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29、鞍替え

 裏門から出てきた2人の少女のどちらも顔の見えやすいところに印があった。2人の体型はどれも貧相だが、髪型が違う。1人はロングで印は眉間に、もう1人はショートで印は右頬にあった。


 この2人のどちらがチェルカの妹なんだろう。私にはチャルカの「ビンヘ『らしい』人」なんて言い方はただの現実逃避にしか聞こえなかった。


 まぁ、いずれにせよお嬢さんたちに付いていけばわかるのだろう。今はそんなことよりこの宙を浮かぶ少女の方が気になるし、面白いのだ。


 そうこう考えているうちに、少女は無愛想というより無機質な顔で奴隷たちの速度にあわせて飛んでいった。

 しかし、誰も彼も驚いたりはしなかった。通行人は目的地に向かって歩いている。そして、そんな人たちの目を引こうと屋台の人は大声で呼び売りしている。人々はただ普通にしている。 


 この光景を見て、奴隷に付いていく少女は風船売りの風船にすらみえてしまったぐらい、溶け込んでいる。


 ここの人たちにとってこれが普通か少女は誰も見えなかったなのだろう。じゃなければ説明がつかない。

 しかし、前者はともかく後者の場合はまた不可解な点があった。

 私と違って少女は明らかに体があるのに、何故私以外誰も見えなかった。


 ……ふむ、これは本当の幽霊なのかもしれない。そして、さっきからずっと頬に印があってショートの奴隷にぴったりについていることからみて、多分守護霊か怨霊なんだろう。

 今の私も似たような存在だし、会話できるかどうかわからないが、声をかけてみよう。


 『こんにちは』


 『……』


 こちらに見向きもしないでそのまま飛んでいった。

 完全に無視された。


 それもそうか。誰も自分を見えないと思えば当然自分に向く挨拶なんてあるはずがないと思っているのだろう。ならば……


 『奴隷の後ろを飛んでいる人、こんにちはーーえ!?』


 こういう言い方して、案の定反応して振り向いてくれたが、予想外のこともあった。

 少女に憑かれている奴隷、ショートの奴隷もいっしょに振り向いた。


 『スキャン……完了。ウィルスヲ検出シマシタ。コレヨリ駆除ヲ開始スル』


 宙を浮かぶ少女はそう言って私の方に向かって手をかざした。

 すると、私は謎のガラスのような何かに囲まれた。


 え? 私ってウィルスなのか? 道理で見えないわけだ。


 『エラー、駆除デキマセンデシタ』


 それを聞いたショートは意外と言わんばかりの顔で浮かぶ少女を見ている。

 どうやら、ショートも浮かぶ少女が見えるようだ。そして、この反応からみて2人はそれなりの付き合いがあった知り合いのようだ。


 「ロイリネ、早くいかないと置いてくよ」


 ショートの奴隷のこと、ロイリネと浮かぶ少女が見つめあっているところにロングの奴隷が声をかけてきた。


 「わるい、ちょっとぼーっとしてた」


 「今日は月に一度デザートが食べられる日だから、もし遅れたことで食べられなかったら、一生恨むぞ」


 「ビンヘは大袈裟だな」


 「何を言っている! 奴隷である以上、ロクな食事がないのは普通だよ。以前は居たところの中に2日に一度しか食べられないのもあったぐらいだから」


 ロングの子の名前はビンヘか。やはりチェルカの「らしい人」の言い方は認めたくない気持ちによるものだったな。


 ロイリネとビンヘは雑談をしながらそのまま歩き出した。

 いや、待ってこれは無視されるパータンじゃ……


 『付イテ来テクダサイ』


 なんて心配をしたら、浮かぶ少女はまっすぐに私を見て無機質に言った。


 『それは構わないが、どこへ行くのだろうか』


 『ソーディ商会、ドエワンオリ支店デス』


 ソーディ……あっ! お嬢さんの苗字だ。そういえばお嬢さんたちは先に行っているから、このままビンヘが行くとばったり会うのだろう。

 これはまた面白くなりそうだな。


 『付イテ来テクダサイ』


 考えにふけると浮かぶ少女に機械的に催促された。




 「触るな! お前なんか私のお姉ちゃんじゃない」


 ビンヘはチェルカの手を振り払って突き飛ばした。そして涙をこぼしながら走っていった。


 あのあと特に何もなく支店に着いたが、どこかで待ち伏せていたお嬢さんたちは手をつないで現れた。そして、チェルカはおずおずとビンヘの名前を呼びながら手を伸ばしたが、今の結果になった。


 何故こんな反応するのだろう。理由は知りたいが、今はそれよりロイリネと宙を浮かぶ少女の方が気になるし、面白い。どうせ、あとで早戻しなどすればわかることなんだろう。


 ロイリネは呆然にへたり込むチェルカと不気味な微笑みで前から抱きしめて慰める言葉を呟くお嬢さんに会釈して、ビンヘと同じ方向へ歩き出した。そして、浮かぶ少女に続いて私もその方向へこの場をあとにした。


 「お前は何だ? リペーに駆除されないし、話しかけてくる。こんなウィルス今まで見たことはない」


 そして、支店の建物の裏側に回って倉庫らしき部屋に入る途端、ロイリネが明後日方向に向かってそう言った。


 『オ姉チャン、今ハココニアル』


 浮かぶ少女、リペーは私を指さした。

 どうやらさっきのは私に言っているようだ。

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