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閑話 タマとデート1

「あー眠い……」


 俺はもう寝落ち寸前だ。


 だってさあ、とびきりうまかったタマゴ亭弁当タイムが終わって、俺達は今、気持ちいい草っ原。真っ只中で昼休みだ。


 まさしく薫風香るとしかいいようのない、暖かくて気持ちのいいそよ風が短い青葉を揺らしていて、眠気を誘う。たまらず昼寝タイムにしたってわけさ。


 どうせ午後はいつもどおりサボって遊ぶだけだし、時間はいくらでもある。蛮族の地を目指して旅立ったとはいうものの、まだシタルダ王領でおまけに街道を歩くだけだし、治安も問題ない。


 時折ポップアップするモンスターなんて、今の俺達からすれば雑魚中の雑魚みたいなもんだ。なんせ街道はそもそもモンスター出現率が低いかモンスターが弱いかの場所に作られるからな。たいていは両方だし。


 なら寝ててもいいじゃん。実際、吉野さんからタマ、レナ、トリムまですうすう寝息を立てているし。


「もうダメだ。俺は落ちる」


 まぶたがくっついたw それに逆らわず風の音を聴いていると、意識が薄れそうになる。


「……ス」


 どこかから声が聞こえてきた。


「平ボスのボス」


 落ちかけていた意識を戻して目を開けると、タマが俺の顔を覗き込んでいた。逆光で暗く落ちたシルエットで、猫目だけが輝いている。


「……どうした、タマ」


 やむなく、俺は起き直った。


「なにか問題でも?」


 見回したが、特に異常はなさそうに思える。明るい真昼の太陽に暖かく照らされて、あちこちに散らばった仲間が、気持ちよさそうに寝込んでいるだけだ。


「敵の気配でもあるのか」


 おもわず小声になる。タマは敵の気配に敏感だ。


「いや、そうじゃない。今なら全員、ぐっすり眠っているからな」

「そうは思うが……。なんか用か」

「ああ。話がある」


 こっちに来てくれと続けると、タマは草原の端、斜面をはるか見下ろす場所に俺を導いた。ふたり並んで座る。遠くの小川が、陽の光を反射して、きらきら輝いている。


「どうした。悩み事でもあるのか」


 タマは体も心も強い。それに寡黙だ。だから俺はあまり心配していなかったが、寡黙だけに人に言えないところで、なにか悩みを抱えていたのかもしれない。


 パーティーリーダーとしては、話を聞いてやらねばならないだろう。


「悩みというわけではない」

「ならなんだよ。マタタビの話か」


 俺の冗談にも黙っている。なんだかいつもと違うな。


「なあ平ボス。頭を撫でてくれ」

「えっ?」

「いいから。ほら」


 傾けるようにして、頭を差し出してくる。まあいいか……。


 撫でてやった。タマの頭を撫でることは、これまでも稀にあったしな。特に俺が怪我をして、治療のためにタマに舐めてもらっているときは、気分が高まるとかいう理由で撫でてもらいたがるし。


 いつもどおり、柔らかな猫毛が気持ちいい。耳を伏せて、タマは気持ちよさそうに瞳を閉じている。


 なでなで。

 なでなで。

 なでなで……。


「……平ボス」


 瞳を閉じたまま、タマが口を開いた。


「なんだ」

「最近、あたしの耳や尻尾にちょっかい出さないな」

「あー……」


 言われてみればそうだ。前はそのへん触って、よくからかったからな。まあたいがい噛み付かれて終わるんだが。


 タマは女の子なんだからもっと気を遣えって吉野さんに諭されて、それから触らないように意識してる。


「耳や尻尾は大事なところなんだろ」


 レナもそう言ってたしな。なんでも発情すると、そこ触り合って気分を高揚させるとかなんとか。


「俺もタマのこと尊重してるからさ」

「試しに触ってみろ」


 とんでもないことを口にする。


「嫌だよ。タマ、そうするといっつも怒るじゃないか」

「今日は怒らん。……試してみてほしいんだ」


 タマ、今日はヘンだな。まあいいか……。


 おそるおそる、伏せたままのタマの耳を撫でてやった。じっくり撫でたの初めてだから気づいたが、頭に比べ、とりわけ柔らかく細かな毛で覆われてるな。


 タマはなにも言わない。ただじっと、俺の手が動くままにさせているだけだ。


「尻尾も頼む」

「あ、ああ」

「ほら、ここだ」


 触りやすいよう、俺を横抱きにするような形で、ぴったり密着してきた。獣人だからか、筋肉質できゅっと締まって入るが、やはり胸とかは柔らかい。考えたら当然だがな。


 といってもなんてのかな、吉野さんみたいに「天国のマシュマロ」といった感触じゃあない。ぎゅっと堅く中身の詰まったクッションみたいな感じよ。それが筋肉系獣人なんだろう。


 俺の手をそっと掴むと、タマは優しく自分の尻尾まで導いた。


「こうか……」


 毛の流れに逆らわないよう、根本から先に向かって撫でてやる。


「そうだ。……いい感じじゃないか」


 瞳を閉じたまま、含み笑いしている。甘いタマの体臭が、鼻孔をくすぐる。


「まるでケットシーだな、お前の撫で方」


 まあ猫ならこうかな――って感じで撫でてるわけだが。


「強く握ってみろ」

「こんな感じか」

「あっ……」


 俺がぎゅっとすると、タマが体を震わせた。


「もっとだ。根本を握ってくれ」

「根本……」


 本当に根本も根本、短いスカートの中の、尻のすぐ側まで、タマが俺の手を導いた。スカートの中はじっとり熱い。


 黙って、俺は強く握ってやった。


「んっ……」


 俺を抱くタマの腕に力がこもった。


「痛かったか? 強すぎたか」

「いや……」


 ふうと、タマは大きく息を吐いた。


「上手だぞ。お前」


 瞳を開くと俺を見上げた。タマの顔が近づいてくる。


「タマ……」

「じっとしていろ。食い殺しやしない。……少なくとも今日は」


 タマ。今日はお前ちょっと変だぞ……。


「平ボス。あたし……」


 息遣いがわかるほど近づくと、タマは、俺の目をじっと見つめてきた。濡れたような瞳で。と、猫目が急に、きゅっと広がった。こうなると、普通のヒューマンと見分けはつかない。タマ、いったいどうしたんだ、お前……。


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