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3、使っちゃいけなかった。

 『少女は風になびいても縺れなそうな金髪が腰まである。

 青い瞳がさらに人間らしさを消し去る。

 メリハリのある体型と整った顔が仕上げのように美少女を完成させた』


 『まさにお人形みたいに綺麗だ』


 少女が荷台から降りた。私もいっしょに降りた。

 

 「褒めてくれてありがとうございます。 誰です? 出てきてもらえませんか」


 『やはり届いている。なぜ君は私の声が聞こえるのだ』


 「はい? わけわからないこと言わないで出てきてください」


 少女は周辺を見回しながらそう言ったが、ここはさっき乗り込んだ幌付き荷台しかない小屋だ。


 『もう君の眼の前に出ているだけど』


 「誰かは知りませんが、そろそろ人を呼びますよ」


 少女は強気になった。

 

 『呼んでも無駄だが、呼びたいならどうぞ。それに信じてもらえないだろうが、私は本当に君の目の前にいる』


 「ふざけないでください。ならなぜ姿が見えないんです?」


 『姿そのものはないからだ』


 「はい?」

 

 『私は身体がないから見えないのだ』


 「…………」


 少女はすこし俯いて思考の海に潜ったが、すぐに頭を上げた。


 「信じますが、そのう…… ちょっとお願いしたいことがありまして…」


 『断る』


 きっぱり断ったせいか。少女は一瞬ぽかんとして、すぐに問いかけてきた。


 「もちろん貴方にお礼はします。私にできることならなんでもしますからお願いです!」


 『断る』


 「どうしてですか」

 

 少女は物凄い形相で居るかどうかわからない(存在)に吠えるように聞いてきた。


 『メリットがあっても私にとって君の願いを聞く理由にはならない』


 「ではどんな理由でしたら、願いを聞いてくれますか?」


 少女は()()()()表情で再び聞いてきた。


 『そうだな…… 興味が湧くような面白さがあったら、君の願いを聞いていい。 なんで家出するのだ?』


 私がそう質問したら、少女は涙をにじみながらこう叫んだ。


 「苦しいからに決まっています!」


 「誰だ!」


 少女の大声に誘い出されたのか、メイド服の姉さんが小屋の門を勢いよく開けて入ってきた。何か入っている布の袋を抱えている。


 「ヒャリエーお嬢様! どうなさいましたか」

 

 メイドさんは一瞬目を見開いたが、すぐに丁寧な口調でお嬢さんのことを気にかけた。

 

 「なんでもありません。 部屋に帰ります」

 

 キャリへー?嬢さんは冷たい言葉を残して小屋を出た。


 追いかけようと門をくぐり抜けているところに後ろから嗚咽の声が聞こえた。

 メイドの姉さんが最初から持っている袋を抱いて泣いている。

 

 必死なまでのお願い、触れたら涙が出るほどの家出の原因、悲しいメイド。

 

 ふふふ、なんだか面白くなってきたな。

 

 そう思いながらお嬢さんの後を追った。


 


 ばんっ ドアとドア枠の激しい衝突による音が部屋中に響き渡った。

 

 その張本人はベッドに仰向けで飛び込んだきり、びくともしない。

 ただ虚ろな目で天井を見つめると思ったら、両目で塩水を生産しはじめた。


 『ただでさえ人形のような外見だから、そんな泣き方では余計に不気味に感じるよ』


 「出ていって」


 嬢さんはただ儚い声で返事しただけ、それ以外何も反応しない。

 返事というより追い出そうとしたが、全然迫力はない。


 『いやぁ、気が変わったのだ。 君の願い聞きたくなった』


 「慰めなどいらない」


 依然としての反応、それどころか丁寧語もなくなった。


 面倒だが、ここは我慢……


 『なんだ。逃げたいほど苦しいのにただ願いを聞いてもらえないぐらいで諦めるのか? つまらない』


 我慢などできなかった。


 「もういい……もういいんだ……実はもうわかっていた……いくらがんばっても自分は独りなのだと」


 嬢さんは何かを掴もうとするようにおもろに手を挙げた。


 「逃げるのも、反発だったのも、あれでお金を稼いだのもただかまってほしいだけ」


 反発だったのはその屋根での移動でなんとなくわかるとして……

 

 『あれって何だ?』

 

 嬢さんの手は重力に引かれ、落ちるようにおろした。

 そして虚ろな目が濁っていくような気がした。

 

 「あれは使っちゃいけない力だ……あれを使って金を稼いでからパパもママも変わった」


 しっかし、焦れったい話し方だな。


 『具体的にいうとなんだ』


 「わからない」


 は? 


 『わからないってどういうこと?』


 「わからない……パパがまだ人並みの商人のとき、仕入れに悩んだことがあった……ただ売れるものを考えたら……」


 くそ、普通に言え。


 私の思いが届いたのか、嬢さんの話し方が変わった。


 「頭の中に図表が浮かんだ」


 頭に図表?


 「パパがダメ元でその図表の項目と数字で仕入れたら、ぴったり売れた。 そしたらパパが褒めてくれた。 あの時は本当にうれしかった」


 嬢さん微かに微笑んだが、すぐに表情がなくなり、話を続けた。


 「でも、あれは最初だけだった。 いつの間にか使用人が図表を取りに来るだけになった。 その人たちにどうしてパパは来ないと聞いても返事には必ず『お忙しい』が入ってる」


 嬢さんはまたあの見慣れた表情、あの自嘲的な微笑みになった。


 「それなのに阿呆なわたしはパパがもっと稼げたらきっと暇になると思って未発見の鉱脈の地図と海外探索用の地図を笑って渡してしまった。」


 うわぁ、こんなむごい親もいるのもだな。


 「そしたら、めでたいことに、結婚することになった」


 え? えええええええ!

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