第十九回
この時期にクリスマスネタを書いたのは、やっぱり違和感がありましたが、でも時系列に沿って書いてるので、別に良かったです。
第十九話
わが校は学力重視なので文化発表会はありません。期末テストが十二月のはじめにあり、そのあとすぐに実力テスト。
クリスマス・イブに終業式があります。
図書委員の一年生メンバーは変わらず、
「やっと今学期も終わった~」と、息をつくかなこ。
「長かった……」と、ゆりえ。
「今日はチョウド、イブですネ!」マギーが言う。
「せっかくのイブなんだし、フライドチキン帰りに食べてかない?」
「彼氏作れヨ、カナコ」
マギーにサッカーボールをぶつけるかなこ。
「そうだ、ねぇ、ウチでクリスマス会やらん?二人ともウチに来ぃーよ!」
ゆりえが提案する。
「えっ、これから?」
「ジャア、一度帰って着替えてカラ買い物シテカラ着マス」
* * *
関口と田嶋の寒い漫才。
「クリスマス・イブって何か知ってるかー?田嶋」
「クリスマス前夜だろ?」
「イエス・キリスト誕生の日の前の日の夜ってのはユダヤ歴的には日没から日付けが変わるから、イブもクリスマスの中に含まれるんだよ」
「聖夜か」
「クリスマス・イブは普通は家族で過ごすものだが、日本ではカップル・イベント日になっちゃってるんだなーこれが」
「俺には関係ない話だね」
「バーカ、こういう日こそ西川先輩に告白するんだよ!」
「つぼみ先輩は受験生だろ。今は余裕ねーって」
* * *
「ゆりえ、かなこ、マギー」と、風紀。
「あ、龍虎コンビ先輩」
「クリスマス会やるぞ」風紀が勇ましく言った。
梨子も続けて「ゆりえんちに三時集合な!」
「ハ、ハイ。分かりました」
「ヨ~シ、あ、ケーキがいるな。スポンジ用意しろ。そんであとでキッチン貸してくれ。いいだろ?」
「えっ、あハイ!」
「ちなみにつぼみ先輩は今日も塾なので誘っても来れない」
「ああ、三年生は大変ですよね。イブも受験勉強なんて」
「つぼみ先輩は特クラだからな。『特別クラス』の略で、高い偏差値の大学に向けて学ぶクラスに入ってるんだ。毎日難しい勉強ばかりでな」
「三年生はそんなのあるんですか」
「ま、オレたちも来年は入る予定なんだがな。一クラスしかないんだ」と、風紀。
* * *
午後三時・林原ゆりえ宅
「ちーす!」
「メリクリ!」
と、龍虎コンビがやってきた。
「先輩たち、どうぞどうぞ!マギーたちも来てますよ」
「ああ、ゆりえ。その前に台所借りていいか?」
「え?」
「ケーキ作るんだ」
「ええっ!!」
とりあえず先輩たちをキッチンに案内するゆりえ。
「ここがお前んちのキッチンか」と、風紀。
「ええ、はい」
「フルーツやらホイップは買って持ってきたからな。で、スポンジは?」
「えっ、ケーキのスポンジ?!」
台所に置いてあったのは、食器洗い用のスポンジだけだった。
「これは何だ?」
「その、スポンジ用意しておけと……」
「スマン、言い方が悪かったな」と、梨子。
「ってことは今日はケーキは無しか。ま、いいけどな」風紀も言う。
その時、キッチンに入って来たのは少年だった。
「ただいま、お姉ちゃん」
「あ、ひろむ。おかえり!」
風紀が「誰?」と言う。
「弟のひろむです。小6の」
「あ、どうも。初めまして、林原ひろむです。姉がいつもお世話になってます」
「おお、ヨロシクな!」風紀が感心する。
「礼節があって、いい子じゃないか。ウチの学校に来い!可愛がってやるぞ」
「いや、その頃先輩たち皆、成人してますから………」
「パーティーやるんだが、ひろむくんも参加するか?」と、風紀が言う。
「ハイ!」と、元気に答えるひろむ。
「ひろむはこう見えて映画が趣味なんですよ。ひろむ、何かいいブツはない?」
「へー、じゃあクリスマスにふさわしいDVDを流して、みんなで楽しもうじゃないか!チョイスしてくれ、頼むよ!」
「はい!」
ひろむは自分の部屋からDVDを持ってきた。
「ん、これは?」
「『ダイ・ハード2』?知ってるか風紀?」
「まぁ、タイトルだけなら。でもイブに観るのにふさわしいのか?」
「一応観てみるか。映画好きのチョイスだ」
「だな。ケーキも無いし」
五分後、上映開始。
「サノバビッチ」というセリフが最初にあった。
「旅客機ってスタンガン持ち込めるんかいな?」と、梨子。
「いや、百パームリやろ」
さらに映画は進む。
「グロッグ17ってX線通過できるん?」
「バッチリ写るっしょ」
「テロリストにシステム乗っ取られたのにデカを追い出すのか?」
「敵の数も分からんのにスワット・チームだけ出動させんやろー」
「爆発多いなー。セットや模型だろうに派手にぶっ壊すなぁ~」
「まぁ、ホットで温まる映画ってことか」
「レモン型のハンド・グレネードって、すぐ爆発するんじゃね?」
「ああ、しかも軍用の輸送機のコックピットに脱出用パラシュートは付いてないんじゃね?」
「つららが凶器になるなんてマジ物騒なネタだなー」
「発想自体がまるで軍のシールズのゲリラ戦術だよなー」
「スノーモービルに弾は当たっても主人公には一発も当たらんのか」
「まぁ、それがアクション映画の定番ってヤツだろ。美しく見事に弾が逸れていくってか?」
「飛行機の翼の上で格闘するとかジャッキー・チェンでも思いつかんやろ!」
「マジでやったんかこれ?すげえな!!」
「ライターで飛行機の燃料に火が付くと思うか?」
「それは諸説あるとは思うが、敵をまとめて吹っ飛ばしてるのは上手な料理法だよな」
「エンディングテーマ、なかなか爽やかでいいよな」
「地獄のイブがパラダイスに感じるわ」
「すったもんだのクリスマス・イブやったな」
「ハハハハ。イブが命日とかどんだけ死人出してんだよって映画だよな、コレ」
「ダイ・ハード2」1990年アメリカ映画。
レニー・ハーリン監督
ブルース・ウィリス主演
イブにワシントンの空港に夕方到着の妻を迎えに来た刑事ジョン・マクレーン。
一作目に続いて、元軍人たちによる空港のシステムを乗っ取られたあと、到着する麻薬王の引き渡しを要求され、そのテロリストたちに立ち向かうマクレーンの活躍を描いたアクション映画。
「「いやー、超面白かった!!」」と、梨子と風紀。
★★★★★ 星五つ
「ひろむくんはなかなかイイ映画知ってるなー」梨子は言う。
風紀も「ああ、いいことだよ。特に旅客機の墜落シーンが良かった」
「こういう映画だったらぜひいろいろ紹介して欲しいよな」
「大味なアクションほどサイコーなもんはないぜ!」
照れるひろむ。
マギーは、「イピカイエの意味が分からんが……」とだけ言った。
そして一緒に観ていたゆりえとかなこは、映画にドン引きしていた。
「『ダイ・ハード2』って、マジぱねぇアクション映画だ」
* * *
夜六時・天拝山駅前
塾に行くつぼみ先輩は少し疲れていた。
「ふ~、今夜は少し手を休めて、帰ったらケーキでも食べよう」
その時、こんこと雪が降ってきた。
「あ!すごい、ホワイトクリスマスだぁ~」
ジングルベルジングルベル鈴が鳴る♪
来年はすぐにお受験さーヘーイ!と、歌いながら駅のホームをスキップするつぼみ先輩。
* * *
今日の野良猫ミントのお言葉「クリスマス・イブはやっぱり賑やかだね!ハッピークリスマス♪」
つづく
今回もご感想をお待ちしております。




