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3-6 腐った橋だろうが渡り切ってみせるぜw

 それやこれやで揃えた登山用品を抱えて、俺達は橋の脇に集合した。登山用ロープ、ロッキングカラビナ、メインロープと各人のハーネスを繋ぐループロープ、それになんやかやの細かなパーツとか。


 異世界への転送重量はコストに直に響くんで、例の嫌味な転送担当者には嫌な顔されたが、俺ももうシニアフェローだからな。社内の殿上人みたいな立場の俺には、前のように面と向かって嫌味言ったり馬鹿にしたりはしてこなかったよ。出世なんかどうでもいいが、面倒がひとつ消えたって意味では良かったわ。


「さて、準備は終わったな」

「本当に大丈夫かな、平くん」

「平気ですよ吉野さん。一緒に習ったでしょ」

「うん。……でもあたしたち、素人だし」


 吉野さんは不安げだ。まあわからなくはない。登山のロープワークには、想像以上にあれこれ細かなノウハウがあったんだわ。結び方とか個々人のセーフティーハーネスの取り回し。それにどのくらいの間隔で各人を配置するとかな。


 アウトドアショップの店員に謝礼を払って、あれこれ教えてもらったんだ。ただ彼の業務時間外の夜しかできないから、結局それに一週間かかった。


 なんせ安全に直結する装備だ。付け焼き刃の自分達が不安になる気持ちはわかる。


「ボクの見たところ、完璧だよ。吉野さん。ボク、スマホで事前にあれこれ調べておいたからさ」

「レナちゃんが言うなら、安心かな」


 ようやく、吉野さんは笑顔を見せた。


「なにかあっても、ふみえボスはあたしが守る」

「そうねタマちゃん。頼むわね」

「では行こう。タマ頼む」

「わかった。平ボス」


 バランス感覚に優れたタマとトリムを両端に置き、俺と吉野さんが間に入る編成。タマ、俺とレナ、吉野さん、トリムの順だ。


「いいか、一歩一歩、ゆっくりだ。それもひとりずつな。まずタマが一歩進む。タマはそこで停止。次に俺が一歩歩いて停止。次に吉野さん。最後がトリム。全員一歩だけ進んだら、タマが次の一歩だ」


 こうしておけば、全員で八本の足のうち、動くのはいつも二本だけで済む。腐った板を踏み抜こうが足を滑らせようが、残り六本の足で最大限に踏ん張れるからな。


 この手法だと渡河に数時間かかりそうだが、リスクはなるだけ低くしておきたい。


「歩く順番は、声を掛け合いながら確認しよう」

「わかった、平ボス。……では行くぞ」


 最初の渡し板に足を掛けると、タマが注意深く体重を乗せた。


 川風が渦巻く音やゆったりとした川の流れの音に交ざって、ぎしぎしと、嫌な軋みが聞こえる。


「タマ、渡し板は、特に安全そうな場所を選ぶんだ。腐ってそうな部分に足を乗せるな。お前の後を全員ついて歩くんだからな。それを忘れるな」

「わかってる、平ボス」


 背中で答えてくる。全員一歩踏み出したのを声で確認すると、またタマが一歩進んだ。足元が、また軋んだ。


「平ボス、三枚めの渡し板は危険だ。そこは踏まず、大股で四枚めに進む」


 なんだよ。まだ数歩しか進んでないってのに、もう腐ってる部分があるのか。先が思いやられるわ。


「了解。みんなわかったな。三枚めはパスだ」


 振り返って全員頷いたのを確認すると、俺はタマにゴーサインを出した。


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