20、ヒャリエー・ソーディ-4
チェルカを連れてあてもなく逃げたら、保管庫の入り口の近くに来た。うちの保管庫は地下にあるが、同じ地下にある食料や酒の貯蔵庫とつながっていないため専用入り口がある。
そういえば、この屋敷に引っ越してから一度も中に入ったことがないね。何があるんだろう。
「おい、なんかお頭が襲われたらしい」
その入り口から男の話し声が聞こえるや否や、わたしはすぐチェルカを連れて近くの部屋に隠れた。そして廊下からの声や音を拾おうと門に耳を当てた。
「え!? マジ? 誰だ? こんな命知らずのマネを」
ツカツカ
「そいつはローシらしい」
ツカツカ
「えぇ! あのいつもおとなしいローシが!?」
ツカツカ
話し声と足音がだんだん大きくなるにつれて胸の鼓動もどんどん速くなっていく。
お願いこのままこの部屋に入らずに通り越して。
ダダダダ
そう願った瞬間、誰かが走って来た音が聞こえた。
まさか追手か?
「おい! やばいぞ! なぜか広間にいるやつらが乱闘している」
「マジか、なんでだ?」
「知らねぇよ! 『なぜか』と言っただろう」
「はーーただでさえお頭の『戦利品を1箇所に集めて眺める』という悪いクセのせいで、いつも急いで警備隊から逃げてるから実際の収穫は1人1袋だが、今回は余裕がある上女も充実で、今度こそ全部持って帰えられると思ったのに、なぜまたこんなこと……」
「ブツブツ文句を言う暇があるならはやく止めに行こう」
「はっ! そうだな」
ダダダダダダダダ……
複数の走っていった足音が聞こえなくなると、門を少し開けて頭を出して左右に廊下を覗いた。
人影も何もなくよく見渡せる。
「ふーーもう大丈夫みたい」
危機が去ったと安心して深く息を吐きながらチェルカと部屋を出る。
「よかったです。しかし先程の対話に気になることがあります」
ん? 気になるほどのことはあったっけ。
「ほら、さっき1人が『今回は余裕がある上女も充実』と言いましたよね」
わたしの考えが見破られたのか、あるいは顔に出したのか。チェルカが説明してくれた。しかし……
「それがどうした?」
「どうしたじゃございません! それはつまり誰かがあの男たちに捕まったんです。今屋敷にいるのはメイドしかいませんので、きっと他のみんなが捕まったんです。そしてあの女性をもの扱いするような言い方も不安を感じます。はやく助けないと……」
放っておけば延々と心配しそうなチェルカの口に人差し指を当てて止めた。
まったく、チェルカの優しさは好きだけど、もっとそれをわたしに向けてほしい。
「わかった、いっしょに助けに行こう」
「ヒャリー……申し訳ありません。出過ぎたことを……」
「別に謝らなくていいよ。わたしは怒ってないから」
チェルカのことだから。このままいっしょに屋敷から逃げてもどうせこっそり戻って1人で助けようとするだろう。昔も買い出しか何かで川を渡ろうとした時、川に落ちて溺れた子供を助けようとしてかえって自分も溺れることもあったし、1人で行かせるよりわたしもいっしょに行くほうが安心できる。
それに男たち今は混乱しているようだし、もしかしたら運良く助けられるかもしれない。もし助けられなかったらせめてチェルカを男たちから逃がせねば……本当を言うとチェルカに行かせたくないが、無理やりチェルカを気絶させ連れて逃げて後々嫌われるよりはマシだ。
キンキンキン。
「死ね!」
ドス!
広間の入り口のある廊下に来たら剣戟の音が聞こえた。
忍び足で入り口に移動してこっそり覗いた。
カキーン
すると何かが落ちたような金属音が響いた。
何だろうと思いながら部屋を見回したら1人覆面していない血まみれの髭男が辛うじて床に散らばる死体たちの真ん中立っている。
どうやらこの男が乱闘の生き残りようだ。
こうして様子を見ていたら髭男がメイドたちに水を要求したが、メイドたちはただ黙々と武器を拾い始めた。そして拾い上げた武器を高く振りかざしてる。
これはよくない。はやく止めないと。
男たちが何者か、何のためにわたしを殺そうとしたのか、まだ何一つも聞いていないのに今殺してしまえば永遠に知ることができなくなる。
「皆さん! 待ってください!」
急いで飛び出して止めたのがいいが、メイドたちに説明せずに髭男に「わたしは殺しません宣言」をしちゃったのは失敗だった。
案の定メイドたちが傲慢でうるさい鳩が餌を強請るごとくわたしを中心に集まってきた。
はーー面倒くさい。
仕方なくメイド長にみんなが落ち着くようにして欲しいとお願いしてから、もしできなかったら、力で知った毎回給料日前こっそりみんなの給料を1割を抜いて私腹を肥やしていることをバラすと脅した。
そしてようやく落ち着いたみんなに説明して納得してくれた。これでいよいよ聞ける。
聞いてみれば男たちは雇われたようだ。しかし、やはりと言うべきか。簡単には雇い主の情報を得られない。嘘であれ、本当に知らないのであれ、このまま聞くのは無駄だろう。
人に聞くのがだめならば物で辿ってみよう。




