


「あたしもいるしっ」


 タマの反対側の腕を、トリムが取った。ぎゅっと強く胸に抱き、よせばいいのに、俺の肩に頬をごりごり押しつけてくる。いやそれ、甘えてるんじゃなくて、大根おろしのやり方だ。


「そうであったな。トリムは優秀な巫女……になるはずのハイエルフだったし。頼りになる」


 ケイリューシ王は苦笑いしている。


「トリムは立派な嫁ですよ」


 ケルマー王妃が、優しく語りかけてきた。


「自信を持ちなさい、トリム。あなたは素敵です。平も大事に思っている。――そうでしょう、平」

「王妃のおっしゃるとおりです」

「では当面、平の行動に任せよう」


 ケイリューシ王は、俺の目をじっと見た。


「わしがそう言っていたと、ブラスファロンにも伝えよ。だが無理をするでないぞ、平」

「はい」

「危ないと感じたら、すぐ逃げ帰れ。平の命を捨ててまで、アールヴの友情に応える必要はない。残念ながら……滅んだ民だからな。……おそらく王女も」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ