21、敵への復讐
あれはパパがある商品の市場を独占しようとした時のことだった。ある日突然どっかから買った商品を持ってすごい勢いで「これの出どころわかるか」と言いながら迫ってきた。
驚きながらもわたしはパパの期待に答えようと頑張った。
その時に頑張った成果の一つは「物が誰の手を経てここに来た」のかはわかるようになった。そしてついでにその「誰かの情報も調べられる」ようになった。
この力で調べようと髭男に何か依頼主からもらった物は今持っていないかと聞いた。結果は持っているが、まさか髭の中に隠したなんて……。
毒の入ったという小瓶を髭男の髭に縛られたままの状態でわたしの手に乗せた。
力を使うと頭に画像が浮かぶからそれをはっきり見ようとわたしは目を瞑った。
さて、どれどれどこのどいつがわたしに死んで欲しいのか。まぁ、お金持ちの娘である以上、わたしが狙われるのも仕方ないとしてチェルカを巻き込んだのは許せない。必ず見つけ出して殺さないと気が済まない。
そう思いながら力を使った。すると髭男の顔が浮かんだ。
よし、成功。結構使うのが久しぶりだからちょっと心配したが、大丈夫みたい。
それじゃ前の持ち主は……
画像が切り替わり、見るからちゃんと食べてなさそうな男の痩せ顔になった。
すぐに力でこの痩男の情報を調べると頭に痩せ男の情報が次々と浮かんできた。
名前:ヒャース・タポーリ。
職業:ツァンイフ家の執事
ツァンイフ家? どっかで聞いた覚えがあるね。調べてみよう。
…………
……
「お前なにやっtーー痛てえええええぇ!」
次々に浮かぶ情報を読んでいったが、特に気になった情報は見つけなかっらから、気のせいと思って諦めて男の情報を調べるのに戻ろうとした時、怒りに流されるほどの項目を見つけた。
敵対関係:ニバイアー家
嫁がされる予定の貴族家だ。
この苗字を見た瞬間すべて悟った。
あの人は最早愛すべき人ではなく、ただひたすらわたしを絶望へ落とし愛する人から引き離す忌むべき存在だと。
復讐したい一心になったわたしは、毒を詰めた小瓶がほしくなった。しかし髭男の髭を解いて小瓶を取るのを面倒くさく思って直接髭ごと小瓶を取った。
小瓶を縛った髭を一気に引っこぬかれた髭男はその痛みに耐えられず、悲鳴を上げた。
ざわざわ……
すべてを傍観したメイドたちは恐怖に満ちた目でわたしを見ながら一斉にヒソヒソし始めた。
いつものことだが、やっぱりこういうのは居心地が最悪だ。何回味わっても慣れなそうにない。
「ヒャリエー……」
ハッ! 怒りすぎたせいでチェルカのことすっかり忘れてしまった。
チェルカは他のメイドと同じように心底から怖いと訴えような目でわたしを見ている。
やだ、そんな目でわたしを見ないで。
居たたまれなくなったわたしは何も言えないままここを離れようと歩き出した。
どうしよう、チェルカを怖がらせてしまった。
あれもこれも全部アイツらのせいだ。
そもそもなぜ髭で縛ったんだよ! 思わずに引っこ抜いてしまったじゃない!
ん? 髭……
「あっ そうだ。みんな、もう殺っていいよ」
そう許可したわたしはすぐに広間を出た。
早く部屋に戻って休もうと思いながら足を踏み出すと……
「ヒャリエー」
チェルカが声をかけてきたが、またチェルカのそんな顔をみたくないわたしはそれを無視したが、チェルカは諦めてくれずに追いかけてきてわたしの手を捕まえた。
その手は冷たくて不安そうに震えているが、逃すまいと言わんばかりに力強く掴んでいる。
こんなに怖がっているのに、それでも追いかけてきてくれた。
嬉しい。ずっとずっとそばに居て欲しい。
「ね、チェルカ。もしパパの命令がなくなったら、以前のようにずっと私の側に居てくれる?」
だから確認せずにはいられなくなった。復讐が終わってチェルカが側に居なかったら意味がない。
「え? はい、もしそうなったのでしたら……」
「本当?」
「はぃうっ」
チェルカが全部言う前に嬉しさに耐えられず、キスしちゃった。このキスでチェルカと昔に戻ったみたいな気がした。まるで魔法のようだ。
なんとなくエイロとルードがいつも貪るようにお互いにキスする理由を垣間見た気がする。
「ヒャリエー、大丈夫か!」
チェルカと2人きりの幸せな朝をぶち壊したのはパ……いや、もう敵か。
コイツ、せっかくの朝を台無しにしたのも飽き足らず真っ先に心配したのはわたしではなくわたしの純潔。何故わたしはこんなクズのために頑張ったんだ。
そして、始まった。わたしのためとか聞こえのいい洗脳。わたしのことを便利な道具にしか思ってないくせに。
まぁ、いいっか。会いに行く手間を省けたし。あとは2人きりになれば……
その前に着いてきたこの暑苦しいダンマという軍人とチェルカを他のところへ行かせないと。
「で、わざわざ人払いまでして話したいことは?」
2人になるなり不機嫌そうに聞いてきた。
コイツいつもこうだ。毎回わたしが話しかけると眉間を寄せて苛ついているしか見えない顔になる。いつからこうなったのはもう思い出せない。
マ……奥さんといっしょに王都に引っ越した時? いや、もっと後の気がする。弟が生まれた時? その時からこうなった気がする。まぁ、正確はいつなんてもうどうでもいいか。
「その前にこれを試してみませんか? これをお茶に入れととても落ち着いた味になるんですよ」
言いながら髭男から取った小瓶の中身を紅茶に入れてティースプーンでしっかりとかき混ぜた。
「お茶はもういい。貴族様との打ち合わせはまだ終わっていないから、話が終わったらすぐに帰る」
帰る? まるでここは自分の家じゃないみたいな物言いだね。最初に買った時にそんなに嬉しそうに「ヒャリエーのお陰だ」なんて言ったくせに。
でも困った、飲んでくれないと他の方法を考えないと……そうだ!
「そんなに早く? ダンマさんたちもですか」
そう聞く一方でわたしは毒入り紅茶を逆さに持ったティースプーンで混ぜながら敵に近づいた。
「いや、ダンマ隊ちょ……」
プス!
肩に刺したティースプーンが言葉を終わらせた。




