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27、出発

 「あたし、結婚する」


 朝食後、お嬢さんたちは村人たちからもらった装備を整理している。昨日、ヘレマが服を着替えたあとすぐ寝たため整理はしなかった。忙しくしているお嬢さんたちを見たヘレマは当たり前のように手伝っているが、老人が馬の世話に家をでた途端そう宣言した。


 「ヘレマさん、どうしたんです!? 結婚したくないって昨日言ったばかりじゃないか?」


 メイド姿ではなく村人の格好をしたチェルカもお嬢さんの意見に同意するように、うんうんと頷きながらお嬢さんといっしょに旅の道具を手に持ったままヘレマに迫った。

 チェルカはメイド服でいるつもりだが、お嬢さんが「一般人がメイドを連れて旅するのが変」という言い訳しか聞こえない理由で着替えさせた。


 「ふ、二人ともまず落ち着いて手に持ったものをしまって」


 迫りくる2人を見てヘレマは怖気づいて後ずさった。それは無理もない、何故なら2人が持っている道具はそうさせるからだ。

 お嬢さんが持っているのは園芸用こて、普通は大丈夫だが、チェルカが持っているのはナイフだ。

 誰かがナイフを持って自分の方にまっすぐに来るだけでも普通に怖いのに、そんな威圧を感じる迫り方をされたら、恐怖で園芸用こてをもう一本のナイフに見間違えるのも仕方がない。


 「手に持ったもの? 園芸用こてはどうしたんですか」


 「あっ! 驚かせてごめんね。すぐにしまいます」


 チェルカが慌ててナイフをしまって全員が落ち着いてから、ヘレマは全部話した。

 ヘレマは昨夜服を見せに行った時に老人と話し合った。そして、案の定老人に説得されて結婚を決意した。

 つまらないな、見に行かなくてよかった。さらにその最後の決め手は「安心させたいから」なんて私には皮肉しか聞こえない理由だった。




 「服、本当にありがとう。あたしはお爺ちゃんのためにも幸せになるから、ヒャリエーたちも早く家族と再会してよ」


 「こちらこそ、食事や一晩泊めてもらった上、旅の道具まで用意してもらってありがとうございます。こんなに助けてもらったから、きっとすぐに家族と再会できるでしょう」


 整理が終わってヘレマはお嬢さんの手を取ってお別れを告げた。お嬢さんも返事に感謝を言ったが……


 「あのうヘレマさん、そろそろ離してくれませんか」


 ヘレマはしっかりとお嬢さんの手を握って離さない。


 「それ、それと、真剣にあたしの話を聞いてくれてありがとう!」


 「え?」


 ヘレマの感謝に何故かお嬢さんは困惑している。

 それに構わず、ヘレマは続いて話した。


 「本当はもっと早く言うつもりだったけど、昨日はお爺ちゃんのことで頭がいっぱいで言いそびれたの」


 「別に感謝されるようなことはしなかったよ。ただ話を聞いただけだから」


 お嬢さんはそわそわしながらそう言った。


 「それでもあたしは嬉しかった。実をいうとずっと誰も言えずに悩んでいた。だから、ヒャリエーが聞いてきた時は全部話したかったけど、お爺ちゃんの耳に届くかもと思って躊躇ってた。

 でもヒャリエーのまっすぐな目で誰にも言わないと約束してくれたから、あたしは勇気を絞って話せた。おかげでスッキリした」


 「そうですか。それで力になれたならよかったです。それじゃわたしたちは急いでいますからこれで……」


 「チェルカ、あのう、最後にもう一度あたしを抱きしめてくれ……いただけますか」


 お嬢さんは話を切り上げようとしたが、目標をチェルカに変えてハグを求めた。




 「あっ! きたきた!」


 不機嫌に家を出たお嬢さんと疲れたチェルカの目の前に広がる光景は人垣だ。どうやら、今日出発のことはもう村中に知れ渡ったようだ。この人たちは多分見送りにきたのだろう。


 「もう盗賊に襲われるなよ!」


 「バカ、もっと他の言い方があるじゃない。気を付けてね」


 「頑張ってーーきっとすぐに家族と再会できるから」


 これを皮切りに村人たちがそれぞれに応援を言いはじめた。

 おかげでまたすっかり騒がしくなった。


 「皆さん、わざわざわたしたちのためにいろいろ用意してくれて、本当にありがとうございました」


 村人たちにお嬢さんはそう言って微笑みながらチェルカと最敬礼した。そして、すでにお嬢さんの馬を連れてきて待機していた老人のところへ歩き出した。


 「いろいろ、ありがとうございました」


 「こちらこそありがとう、お嬢ちゃんたちのおかげでヘレマがやっと心に溜め込んだことを話してくれました。おかげで前より元気そうです」


 「知っていたんですか」


 老人は何も言わずただ微笑んだ


 そしてお嬢さんたちは乗馬してゆっくりと馬を進ませたが、村を出るまでお嬢さんは始終微笑みのままなのに対しチェルカは感謝の言葉を繰り返しながら手を振った。


 「安心させたいからか……」


 「ヒャリエーなんか言いましたか?」


 「別になんでもないよ。ただの独り言」


 村を出た途端お嬢さんはポツリと言った。

 まだ体をできる限り後ろに向きながら手を振っているチェルカにはよく聞こえなかったようだ。それで、お嬢さんの声をよく聞こうと前のめりになって耳をお嬢さんの耳あたりに伸ばして内容を聞いたが、お嬢さんに複雑そうな笑顔で誤魔化された。


 「なんの独り言ですか」


 「朝は寒いなーーと呟いただけよ」


 「そうですか……」


 チェルカの角度から顔が見えなくても声で何かを感じ取ったのか、チェルカは食い下がって質問した。しかし同じように誤魔化された。

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