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8、これは一つの姉妹愛?

 親愛なるヒャリエー


 チェルカです。

 

 まず謝らせていただきます。

 本当に本当に申し訳ございません。


 旦那様の命令とはいえ約束を破ってしまいました。

 ずっと側にいると約束したのに、

 本当に申し訳ございません。


 会うたびによそよそしくあたりましたが、本当は前のように接したかったんです。ヒャリエーは私にとってもう一人の妹ですから。でも、私には旦那様を裏切ることはできません。


 お詫びではありませんが、はした金とサンドイッチは最後に私がヒャリエーのためできることです。

 こんな私が用意したものですが、すこしお力になれたら嬉しいです。


 チェルカ




 チェルカは床にへたって黙り込んでいる。

 お嬢さんが読み終わる前、もう足掻かなくなった。拘束を解いたらこうなった。


 お嬢さんはゆっくりと近寄ってチェルカから封筒を取って手紙を入れた。

 そして、どことなく威圧のある微笑みで問いかけた。


 「パパを裏切れないってのはどういうこと?」


 「……いやく……」


 チェルカは俯いたまま、呟くように返事したせいでよく聞こえない。


 「はっきり聞こえるようにいって」


 「そういう契約ですから……」


 チェルカは悲しい表情で答えた。お嬢さんはただ表情を変えずにチェルカが話すのを待っている。


 「…………」


 しばらく沈黙が続いたが、チェルカは決心を決めるかのように一度大きく息をした。


 「昔、友達と町の行ったことのない場所に行って探検しようと約束しました。でもビンへ……妹も行きたがっていました。私は面倒と思って連れて行きませんでした。でもそれが誤ちでした。家に返ったら、母が慌てて私に言ってきたんです。ビンヘはどこと。


 その日、妹はいなくなった。


 それから何日も探し回りました。でも、どこに行っても見つけられませんでした。どこに頼ってもだめでした。それでも探し続けました。頼れるところも全部頼みました。

 

 そんなある日、母は必ず見つけてくれる人たちがいると言いました。しかし、その人たちに頼むのにはたくさんお金が必要なんです。


 怪しいと思いましたが、しかしもう他にできることはありませんでした。

 もしこれで妹を見つけられるならと、私は藁にもすがる思いで年季奉公の契約をして母にお金を渡しました。


 ですから、私旦那様を裏切ることができません」


 聞く限り本当に妹思いの姉だが……


 「よくもこんな胡散臭い話に身を売るまで飛びついたな」


 思わず口に出してしまった。

 チェルカは一瞬反論したがりそうにこちらを睨んだが、すぐまた悲しい顔になって俯いた。


 しかし、チェルカのそういう顔、やはり魅力があるな。


 チラとお嬢さんを見る。

 お嬢さんは何も言わずに複雑そうな顔で考え込んでいるようだ。


 このままではただ重い空気になっていくだけで何ひとつも面白くないな。

 誰かこの雰囲気を壊してくれないかな。


 ちょうどそう思った時、野太い声が飛んできた。


 「おい!どうなってやがってる! なんで他のやつが死んでる」


 声のしたほうに見やるとまたしても一人の不審者が出てきた。


 言葉と服装から察するにはさっきの侵入者たちの仲間のようだ。


 一体どれぐらい侵入者が入ってきている?

 まぁ、ちょうど良かった。さっきは一人を残して話を聞きたかったが、まさか毒がこんなに強いとはおもわなかった。


 しかし、生きていても私は信憑性の高い情報を聞き出せるのだろうか。

 コミュ障じゃないが、業務的に知りたい情報以外の人とおしゃべりするのは苦手だ。拘束して吐かせた情報は本当に信じられるのだろうか。

 

 とりあえず記憶喪失した仲間のふりで聞いてみよう。


 だだだだ。


 お嬢さんもまたしてチェルカの手を引いて逃げた。


 「おい! なにやってる。早く追え!」


 「あのう、オレのことを知ってるのか?」


 「お前なにを言ってやがるんだ。」


 「オレはだれだ? 何故ここにいる?」


 こう言っている内にもお嬢さんとチェルカはどんどん離れていく。

 野太い声の侵入者はお嬢さんたちを追うべきかどうかと躊躇っているように私とお嬢さんたちを交互に見る。


 「ああークソ! ついてこい!」


 侵入者がそう言ってお嬢さんたちと逆方向に行こうと踵を返した。


 「あのう、どこへ?」


 「お頭のとこだ」


 お頭って……本当に何者なんだ?この侵入者たちは。




 ついていって歩くこと数分、この屋敷のパーティー用と思われる広間に着いた。

 広間の隅にキッチンでパーティーをやっていたメイドたちが不安や泣き顔で座っている。よく見ると中に数人の服装は乱れている。多分そういうことだろう。


 メイドたちの周囲に武器を持っている侵入者数人が見張っている。他の侵入者は武器をしまって忙しく箱とかサンタの袋とかをこの広間に運び込んでいる。


 そんな中に一人だけ尊大な姿勢で椅子に座っている。おそらく、そいつがお頭だろう。


 そのお頭らしき人だけ他の侵入者と違って素顔でいる。

 生活に随分な余裕があるのか。髭を長く伸ばして色んな飾り付けをしているのが特徴的だ。


 ヘアサロンならぬヒゲサロンにでも行っているのか?


 「殺ったんなら、早く戻ってきて報告しろ! 何ぐずぐずしてんだ! ほかのやつはどこに行った」


 (部下)を見るなり質問攻めか。 嫌なタイプの上司だ。

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