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28、見掛けた

 あの村から出発してから2日が経って3日目の朝、お嬢さんたちは無事に目的地であるドエワンオリに到着した。


 ドエワンオリは山と谷でできた扇状地にある都市。そしてその都市をぐるっと囲む城壁があることからみて、この都市は要塞都市のようだ。


 「なんなのよ! あの衛兵」


 そんな都市の関所を通ったすぐ、お嬢さんは顔を膨れて不機嫌に愚痴をこぼした。


 「まあまあ、ヒャリエーはキレイだから、男の人が口説いてくるのもしかたありません」


 「いらないよ! それに何なのその口説き文句は、何が『今夜ベッド空いているか』だ! わたしを何だと思っている」


 「噂ではドエワンオリの人は開放的と聞いたんですが、さすがにそこまでとは思いませんでした」


 …………

 じーーとお嬢さんはチェルカを凝視している。


 「ど、どうしたんですか? そんなに見つめて」


 「早く妹に会いたいのはわかるけど、慰めるならちゃんと慰めてよ」


 「えっ?! どういうことですか」


 チェルカはお嬢さんの指摘に驚きながら理由を尋ねた。


 「自覚ないの? チェルカはさっき他人事みたい言い草で慰めたよ。他人ならそんなのされたら、癒やされるどころかかえって傷ついちゃうよ」


 「はっ! そうでした。申し訳ありませんでした」


 謝罪しながら頭を下げようとしたチェルカの頭をお嬢さんは一歩前へ進んで抱き止めた。


 「謝らなくてもいいよ。つまらない愚痴よりずっと会いたかった人に早く会いに行きたい、そういう気持ちはよくわかっているから」


 お嬢さんはチェルカを離し、両手をチェルカの頬に添えた。


 「むしろわたしの方が謝るべきよ。焦らしてごめんね」


 そしてそのままチェルカの口元を引っ張って笑顔を作った。


 「だから曇り顔はやめて笑顔で会いに行こう」


 「うん……」


 お嬢さんに開放され、チェルカはいつの間に滲んできた涙を拭った。

 そしてお嬢さんがチェルカと手を繋いで歩き出そうと一歩前踏み出したが、何かに引っ張られるように前へ進まない。


 「どうしたの? 突っ立って」


 お嬢さんは振り返って棒立ちになったチェルカにそう問いかけたが、チェルカは返事せずにただ眼を大きく見張って固まったようにビクともしない。


 「そこに何がある?」


 お嬢さんがチェルカの見ている方向に視線を移すや否やチェルカはその方向に走り出した。


 「ちょっと、急にどうした?!」


 チェルカの突然の行動に驚いたお嬢さんは一歩遅く追いかけたが、チェルカはある路地の入り口で立ち止まった。

 追いついたお嬢さんも路地を見渡したが、雑物などが壁際に置いてあったぐらいの特に何もなかった路地だった。


 「いったいどうしたの? 説明してよ」

 

 「……見た……」


 「何をーー!」


 チェルカは不安で今にも泣き出そうな顔でお嬢さん抱きしめた。


 「ビンへ、顔、印、紋章」


 「まず落ち着いて、じゃないと何を言っているのかはさっぱりわからないよ」


 お嬢さんはあやすように言いながらパニックになったチェルカの背中を撫でたが……


 「ゔっぎぎゔ」


 チェルカは泣き出した。




 「大丈夫です。暫くこのままそうっとしてあげればいいです。騒がせてすみません」


 お嬢さんは泣いているチェルカを抱きしめながら通行人にそう言った。


 「ヒャリエー、ありがとうございます。私はもう大丈夫です」


 チェルカが泣き出してからお嬢さんは何回目か心配して声をかけてきた通行人をあしらったところに、チェルカはようやく落ち着いてお嬢さんを離した。


 「本当? ならよかった。実はちょうど疲れてきたところなんだ」


 「申しわけ……」


 「いいよ。そんなことより何があったかはちゃんと説明してくれる?」


 立ったままチェルカに泣きつかれたせいで強制的に立たされたお嬢さんは謝ろうと頭をさげるチェルカを制して説明を促した。


 「はい……私、見たんです……」


 「何を?」


 「ビンヘらしい人が木箱を運んでいるところを」


 「もう見つかったのか? よかったじゃない、でもそれならなんで声をかけて確認しないでそのまま固まっていた?」


 チェルカはお嬢さんのもとっもな質問にビクッと震えた。


 「それは……怖いからです」


 「怖い? 『なんで探しに来なかった』とか言われるのが怖い?」


 曖昧な返事にナチュラルに推測したお嬢さんなのだが……


 「違う!」


 チェルカはお嬢さんの推測を聞くなり、大声で否定した。そのせいでまた通行人たちに注目された。


 「あっ! 違います……それもありますが、他のことで怖くなって声をかけられませんでした」


 さっきの大声とは別人のようにチェルカはしゅんとなった。


 「他の事って、何?」


 「そのビンヘらしい人の顔に奴隷の印があったんです」


 お嬢さんは驚いたものの、すぐ平然に掘り下げていったが、チェルカは不安げに自分の胸を抱きながら返事した。


 「……そうか。じゃ、まずドエワンオリでの支店に行こう」


 「え?」


 「ここで怖がっても仕方がないでしょう。それに見間違えの可能性もあるし、早く白黒をつけた方が怖がらなくても済むよ」


 まだ困惑しているチェルカの手を引っ張ってお嬢さんは走り出した。

 ちょうど私が追いかけようとしたところに建物裏門からさっきの路地に顔に印のある2人と宙を浮かぶ少女が出てきた。

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