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23、ご飯を食べて旅の支度をする

 チェルカが老人にそれっぽい事情を説明したら、老人は「それじゃぁうちでご飯でも食べて行きませんか」と自分の家に誘った。老人に着いて行ったら、村の他の家とさほど変わらない普通の家にきた。


 「お嬢ちゃんたちにとって窮屈かもしれませんが、ゆっくり休んでください」


 老人はそう言って中へ案内しようと先行してドアを開けに行った。

 こういうシチュエーションはこの人畜無害の顔した老人など以外がやったら、多分犯罪にしか見えないだろう。まぁ、実際この老人が罪を犯さない保証はどこにもないが。

 たとえそうじゃなくても、理由もなく身なりのいいどこかのお嬢さんがこんな田舎村にいる時点で十分訳ありだ。


 「チェルカ、本当にこのおじいさんは信用できるの」


 「うまく説明できませんが……なんとなく大丈夫だと思います」


 「なんとなくってダメじゃないか!」


 「あのう、どうかしましたか?」


 ドアを開けた老人は振り返ると何やら耳打ちしていた2人に問いかけた。


 「いえ、ただお嬢様がこういう家を初めて見たのでちょっと興奮しただけです」


 「お爺ちゃん、どうしたの? こんなに早く帰ってきて、忘れ物でも……したの?」


 チェルカが慌ててごまかしたところに、家からお嬢さんと年がそう離れていないと思われる茶髪の女の子が元気よく小走りで来て老人を出迎えた。小走りの振動か、それとも風か、なびく髪が一層女の子を元気に見せた。


 そんな元気に溢れた第一印象を与えてくれた子だが、お嬢さんとチェルカを見た途端、活気な声が困惑に満ちた音色になった。そしてすぐに老人の後ろに隠れた。


 「お爺ちゃん、この人たちは誰?」


 女の子の言葉から察してどうやら老人の孫ようだ。そして人見知りのようだ。


 「旅の道具を無くしてしまった旅行者だ。さぁ、ヘレマ、挨拶して」


 「こんにちは……」


 ヘレマは老人の背中に隠れたまま恐る恐る挨拶した。


 「ヘレマ、ちゃんと前に出て挨拶して」


 「こんにちは……ヘレマです」


 お嬢さんとチェルカの前に出て、モジモジしながらも老人の言う通りに挨拶したが、またすぐ老人の後ろに逃げた。頑張ったな、いい子だ。


 「「こんにちは」」


 「孫のヘレマです。見ての通りシャイな子ですが、ここにいる間だけでもいいです。友達になってくれると嬉しいです」


 「はい。

 ヘレマちゃん、はじめましてチェr……」


 ぐるるうぅ


 老人のお願いを喜々と了承したチェルカは身を乗り出して、お爺さんの後ろにいるヘレマに自己紹介している最中、聞き覚えのあるお腹の音がまた響いた。

 しばし硬直したチェルカは赤面で誰かのようにお嬢さんの後ろに隠れた。


 「フフッ、お昼のシチューはたくさん残っているの、よかったら食べる?」


 「いただきます……」


 「ん? 何?」


 ヘレマの提案にチェルカは隠れたまま返事したが、声が小さいせいでヘレマは全然聞こえなかった。


 「はーー、いただきます」


 それを見かねたお嬢さんはため息をついて代弁した。




 「へええぇ! じゃ盗賊に襲われて荷物が奪われた上、他の仲間とはぐれちゃったの!? 大丈夫?」


 食事後、回復したチェルカは何もなかったようにそれっぽい理由をヘレマに説明した。


 「大丈夫です。お嬢様と悩んでいるところにお爺様にこうしてお家に招待され、ごちそうになりました。改めて、助けていただいてありがとうございます」


 「いえいえ、そんな大袈裟です。僕はただ昼ご飯を奢っただけなんです。それじゃ、僕は街に買い物にいくんですが、お嬢ちゃんたちはゆっくり休んでください」


 感謝されるのは慣れていないのか、老人はそそくさと出かけようとした。


 「ちょっと待ってもらえますか?」


 お嬢さんはドアノブに手をかけた老人を呼び止めた。


 「はい、どうしましたか?」


 「わたしの服と交換に旅の装備一式をいただけますか?」


 「本気ですか!? 僕みたいな田舎者は服に詳しくないんですが、その服はとてもお高いことぐらいは一目で見ればわかります」


 「声が大きいです。耳が響きます」


 老人は驚きのあまり大声を上げた。その音量に耐えかねたお嬢さんは耳をふさいで抗議した。


 「わわわ、こんな高いものをもらえないの」

 「ヒャリエー、いくらなんでそれは……」


 一拍遅れて反応したチェルカとヘレマはお爺さんに加えてそれぞれの意見を言っているが、お嬢さんは顔色一つ変えずにただ何かを待っているように全員を見ている。


 やがて静かになるとお嬢さんが口を開いた。


 「みんなと(はな)(ばな)れになる前、ドエワンオリの街で合流すると約束したんです。だから今は早く次の街に行きたいです」


 ……


 「わかりました。用意してきますので少し待ってください」


 お嬢さんと少し見つめ合った老人は真剣な面持ちでそう言って出ていった。


 ……


 「ヘレマちゃん、どうしたんですか?」


 出ていく老人を見送ったヘレマは暗い顔でドアを見つめている。それを見たチェルカは声をかけたが……


 「あたし、実は結婚したくないの」


 はい、また1人結婚したくない女の子が出てきました。

 この国は何なんだ。結婚したくない子供を結婚させる風習でもあるのだろうか。 

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