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22、こんな装備はダメだ

 「ヒャリエー、そろそろ今どこへ向かっているかは教えていただけませんか?」


 お嬢さんはお父さんを殺した後、有無を言わさず強引にチェルカを乗馬させ、一匹の馬を2人乗りで屋敷を出た。

 チェルカもその時に詳しく理由を聞こうとしたが、聞けなかった。理由はお嬢さんの強引さに負けたせいもあるけど、主に2人が乗馬した途端、お嬢さんは逃げるとしか感じられない速度で馬を走らせたせいだった。

 チェルカはその速度に腰を抜かされ、ただ馬から落ちないようにお嬢さんにしがみつくのが精一杯だった。


 屋敷と大分離れたところに来てようやくお嬢さんは速度を落とした。馬がゆっくりとした歩きになって暫く休憩したチェルカはやっと質問できる状態になった。


 「どこって、チェルカの妹さんのところに決まっているじゃない」


 「妹……って、ヒャリエーはビンへの居場所は知っていたんですか! ひどいですっ。どうして教えてくれなかったんですか!」


 さも当たり前に答えたお嬢さんの言葉を消化不良のように少し考えたチェルカは、今妹さんのところに向かっていると理解した途端、すぐ大人にオヤツが食べられた子供のような泣き顔になりながら怒り出した。


 「落ち着いて、わたしもついさっき知ったばかりだよ」


 「どいうことですか!」


 「チェルカが部屋を出た後パパの呟きを聞いたの、『そう言えば最近、あのメイドの妹をドエワンオリの支店が……』って」


 「ドエワンオリの支店がどうしたんですか」


 チェルカは昨夜のような血の引いた真っ白な顔になりながら、震える声で詳細を聞こうとした。


 「さぁ、わからない。小声で呟いたからその続きはよく聞き取れなかった。あっ! でもドエワンオリの支店と言ったのははっきりと聞いたから、どういうことか行けばわかる。だから泣かないで」


 ようやく消息をつかめたうれしさからか、それとも不安に押し潰されたのか、チェルカは力強くお嬢さんに抱きつき、顔をお嬢さんの背中に埋めて声を殺しながら泣いている。




 「チェルカ、もう大丈夫?」


 「はい、すみません……」


 泣きやんだチェルカは顔をあげるとお嬢さんは優しく声をかけた。しかし何故か、チェルカは返事をするや否やまたすぐ顔をお嬢さんの背中に埋めた。

 また泣くのかと思ったが、よく見ると耳が赤くなっている。多分恥ずかしがっているのだろう。


 「それじゃぁ、風景でも見て気分転換しよ……」


 ぐるるうぅ


 どこから響くお腹の音がお嬢さんの提案を遮った。


 誰のだろうと思うとチェルカが身を縮めてより力強く顔を埋めた上、耳もさっきよりずっと赤くなった。


 「ふふ、その前ご飯を食べようか。たしかにこの辺に村が……あっ」


 お嬢さんは何かを思い出したように両目を大きく見開いた。


 「ヒャリエー? どうしたんですか?」


 「チェルカ」


 「はい!」


 チェルカが心配そうに声を掛けるとお嬢さんは真剣な面持ちでチェルカの名前を呼んだ。チェルカはその物々しい雰囲気につられて緊張感に溢れた返事をした。


 「今、あの手紙やサンドイッチの入った袋は持っている?」


 「すみません、今持っていません」


 「じゃぁ財布も?」


 「はい、いきなり外出になったので何も……ヒャリエー、まさか……」


 お嬢さんは馬を道の脇に止めておもむろに口を開いた。


 「うん、わたしも何も持ってないの」


 ……


 「はーー」


 少しの沈黙のあと、チェルカは大きくため息をついた。


 「行動力があるのはいいことですが、ちゃんと準備してから行動してください」


 チェルカの指摘にお嬢さんは「ぐっ」と言いながらびくっとした。多分これはよくあることなんだろう。


 「それじゃ一旦帰りましょう」


 「嫌だ!」


 チェルカが帰宅を提案した途端、お嬢さんは過剰としか言えない反応をみせた。


 「帰らない!」


 「ど、どうしたんですか!? このまま進んではテントも食料もなしの旅になりますよ。一度帰って準備したほうが……」


 「帰っちゃダメなの!」


 お嬢さんのあまりにも強い反発にチェルカは呆気にとられたが、すぐに宥めるような口調で問いかけた。


 「どうしたんですか? 私で良ければ……」


 「お嬢ちゃんたち、どうかしましたか?」


 「だ、誰!」


 突然錆びた声が前方から割り込んできた。驚いたお嬢さんは急いで馬を90°旋回させ、身構えながら声のしたほうを見た。

 するとそこには1人の人畜無害そうな顔をした老人が荷馬車の御者台に座っていた。


 「驚かせてすまなかった。僕はこの先の別れ道を右に進めば見える村の住人です。孫の結婚祝いを買おうと村を出たところ、お嬢ちゃんたちはなんか言い争っているもので、つい声をかけてしまった」


 「お、お騒がせしてすみません! すぐ行きますから」


 お嬢さんは顔が真っ赤になって恥ずかしそうにこの場を離れようとしたが、老人がまたお嬢さんたちに声をかけた。


 「ちょっと待って、力になれるかどうかはわかりませんが、良かったら話をきかせてくれませんか」


 お嬢さんは疑わしく老人を見ているが、


 「あのう、実は……」


 チェルカは少し考えてから老人に自分たちは旅の装備を無くしてしまって今困っているところと伝えた。

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