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16、お人好し

 「ダンマ隊長、わからないと言いますと?」


 お父さんが驚きの表情になりながら、何故ここに来たかわからないダンマに理由を聞いた。


 「いやーー3日前、日課の訓練を終えて休憩してたら領主様に自分たち、374小隊を呼び出されたんすよ。行ってみたら、突然自分たちをフォルテさん、あなたに貸すと言われてまだ困惑しているのに、フォルテさんは説明の1つもせずにここまで連れてきたんじゃないすか?」


 「言われてみれば、確かに説明しなかったですね。すみません」


 ダンマの説明にお父さんは目からウロコが落ちたように納得した。


 「へぇ、何も知らないのにお父さんに付いてきたんですか? どうしてですか?」


 好奇心に駆られたか。お嬢さんは子供らしく疑問を口に出して聞いた。そんなお嬢さんの行動にお父さんは顔を顰めて無言で見つめているだけ、とくに何も言わない。多分、他人の前だから止めなかったのだろう。


 「そりゃ、これでも一応軍人だからっすよ。どんな理由でも、どんな命令でも上の人の言う通りにしなけりゃならないっす。フォルテさんも謝る必要はないっす。これはよくあることっすから」


 「そうですか……そうですね。命令ですからね。じゃぁ、お父さんはどうしてダンマ隊長たちを連れてきたんですか?」


 お嬢さんはダンマの説明聞くと、少し俯いて独り言のようにダンマに返事してからお父さんに問いかけた。

 ダンマも理由を知りたがってお父さんを見ている。


 「それは3日前、貴族様と結婚式などのことを話し合っている途中、突然貴族様の側近が入って来てヒャリエーが盗賊に狙われていると言ったから、ヒャリエーを守るために貴族様が特別に兵を貸してくださったんだ」


 「わたしを守るねーーふん。もう後片付けをしているのに今更帰ってきて何を守るというんだ。それにこんなことになるのもお前のせいなのにね」


 お父さんは「貴族様がよく思ってくださるな」と言わんばかりの顔で説明した。その表情を見て説明を聞いたお嬢さんは私が何回も聴き直すぐらいの小さくて、憎しみに満ちた声で呪うようにブツブツとそう言った。


 「ヒャリエー、なにをブツブツ言っている?」


 「えっと、考え事を口に出したんですか?」


 ブツブツ言うお嬢さんを気になったお父さんは何も知らずに問いかけたが、当然のようにお嬢さんは正直に言わない。


 「考えるのはいいが、今お客様がいらっしゃるから口に出さないで考えなさい」


 「はい、すみません。これから気をつけます」


 「へぇーーそれでフォルテさんは急いで帰ってきたんすか。それでお嬢さんは大丈夫っすか」


 またお説教になりそうな雰囲気を感じたダンマは阻止しようと無理やりに会話に割り込んだ。


 「あっ。ダンマ隊長、すみません。またまたお恥かしいところをお見せしてしまいました」


 「いえいえ、お嬢さんはご無事で何よりっす」


 「皆様、紅茶を淹れて来ましたが、いかがでしょうか」


 ダンマの割り込みで我に返ったおはダンマに謝ると、いつの間にかチェルカがティーセットを用意した。父さんがティーカップを受け取ると、ダンマとお嬢さんも続いて受け取った。


 多分これは説教されるお嬢さんが少しでも気が休められるよう、チェルカなりのフォローだろう。


 「ダンマさん、そう言えばさっき小隊で来たと言いましたね。じゃ他の隊員たちは今どちらに?」


 紅茶をゆっくり1口飲んで息を吐くお父さんを差し置いてお嬢さんはダンマに問いかけた。


 「屋敷に着いた途端、馬から飛び降りて走って行ったフォルテさんを追って行ったら、重いものを移動したいのに力不足で困りはてたメイドたちに会ったっす。

 ちょうどこんな大人数で追うのは迷惑と思って、他のやつは副隊長に任せてお手伝いに行かせたっす。そして自分はこうして1人でフォルテさんを追ってきたっす」


 「そうですか! お客さんなのに手伝わせるなんて申し訳ないです」


 「大丈夫っす。そのままやつらを待たせるのも退屈させるだけっすから、ちょうどよかったっす」


 「それじゃ申し訳ないです。せめて十分におもてなしさせてください」


 「いや、こっちが好き勝手にやっているだけっすから、おもてなしする必要はないっす」


 他の兵士がメイドのお手伝いをしているのを聞いて、お嬢さんは申し訳なさそうに提案したが、ダンマは断った。


 「遠いところからやって来たので、きっと疲れているでしょう。そう言わずに」


 「本当に大丈夫っす。事情もわかったし、自分はそろそろ他のやつと合流しないと、失礼したっす」


 「ダンマ隊長、ちょっとお待ちを」


 お父さんが引き留めるようとしたが、ダンマはそう言い残してすぐに逃げるように部屋を出た。お父さんは追いかけようと立ち上がったが……


 「お父さん、ちょっとお話があります」


 お嬢さんが引き留めた。


 「チェルカ」


 「はい、何でしょうか。お嬢様」


 「私うっかり馬小屋で落とし物したの、探してきて」


 「……はい」


 お嬢さんのあからさまな人払いにチェルカは渋々と部屋を出た。




 お嬢さんが用事を済ませてすぐに馬小屋に向かった。中に入るとチェルカが牧草をかき分けて何かを探している。


 たとえ人払いだと知っても一応するのだな。


 「チェルカ、行こう」


 「え! ちょっと、ヒャリエー引っ張らないでください。行くってどこです? 旦那様は?」


 チェルカは来ていきなり乗馬させようと自分を引っ張ったお嬢さんにそう聞くと、お嬢さんは満面の笑顔で振り向いてこう言った。


 「パパ? もう死んだよ」

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