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26、抱きながら寝る

 「服ありがとう、お爺ちゃんに見せに行くね」


 お嬢さんの服に着替えたヘレマはベッドにあった枕を持ってドアノブを握った。


 「こちらこそ、食事だけじゃなく旅に必要なものまで用意してくれてありがとう。ところで、何故枕を持っているんですか?」


 服を見せに行くだけなら枕なんて必要ない。なのにヘレマは枕を持って行こうとしている。そんな不自然な行動に不思議がったお嬢さんはそう聞くと……


 「あたしは自分の枕じゃないと寝れないの」


 ヘレマはまるで今夜はここ以外のところで寝るつもりのように返事した。


 「ここはヘレマさんの部屋ですね」


 「そうよ」


 「じゃ普段はここで寝ているんですね」


 「そうよ」


 「それじゃどうして枕を持っているんですか?」


 「どうしてってあなたたちは今夜うちに泊まるでしょう?」


 「えっ?」


 「ん?」


 お嬢さんとヘレマの一問一答はヘレマの質問で終わった。


 「いやいや、おじいさんが帰ってきたら、すぐに出発するって言ったじゃないですか」


 お嬢さんはさも当然のように言うと……


 「それは昼間の場合じゃないの? 今は夜、出発しても道はよく見えないから危険だろう。今夜は泊まっていって」


 「ヘレマちゃんの言う通りです。夜が明けてから行きましょう」


 ヘレマに加えてチェルカもお嬢さんを説得しようと諭した。


 「気持ちは嬉しいですが……」


 「それに……」


 それでもお嬢さんが断ろうとしたところに、ヘレマは枕を抱きしめてもじもじしながら何かを言おうとした。


 「はい?」


 ヘレマの突然な行動が気になったのか、お嬢さんは断るよりヘレマの言いたいことに耳を傾けた。


 「それにあたしは久々にお爺ちゃんといっしょに寝れる口実がほしい……だから今夜は泊まっていって……ください」


 「ヘレマちゃん……」


 そんな一生懸命に訴えかけるヘレマの姿に感動したのか、チェルカはヘレマを抱き寄せていっしょにすがるような目でお嬢さんを見ている。

 ……

 「はーーわかりました。今夜は泊めさせてもらいます」


 お嬢さんは一瞬不快を滲み出る目でヘレマを見たが、溜息をついて承諾した。


 「「ありがとう(ヒャリエー)」」


 「じゃぁ、あたしお爺ちゃんのところに行くね。おやすみ」


 「「おやす……」」


 パタン!

 お嬢さんたちの返事より早くヘレマは出ていった。


 「じゃ、夜明けで出発するからもう寝よう」


 「えっ!? ずっと聞きたかったんですが、どうしてこんなに急いでいるんですか」


 チェルカはお嬢さんが決めた予定を聞いて当然の疑問を口に出したが……


 「チェルカは早く妹に会いたくないの?」


 「もちろん早く会いたいです」


 「じゃ、急いでもいいじゃない」


 お嬢さんにはぐらかされた。


 「はーー」


 チェルカもそれに気づいたようだが、これ以上は聞かなかった。


 「そんなことより早く寝よう」


 「はい、ちょっと待ってください」


 そう言ってチェルカはささっと着替えたが、ベッドサイドに立ったままベッドに上がらない。


 「どうしたの? 早くおいで」


 お嬢さんはもうベッドに横になって、開けておいたスペースをポンポンと叩きながらチェルカを催促した。

 しかし、それでもチェルカは少し躊躇ってから口を開いた。

 「……怖いです」


 「何言っている。昨夜もとい今朝はいっしょに寝たじゃない。今更何が怖い?」


 「それも怖いですが、今もっとも怖いのは帰ったあとのことです。旦那様の許しもないのに外でお泊りするなんて……」


 「じゃぁ、帰らなければいいじゃない」


 チェルカは思い詰めた顔で言ったが、お嬢さんはただ淡々と言った。


 「えっ! でも……」


 「でもじゃない、そんなことより早く寝よぅ。明日は早いんだかっらっ!」


 お嬢さんはそう言いながら手を伸ばしチェルカの手を掴んで引っ張った。

 「きゃっ!」

 チェルカはそのままバランスを崩されベッドに倒れ込んだ。


 「もう! 危ないじゃないですか」


 チェルカは頭がお嬢さんの大きいとは言えない胸に乗った状態で抗議した。


 「それはチェルカがつべこべ言うのが悪い。早くベッドに登って寝ればいいのに」


 「もう、どうして私のせいです……か」


 チェルカはそう言いながら反射的に声のした方を見ると固まった。


 「どうした? 顔が赤いよ」


 「な、なんでないんです」


 チェルカはそう言って目をそらしながら起き上がった。どうやら、お嬢さんとのキスを思い出したようだ。


 「キス、する?」


 「と、唐突に何を言っているんですか」


 お嬢さんの急な提案にチェルカは動転した。


 「だってわたしがそのキスを思い出した途端、チェルカは恥ずかしそうにして全然わたしの顔を見ようとしないだもん」


 「そ、そんことはないんですよ」


 「じゃあ、ちゃんとこっちを見て」


 お嬢さんはそう言いながら起き上がってチェルカににじり寄った。


 「わ、私も寝ますから! 先におやすみくださいませ」


 そう言ってチェルカはお嬢さんを寝かせてから、お嬢さんを背にベッドサイドギリギリのところに寝た。


 「チェルカ」


 「な、なんですか? 明日は早いとヒャリエーが言ったんじゃないですか」


 チェルカがビクッとして返事すると、お嬢さんは無言のままチェルカの背中に顔を埋めた。そしてぽつりと言った。


 「わたしを抱きながら寝て」


 「え? ええええ! 急にまたどうしたんですか」


 「2回」


 「はい?」


 チェルカの疑問にお嬢さんはよくわからない回数で答えた。チェルカは意味なんて当然わかるはずもなく困惑状態になった。


 「今日、チェルカがヘレマさんを抱きしめた回数」


 「え!? それで抱きながら寝てほしいと……」

 チェルカは驚きながら寝返りを打ってお嬢さんの顔を見ると、また赤面で寝返って背を向けた。


 「チェルカーー」


 「……もう! わかりました。正面からは無理ですからせめて後ろからでお願いします」


 「ふふ、ありがとう」


 お嬢さんのおねだりに勝てず、チェルカはお嬢さんの寝返りの音を確認してから要望に応えた。


 やっぱりお嬢さんたちは面白いな。それに比べておじいちゃん子のヘレマは老人とどう話し合っても説得されるのだろう。簡単に予想できるとつまらないな。ヘレマと老人の話し合いは見なくてもいいか。

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