31、ロイリネの記憶
ロイリネの一回目の人生は異世界を作り出すほどの技術を有している文明にあった。
この世界をつくった理由は研究のためだった。ロイリネはその研究チームの一員だ。
失われた技術がこの世界にあるとか、人類学に新たな発見があるとかの薄い期待もあったが、メインの予定は人体実験だった。
新薬を異世界で作って、ネズミなどの動物実験を飛ばしてそのまま人間で試すつもりだった。
そのためにロイリネの文明はこの世界を作る時、時間の流れの操作や状態の記録などのシステムを織り込んだが、予想外のものを発見してしまった。何もないところから水を出したり、火を起こしたりすることができる謎の力を日常的に使う民族の存在を。
そんな魔法のような不思議のせいか、研究者たちは安直にこの謎の力を魔法と呼んだ。そして、魔法に使われるエネルギー「魔力」はまったく汚染のないものと知った途端、研究のメインは人体実験から自分の世界での魔力の製造と応用に切り替わった。
研究が進み、やがて製造方法が確立した日がきた。しかし、それは同時にロイリネの世界の人類が滅亡に向かう日でもあった。
他国によるスパイ活動でその方法は奪われ、この世界を支配するシステムとその記録はバックアップまでウィルスに滅茶苦茶にされた。
そのせいでこの世界で魔法が使える人は知性を奪われ、ドラゴンをはじめ様々な動物に変えられた。そして、時々お嬢さんみたいにシステムの一部の機能を使える存在が現れるようになった。
そんな中に運が悪いことに、ロイリネはちょうど現地調査のためにこちらの世界の人間に憑依している時にそれらのことが起こった。
ロイリネはそのままこの世界に囚われた。
ロイリネの研究仲間たちはスパイ騒動の後片付けをしようとした時にロイリネの状態を気づき、救出と修復のために修復ツールを使ったが、脱出前にロイリネの世界の人類は滅亡した。
原因は魔力の製造法に欠陥があるからだった。
人から魔力を抽出することに成功したが、個人差などはあるもののどうしても実用的の量には届かなかった。行き詰まった研究者たちは諦めかけたところに、新たな発見で人類を滅亡させた製造方法を完成してしまった。
その発見は召喚魔法にあった。
研究者たちはその頃、血眼になって魔力の観測をしていた。その甲斐があってある魔法使いが召喚魔法を使う前より、使った後の空気中の魔力濃度が高いことがわかった。
その現象を利用して魔力を効率に得ることはできたが、新しい技術ゆえの欠陥もあった。
召喚魔法はストローでタピオカミルクティーを飲むことで例えるならタピオカ以外にどうしてもミルクティーがいっしょに来てしまう。それを解決するために魔法使いは召喚魔法を使う時必ず同時にフィルターの魔法使うが、研究者たちは効率のためにそれを製造方法に組み込まなかった。
他国はそれを知らずにそのまま魔力を製造し始めた。
その結果は病原菌か何かを魔力といっしょに召喚した。それに感染した人は日に日に衰弱してそのまま息を引き取る。
ロイリネの世界の人は生物兵器や化学兵器などと疑ってあらゆる予防方法を試したが、尽く失敗で終わった。
やがて、人類が滅亡した。
修復ツールのAIを通してそれを知ったロイリネは脱出が無意味と気づくと自暴自棄になったが、AIから自分の肉体はもう死んだのに何ともなかったと知ったロイリネは憑依した人として生きることにした。しかし、他人として生きることはロイリネが想像した以上につらいものだった。
その不安を和らげようとロイリネはAIにリペーという名前をつけて、自分の妹のように接して毎日話しかけた。そして、その会話が他人に怪しまれないようにテレパシーでできるようにリペーにお願いした。
何十年が過ぎ去り、老人になったロイリネは過去を偲んで一回目の死を迎えた。
しかし、次の瞬間ロイリネは気がついたら、自分が赤ちゃんになってベビーベッドに寝かされた。
訳もわからないロイリネは何もできずに母親らしき人に養育されて何日か経た頃、リペーが現れた。
ロイリネはリペーに原因を問いただしたが、リペーも知らなかった。
リペーがいろいろ調べた結果はロイリネの記憶と思考パターンはシステムに取り込まれた。そして、憑依している人が死ねば、自動的にどこかの人に憑依するというウィルスによるバグがあった。
それを解除するためにシステムの権限が必要だが、リペーにその権限はなかった。ウィルスを削除できるものの、それができないとわかったロイリネは何回も何回も人生を送って来た。私と出会う時はすでに生きることに飽きた状態にあった。
どういうわけか私はその権限を持っている。それを知ったロイリネはリペーに自分の記憶を私に送って、人格を削除するようお願いした。
リペーはその願いに応じて、操作した。そして、私にその承諾のボタンを押させた。
その結果、ロイリネだったショートの少女は今、赤ちゃんのように泣き喚いている。




