第四回
疲れたので今日はこの辺で…‥。小説書きとはこうも体力と気力と時間を使うものなんですね。ちょっと笑っちゃお。ではでは、今回もどうぞ楽しんでいただけたら幸いです。良い夢を!!
第四回
放課後、図書室で図書委員の会議が始まった。
ゆりえはみんなが座ってる中、一人ホワイトボードを背に司会進行を始めた。
「え~それでは、第一回図書委員会、会議を始めたいと思います。委員長はわたくし林原ゆりえがつとめさせていただきます。よろしく~」
わ~、パチパチパチと拍手する、かなことマギー。
その時、梨子がかなことマギーに蹴りをお見舞いして椅子から放り出した。
ドカ バキ
「オイ、かなこ!お前は副委員長だろ!マギーも書記だろうが!!二人とも座ってないで前に出んかいオラ!!」
前に出たかなこは心の中で、「評決のとき」著ジョン・グリシャム
マギーは心の中で、「オリエント急行の殺人」著アガサ・クリスティー
と、唱えた。
ちなみにどっちも相手をブチ殺して復讐する話である。
* * *
司書の渡辺たまき先生が皆の中にいて、補足を言い始めた。
「それでは今日は図書当番と新しい本の購入について話し合いましょうか。皆さんいいですね?」
ゆりえは集まっているメンバーに気づく。二年の男子二人がいない。それに図書委員ならもっとたくさん来てもいいはずなのに、自分とかなこ、マギーの三人は一年生。梨子と風紀は二年、それだけだ。
つぼみ先輩は受験生だから、あまり顔は出せないと前に聞いた。
しかし、このメンツだけではおかしい。少なすぎる。
「梨子先輩、わたしちょっと気になっていたんですが、いいですか?」
「ん?」
「図書委員って各学年、一クラスに一人のはずですよね?数が全然合わないんですけど……」
「ああ、サボタージュどもはわたしが一人一人出向いて蹴り殺してやったので、二度と来ない」
「え?!」
「やる気のない奴は来なくていいからな。本に命張れないような腰抜けに用はない。戦う覚悟のあるヤツだけが図書委員たる資格を持つのだ。いいな?」
「軍隊ですか!」
「あの……議題……」と、たまき先生。
* * *
「なるほど、これが本の購入の候補ですか」
たまき先生の前にA4サイズのプリントが一枚置かれた。
「はい、渡辺先生」と、ゆりえ。
「では、ここから消去法でしぼっていきましょ。え~と」
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「全部、却下で」
「えっ?」
「あ、でもこの最後の『ウォーキング・デッド』ってのだけ、よく分からないです。ちょっと内容説明して」
マギーがすかさず、「ゾンビです」
「あ、ハイ却下!」
梨子が立ち上がり、たまき先生に抗議した。
「ゾンビに対して失礼です!」
「ゾンビでしょ?何がいけないの」
マギーも「つまりゾンビとは人間の愚かさを描いた作品であり……」
「どう見てもあなたたちの方が愚かに見えますが?」
梨子とマギーは言葉を詰まらせながら、
「違うっ!ジョージ・A・ロメロは……」
「そうデス。フランク・ダラボンは……」
「ロバート・カークマンは……」
「ターナーさん、長谷川さん、話がゲシュタルト崩壊してますよ。保健室行ったら?」
「先生、『ウォーキング・デッド』はもう文学なんですヨ」と、マギー。
「えっ、小説なの?」
「いいえ、アメコミです」
「アメコミって何?」
「アメリカン・コミックの略デス。マンガです」
「マンガはダメです。却下です」
梨子とマギーは珍しく息を合わせた。
「『X‐メン』は人間の差別意識をテーマにした社会派コミックだよなぁ」
「『スパイダーマン』は強さを手にした人間の、その使い道を問うメッセージコミックです」
「ふ~ん、アメリカのマンガってそういうのがあるのね」と、たまき先生。
その反応に、さらに梨子は付け加えるように、
「先生!中でもオススメなのが『ダークナイト』です!内容はバットマンだけど、ジョーカーという最凶最悪の凶悪知能犯による数々の凶悪犯罪によって、悪の美学のイロハがズバリ描かれる、最高の……」
「それが一番タチが悪いですね。アメコミは全部却下です。よろしくて?っていうか、長谷川さん、そんなに熱くならないの!」
「なぁっ!!!!!!」と、叫ぶ梨子。
* * *
会議はさらに進んだ。ゆりえは委員長らしく司会をつとめた。マギーは書記として、
ホワイトボードにすらすらと文字を書く。
「じゃあ、まず浅田次郎の『壬生義士伝』上巻下巻の文庫本を買うことにします。次は」
その時、マギーはホワイトボードに書きながら、
「おもさげながです」とポツリと言った。
それに反応する風紀がいきなり立ち上がる。
「オイコラ、キンパツ!」
「やめろ風紀!」と梨子。
「吉村寛一郎をリスペクトしているオレとしては黙ってはおけんぞコラ!」
「おもさげながです。おしえってくだせぇ」と、さらにマギー。
「誰かこの会話、わかる人いませんか?」と、たまき先生。
「南部盛岡、そりゃあもう美しく……」
「ブチ殺すぞテメェ、キンパツ!!」
そんなやり取りの中で、ゆりえは「あの~」と手を挙げる。
「先輩、『ハリーポッター』のシリーズってここの図書室にはないですよね?入れなくていいんですか?」
たまき先生が「あれはもう古くありませんか?」
さらに梨子が、「うん、もう読まんだろ。別にいいんじゃないか?」
「え、でも……」
梨子は腕を組みながら、「わたしはファンタジーはな~、ちょっとだけだが苦手なんだよなぁ。ヨースタイン・ゴルデルやミヒャエル・エンデは読んだけど……」
「いや、それはちょっと古すぎませんか?いくら何でも」
「あ、『鹿の王』がいい!『鹿の王』まだ読んでないや。買って!」
「いや、あれもファンタジーです」と、ゆりえが付け加えるように言う。
* * *
関口と田嶋が図書室の扉の前で、中には入らず漫才をしていた。
「そういや補足説明してなかったな」
「補足?」
「サボタージュって知ってるか?」
「労働者たちが仕事をわざとしないで雇い主を困らせる妨害行為のことだろ?」
「ちなみに仕事をサボるの『サボ』って?]
「もちろんサボタージュから来ています、はい!」
「アレ?今オレたち委員会サボってない?」
「サボってるね。長谷川さんに蹴られちゃう!」
* * *
副委員長のかなこが、図書室のドアの方を見た。
「梨子先輩、扉の向こうから例の先輩男子二人が……」
「ああ、田嶋と関口は数に入れんな」
「どうして先輩方は図書委員やってるんですか?」
「まぁ、男手かな。本は量があると重いからな。男がいた方がいい」
「はぁ……」
「いざって時にも使えるし、役に立ってるから許してる面もある。男はいるのといないのじゃ、けっこう違うものだぞ!」
「なるほど……」
梨子はたまき先生に「ね、先生!」と、同意を求む。
「いや、でも一応委員会にも座らせておくべきじゃ?」
* * *
その他、ホワイトボードに書かれたものは、
さまよう刃
告白
手紙
ソロモンの偽証
舟を編む
「おいおい、ちょっと古いのばっかだぞ。それに内容が暗い。全部オレ個人で持ってる」
と、風紀。
「そうだなー。新刊も入れとくべきだしなー」と、梨子。
「あ、オレ『コンビニ人間』読みたい!」
「芥川賞のか?まぁでも十年経てば古い作品になるしな~」
「そうだよなぁ~」
ゆりえがツッコむ。
「あの、先輩たちってけっこう優柔不断じゃありません?キリがないんですけど」
「あ、まーね」梨子が言う。
「言われちゃったよ言われちゃったよ。当たってるけどな」
その時、たまき先生が挙手した。
「ちょっといいですか?」
「渡辺先生?」と、梨子。
「気になるの見つけたんですけど、読んでみたい小説があって……」
「何のやつです?」
「戦争物だと思うんですけど、タイトルだけじゃ分からなくて、一応なんですが、『ワールド・ウォーZ』って知ってます?」
すかさず梨子とマギーが、
「「ゾンビです」」
「あ、ごめんなさい。やっぱりナシで!っていうか、何で今そんなにゾンビばかり流行っているんです?」
その答えにかなこが、「おそらく『バイオハザード』のせいかと」
マギーは本のリストを見てみた。
「アレッ?『ウォーキング・デッド』梨子先輩!」
「いや、もう『ウォーキング・デッド』はいいよ。忘れるわ!」
「チガイマス、一冊だけ小説があるんデス。番外編的なヤツみたいなんですケド、文庫が!」
「何っ、マジか?!」
梨子とマギーが声を合わせて、
「「買―え!買―え!買―え!」」
ゆりえは仕方なくホワイトボードに購入リストとして加えた。
「ハイハイ、分かりましたよ『ウォーキング・デッド』はい!」
かなこはあきれていた。この人たちなぜそこまで「ウォーキング・デッド」?自分で買えばいいのに……。
「マギー、ちょっとその本のリスト見せて」
「ン」
かなこは受け取ったリストのページをめくる。
「それ、ネットで出したリストだヨ」
「ふ~ん、アメコミの『ウォーキング・デッド』ってこれか。え?」
本の値段にびっくりするかなこ。
「一冊が三千円以上?ゾンビが?!」
「『ウォーキング・デッド』だってバ!」
たまき先生がため息をつきながら、
「あなたたち、いつまでゾンビの話してるのよ……」
* * *
そんな時、つぼみ先輩が図書室にやって来た。
「こんにちはー。会議やってる?」
「あ、つぼみ先輩」と、ゆりえ。
「今日は補習授業があって、今までかかったの。ごめんなさい」
「先輩が補習ですか?」
「志望校向けの自由補習なのよ。わたし数学が苦手だから」
「なるほどー」
そこへ風紀が立ち上がり、
「先輩は数学だけ赤点だけど、二年の時はずっと学年七位をキープしてましたよね」
「マジで?」と、ゆりえ。
「すごい!」と、かなこ。
* * *
「それではこれで委員会会議を終わりたいと思います。お疲れ様でしたー」
やっと終わったぁ~。と、気疲れするゆりえ。
「お疲れ、ゆりえちゃん」
ねぎらうマギーとかなこ。
わたしが一番疲れた~。ホッとするゆりえ。
そこへつぼみ先輩が来て、
「でも、いいな~。わたしもゾンビの話したかった」
「えっ、つぼみ先輩ゾンビ好きなんですか?!」と、驚くゆりえたち。
「ええ、けっこう好きだよ。『ショーン・オブ・ザ・デッド』のDVD観て好きになったの。ディスクも買っちゃったし」
梨子とマギーが超反応を見せた。
ウフフフフフと笑うつぼみ先輩を見て、
え?ちょっ……アレってあれかよ?
アレはちょっとマニアック過ぎマス!!
マジで?
つぼみ先輩の新たな一面を知った。しかもかなりマニアックな一面を。
* * *
野良猫のミント、今日の一言「楽しい会議だったね。一年生みんなお疲れ様!」
つづく
まったりと読みながら、眠りについてください。あ、感想やレビューをお願いします!!やる気につながるので!!よろしくお願いいたします。では!!




