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左遷の鬼──異世界に追いやられたモブ社畜最強説──社内のカスどもを俺は蹴散らすぜ  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
6 ドラゴンの盟約

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6-5 ドラゴンの花嫁

「それで、王家とドラゴンとの守護契約には条件があって」


 タマゴ亭さんの話は続いた。


「それが、一代にひとり、王女を差し出すって奴」

人身御供ひとみごくうだな」


 タマが唸った。


「情けない王家だ」

「領民を守るための、王としての判断だ。親として娘を見殺しにするのが楽しいわけがない。それくらい察してやれよ、タマ」

「ドラゴンに食べられるとか、嫌すぎますね」

「いえ吉野さん。お嫁さんになるみたいな話で」

「それはそれで、アレだよなあ……。なあレナ」

「ドラゴンは巨大だし、入らないですよね、ご主人様。体が裂けちゃう」

「えーと……」


 サキュバスの露骨な感想に、吉野さんがもじもじした。


「いえ婚姻と言っても、そういう方向でもないみたいで」


 あわててタマゴ亭さんが首を振った。村長の説明によると、なんでも身の回りの世話をするための婚姻なんだそうだ。


「お世話係ってことか」

「ええ。手の届かない背中をかくとか」


 吉野さんがほっと息を吐いた。龍との婚姻と聞いてなんか知らんが盛り上がってたみたいだからな。気が抜けたんだろ。


「そりゃ大事だよな。ドラゴンの手……というか脚じゃあ、背中なんかかけそうもないし。俺だって、孫の手なかったら死ねるし」

「今はボクがかいてあげてるじゃない、ご主人様」

「そういやそうか。あれは助かってる」

「お風呂でかいてあげると、ご主人様、すごーく気持ちよさそうな顔になって……」

「お、お風呂一緒なの?」

「当たり前じゃん、吉野さん。ボク、サキュバスだし」

「エッチなことはなんにもないけどな。レナお前、誤解招く発言やめれ」

「はい。えへへへ」


 などと脱線しつつも聞き出したところによると、現王は娘を出すことを嫌がった。他に子がなかったからだ。契約にそむくには代償が必要。王はドラゴンと、とある約束をかわした。今代の王女を差し出す代わりに、王家の宝を与えると。


「なんだ、先祖はみんな泣く泣く娘を出したのに、わがままな奴だな」

「王様だって人間だもん。そのくらいは許してあげなよ。あたしだって気持ちはわかるし」


 珍しく、タマゴ亭さんにたしなめられた。


「それもそうか」

「ただ、王女の気持ちはまた別だったみたい」

「どういうことよ」

「なんでも王女は、退屈な城暮らしに飽き飽きしてたって。外に出られるなら、ドラゴンの嫁でもなんでもいいって思い詰めてたみたいだし」

「感情がもつれたのね」

「そうみたいです。吉野さん」


 そういや王都は王女問題で揺れてるとか、村長も言ってた。このあたりと関係あるかもしれないな。そのうちもっと尋ねてみるか。


「ドラゴンは強欲で、宝物を巣の奥にしまい込む習性があるんだよ、ご主人様」

「それは聞いたことあるわね。西洋の龍伝説の特徴だとか」


 吉野さんは、しきりに頷いている。なんでも、西洋のドラゴンと東洋の龍だと、ずいぶん性格も性質も異なるそうだ。今度調べてみるかな、俺も。


「王家の宝をドラゴンの元に届けるため、七人の隠密隊が組織されたんだって」


 だが途上、モンスターに襲われ、無残にも全員殺されてしまった。その現場に通りかかったのが、この跳ね鯉村の村長だったんだと。


「村長も死ぬだろ」

「もう戦闘は終わり、モンスターはいなかったって」


 隠密隊のひとりだけ、虫の息ながら生きていた。そして村長に託した。ドラゴンの元に宝を渡してほしいと。


「んな無茶な。連中、ただの村人だぞ。山奥のドラゴンの巣になんか行けるわけない」

「隠密隊は、死の間際、魔法でドラゴンに連絡したんだって。こういう経緯だから取りに来いと」

「わかった」


 吉野さんが手を叩いた。


「湖のほとりで受け渡ししたのね」

「そう。宝を得たドラゴンは、王都にほど近い辺境に住まいを移した」

「つまりこのへんってことか」

「湖が気に入ったらしいんだ」

「それで、場違いなサンドワームが出たのね」

「いろいろ辻褄は合うな。それに、俺達にも吉報だ」

「どこが?」

「だって吉野さん。ドラゴンは王家と王領を守護するとわかったし。人間を襲うはずがない」

「それはどうかな」


 タマに鼻であしらわれた。


「ボスもボスのボスも、ドラゴンから見れば異世界人。それにあたしとレナは異世界人の使い魔だ。王家とも王領とも無関係のパーティーということになる」

「それもそうか。王領を守るってだけで、人間を守るって話じゃないもんな」

「ドラゴンは生命力が極端に高いから、長い間絶食しても問題ないんだよ」


 例によってレナが解説を始めた。


「でも食べるときはすごいよー。十年に一度くらい、とにかくなんでも口にするみたい。人間を襲うことは少ないけど、気に入らない奴は別らしいし」

「空腹じゃなけりゃ大丈夫か」

「ううん」


 首を振った。


「そのときは、単に殺すだけだよ」

「ダメじゃんw」

「それより宝ってなんだろ、ボク気になる」

「だよなー」

「それは村長も知らなかった。なんでも魔法で固く施錠された頑丈な箱に入ってたみたい」

「へえ」

「でも小さいって。だから村長ひとりだけで持っていけたんだって」


 タマゴ亭さんの話は終わった。


 どんな田舎にもドラマはあるんだなー。まあ俺らには関係ないことだけど。サボるためにここにいる。ドラゴンがいそうなあたりなんて、近づかなきゃいいのさ。


 このとき、俺はまだ知らなかったんだ。この村の伝説に、すぐ俺達が巻き込まれることになるなんて。

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