ep-11 旧きエルフ、アールヴの遺言
「おう、平殿」
タマゴ亭異世界王都ニルヴァーナ支店。いつもの常連席に収まったヴェーダ図書館長が、入ってきた俺とパーティーを見て手を上げた。
今はランチタイムが終わって夜の仕込み中。つまり営業時間外のはず。実際、スタッフが周囲で忙しく立ち働いているが、常連席でひとり上機嫌だ。仲良くなったエルフの行商人、ラップちゃんはいない。まあ行商に出るって言ってたから、考えたら当然だが。
「飲みに来たのか。ちょっと待っておれ」
勝手に厨房に入り、大きな水瓶に沈めてあるなんちゃってビールを沢山抱えると、戻ってきた。誰も咎めないから、常連として特別に許されてるんだろう。
なにか揚げ物の音がしていて、香ばしい香りが漂っている。弁当食ってまだ二時間とかだけど、俺もなんか腹減ってきたわ。
「ほれ。乾杯しよう」
俺達の席に、自ら並べてくれる。
「平殿、また寿命を回復したらしいのう。めでたいことじゃ。シュヴァ……誰ぞに聞いたわい」
またぞろ、王女の正体バラしそうになってんな。
「さ、祝いの乾杯じゃ」
「ありがとうございます」
グイーッ。
ぷはあーっ! うまいな。昼のビールは最高だわ。なんちゃってビールと言えども。
「おいしいねーっ」
秒で飲み干したキラリンが、ヴェーダの真似して厨房に突撃、水瓶に手を突っ込んでいる。誰も止めない。
「キラリン、あたしの分もね」
「わかってるって、トリム」
まあ勝手にやってくれ。こっちはこっちで、用がある。
「今日はちょっと教えてほしいことがあって」
「なんじゃ」
「エルフの一種、アールヴのことなんだけど」
「アールヴ。……これはまた、面白い話題だのう」
ヤモリ這う天井を見上げると、しばらくなにか考えていた。
「なにを聞きたいのじゃ」
「邪の火山、その麓にアールヴの遺跡があるとか。アールヴ全体について教えていただけないでしょうか」
「アールヴは、エルフでも最古の種族。それだけに、容姿から習俗まで、古い時代の姿を残しておる。邪の火山におったとか、わしは初耳だが」
「森を捨てたと聞いてます」
「ああ、そうじゃ。アールヴは先祖伝来の秘跡を多く残しておった。森からマナを抽出しなくてもいい方法を知っておったのだろう」
ひとくちなんちゃってビールを飲むと、先を続けた。
「アールヴは極端に秘密主義でな。その実態はほとんど知られておらん。滅んだという学者もいれば、どこかに小規模のコロニーを作って隠れ住んでおるとも。別の大陸に移住したと主張する説もある」
「アールヴは失われた三支族のひとつという情報を得ました。ダークエルフ国王から」
「それは興味深い。一度その国王と話してみたいものじゃ」
「前、エルフの魔法はマナ召喚系と教えてくれましたよね。アールヴはどうなんでしょう」
「正直、よくわからん」
首を振ると、テーブルに置かれていた串焼きを食べた。
「マナ召喚系なのは確かだが、どうやってマナを召喚しているのかは謎だ。もし邪の火山におったなら、なおのこと。あそこにマナが豊富にあるとは思えん。生活を成り立たせるのに、マナは必須なはず。どういう手法でマナを召喚したかは謎。おそらく、なんらかの特殊な手法を使ったのじゃろう。……わかったら教えてくれ」
うーん。ほぼフィーリーと同じレベルの話しか出ないな。
「種族としてのアールヴの特性はどうなんだろ」
レナが口を挟んできた。
「エルフにしては小柄。排他的だが、約束は守る。一度友誼を通じれば、命を懸けて助けてくれる。戦闘はほぼ魔法で行う。剣や弓は使わん。その意味で変わったエルフだ」
「へえ。さすがはヴェーダ様だ。よく知ってるね、ご主人様」
「そうだな。レナ」
「あと、ドラゴンに似ておる」
ヴェーダは、思わせぶりに頭を振った。
ドラゴンに……。それは一体、どういう意味なんだ。