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15、一瞬だが、びっくり

 不躾に扉を開け、そう叫んだ男は明らかに使用人たちより遥かに質のいい服を着ている。しかし、その割には服が乱れていて今も息が整っていない。服と全然似合わない身だしなみだ。そして見る見る間に湧いてきた汗で濡れていくのが更に似合わなくなった。


 この人は全力疾走でもしたのか?


「だ、旦那様、お帰りなさいませ」


 チェルカは座ろうとした姿勢でバネのように跳ね、きちんと立ってからそう言いながら深々とお辞儀した。


 旦那様? ということはこの威厳の欠片も感じない人がお嬢さんのお父さんなのか? 噂から想像したイメージとは全然違うな。


 こんな慌てぶりから察すると多分帰ってきたところに使用人にでも状況を聞いたのだろう。そしてお嬢さんの安否を確かめようと慌てて走ってきた。さすがに自分の娘が殺されそうになっては心配ぐらいはするのだな。


 それは父親として心配しているのかどうかは知らないが。


 「わたしは大丈夫です」


 「本当? そこの君! ヒャリエーは本当に大丈夫なのか?」


 「はい! 旦那様、お嬢様の言う通りでございます!」


 お嬢さんは微笑みながら大丈夫と言ったが、お父さんは心配そうでガチガチになったチェルカに確認した。


 「そうか! そうか! もし純潔が奪われて嫁にいけなくなったらどうしょうかと思ったんだが、無事で良かった」


 「ひっ!」


 「どうした! 何があった」


 「も、申し訳ございません! おしゃっくりしてしまいました」


 「……本当それだけ?」


 安堵しているお父さんがチェルカの悲鳴に聞こえない奇声に驚いて問いただした。しかし、チェルカは白々しい嘘をついたうえに、真っ白な顔で狼狽えながら答えたせいで余計に怪しく見えた。


 そして、何故チェルカが悲鳴をあげたというと、お嬢さんの表情を見てしまったからだ。


 お父さんがチェルカはまだ純潔な身であると知って、嬉しそうに結婚のことを言いだしたその瞬間、お嬢さんは冷酷な目でお父さんを睨んだ。その表情はさっきまで純真に笑いながらチェルカと遊んだ人と同一人物とは思えないほどのものだった。


 お嬢さんはそんな表情一瞬しかしなかったが、その表情しっかりと見てしまったチェルカは怖がって思わず奇声を出したのだった。


 「パパ、チェルカが怯えています。そんなに見つめないでください」


お父さんがそんな挙動不審なチェルカを疑わしい目で見定めているとお嬢さんが止めに入ったが……


 「ヒャリエー、パパと呼ぶのはやめてお父さんと呼ぶよう、あれほど言ったじゃないか。盗賊共に邪魔されたが、君はもうすぐ結婚するんだぞ。いつまで子供でいるつもりだい?」


 まさかのお説教だ


 「……」


 「ヒャリエー、聞いている?」


 「ええ、聞いています。お父さん」


 呼び方で注意されたお嬢さんはその責める言葉に思うことがあるらしく、暫し考え込んだ。しかし、それを見たお父さんは娘が話を聞きたがらないと思ったようだ。

 お父さんは少し不機嫌な口調で確認したが、お嬢さんは淡々と答えた。


 多分お嬢さんのその冷酷な表情を見たせいだろう。

 その淡々とした答はやけに不気味に聞こえた。

 そして、同意するかのように同じ見たチェルカはその答を聞いた途端、震えだした。


 「そう? いいかヒャリエー、君は直に結婚するんだ。そしてそのうちに子供を産むんだろう。その時にまだ今ように振る舞ったら、子供への示しがつかないんじゃない。

 さらにだ。

 妾とはいえ、せっかく貴族様が縁談を持ちかけてくださったから、ちゃんとしないとこの千載一遇の玉の輿を逃してしまうんじゃないか」


 「……はい、お父さんの言うとおりです。心配をかけてしまってすみません」


 お父さんのお説教にお嬢さんはまたしても抑揚のない声で答えた。


 「そろそろ、その辺にしときませんか?」


 そのままお父さんのお説教とお嬢さんさんのそっけない返事でサイクルしそうな会話に知らない声が割り込んだ。


 声のした方に見やると1人、制服姿の男が入り口から部屋に入ってきた。


 男は服の上でもはっきりとわかるごつい体格。顔は室温が上がりそうな体育先生の顔。この2つの要素を兼ね備えた人は私のイメージでは休日をまるごとに筋トレに費やすタイプだ。

 そして、私のようなインドア派を見るとしつこく運動はいいぞとうるさく運動に誘ってくる。そんな嫌なタイプだ。


 「ダマン隊長、これはお恥ずかしいところをお見せしてしまった」


 「ははは! 大丈夫! 子供らしいということは純真な証拠っす」


 「お父さん、その人は……」


 イメージ通りこのダマとやらは必要以上な音量でお父さんと受け答えている。

 お嬢さんは何故そんな暑苦しい男がここにいるのかと疑問に思って問いかけた。


 「ああ、紹介する。この方は今度君と結婚する貴族の配下にある軍のダマン隊長だ」


 「どうも、自分はアエンザリー領第374小隊隊長のダマンっす。よろしく!」


 このダマンという男は軍人のようだが、軍人の気質全然ないな。


 「はじめまして、ヒャリエー・ソーディです。ダンマ隊長はどうしてここに?」


 「自分もよくわらないっす」


 は?

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