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1-1 社内陰謀、蠢く

「遅かったな」


 銀座七丁目、例のワインバー。社長に呼び出された俺と吉野さんは、いつもの個室に案内された。


「遅いのでやきもきしたよ」

「すみません。経企の会議が長引いてしまいまして」


 吉野さんが頭を下げた。


「いいから早く。ほら、もうグラスに注いである。飲み給え」


 たしかに。赤黒い液体を満たした金魚鉢のようなグラスが、三つ用意されている。


 はやっw 珍しく、社長が俺達を待ちかねていたようだ。年末の椿事だな、これ。いつもはのらくら掴みようもないのが、狸社長のパターンなのに。


「まあこれは頑固だから、まだダレてはいないはずだ」

「いただきます」

「さて、本題だ」


 吉野さんと俺がまだひとくちめに口を着けているというのに、社長が切り出した。


「平くん。君は異世界でダイヤを入手したのか」

「……」


 わざとゆっくり、ワインを飲んだ。ダイヤ絡み、しかも社長の焦りよう。どうにもろくな話じゃないのが見えたからな。グラスを口から離さずゆっくり飲むフリをしながら、頭を整理した。


「はい。……この赤、変わった味ですね。ブルゴーニュですか」


 吉野さんに最近ワイン教育されてるからな。ちょっと味が変だったが、多分ピノ・ノワールとかいう葡萄品種だとはわかったわ。ピノ・ノワールで有名な産地はブルゴーニュだ。それにどうせ社長が選んだワインだから多分高級品。ならブルゴーニュって言っときゃ、当たる確率三割くらいはあるだろ。


「そんなのはどうでもいい。ダイヤの話だ」

「ですから言ったように、ダイヤは入手しました」

「どういう経緯だ」


 畳み掛けるように質問される。


「いえ普通に、現地人から個人的なお礼としてもらったものです」

「社長、平は現地人の村近くのモンスターを退治したり、国王の窮地を救ったりしました。その謝礼です」


 吉野さんがフォローに入ってきた。ヤバい話題だからな。


「それに向こうでは、ダイヤはたいした価値を持つものではありません」

「いずれにしろ、入手は事実なんだな」

「そうです」

「そうか……」


 初めて、社長はワイングラスを手に取った。一気に飲む。


「……こんなにまずかったかな、こいつ」


 なんかぼやいている。


「保存状態に、やや難ありですね」


 吉野さんが同意する。


「この店の保管に問題があるとは思えません。おそらく輸送過程でしょう」

「船便だったかな。程度の悪い」

「かもしれませんね」


 社長は、ほっと息を吐いた。俺に視線を移す。


「君の行動が、問題になっている」

「それより、どこから漏れたんです。ダイヤの話、俺は社内ではしてません」


 ダイヤを買い取ってもらった老舗宝石商「天猫堂」の、貴船マネジャーが漏らすとも思えない。資産家に食い込む商売だ。口が軽くては、長年に渡ってブランドを維持するなど不可能だろう。


「とある役員が言ってきた。社長公認ですか、とな」

「誰です」

「システム担当だ」

「はあ」


 三木本Iリサーチ社、俺と吉野さんをクーデターで追い出し、所轄役員となった八人のうち、ひとりだ。この八人のうちの誰かが黒幕臭いと、最高財務責任者の石元は睨んでいた。


「川岸だよ」


 社長は吐き捨てた。


「あそこからの情報らしい」


 やっぱりあの野郎か。


 俺のはらわたに、怒りが巻き起こった。

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