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12、人の話をよく聞こう

 「おい!俺を助けたら何でもやるから殺さないでくれ」


 ヒゲはメイドたちに殺されそうになったからか、それとも殺し合いで力尽きたか。尻餅をついてお嬢さんに命乞いをした。

 しかし、多分はお嬢さんが止めたから自分を殺すつもりはないと思ったのだろう。口調は依然横柄なままだ。


 「質問に答えてくれたら、()()殺しませんよ」


 「本当か!」


 「はい、勿論本当です」


 お嬢さんがそう答えるとヒゲはニンマリと笑った。


 「お嬢様!エイロやルードは汚されたんです!そんなに簡単に許しては皆が納得することはできません!」


 「そうですよ。こんなクズ殺すべきです」


 「ただ殺すじゃ気が済みません!たっぷり痛めつけてから殺すべきなんです」


 お嬢さんとヒゲがそんな約束を交わしたのを見たメイドたちは腑に落ちずに騒ぎ立てはじめた。


 たしかに自分の友達や仕事仲間がそんな目に遭ったのに加害者がなんのお咎めもなくては誰も納得できないだろう。


 しかし元々このメイドたちはお嬢さんを憐憫するより雇い主であるお嬢さんの父の命令を優先する人たちだから。敵対的な関係になったらお嬢さんの日常は今より悲惨なものになるだろう。


 「すーー 大丈夫です。私を信じてください。とりあえず縛り上げましょう。もし体力が回復して暴れられたら大変です」


 お嬢さんはさながら何かを抑えるように深く息を吸ってから微笑みながらメイドたちにそう言った。


 メイドたちは今更気づいたように慌ててロープでヒゲを拘束した。ヒゲは傷とかのせいか、とくに反抗はない。

 

「メイド長、ちょっと来てください」


 メイドたちがヒゲを縛っている間、お嬢さんはメイド長を呼び寄せた。そして口をメイド長の耳元に近づけ何か囁いた。

 それを聞いたメイド長は青ざめた顔になって問いかけた。


 「どうしてご存知ですか」


 「皆さんを落ち着かせたら、誰にも言いません」


 「わかりました」


 お嬢さんは表情を変えずにそう言うとメイド長は返事してすぐ他のメイドを宥めはじめた。チェルカも続くようにいつの間にか泣いているメイドたちを慰撫している


 それでもメイドたちはなかなか落ち着かないのをみて、お嬢さんは大きくため息を吐いた。そしてメイドたちを広間の隅に集めて円陣を組ませた。お嬢さんは円陣の真ん中でヒソヒソとメイドたちに何かを言った。


 するとメイドたちは号令でも受けたようにどっと感心の声を上げた。


 どうやらメイドたちを説得したようだ。しかし、一体何を言ったのだろう。なぜかメイドたちはさっきヒゲを殺そうとした時のような不気味な笑みでいっぱいだ。


 「フン!やっと終わったか。いつまで待たせるつもりだ。早く終わらせて俺を助けろ」


 「待たせてすみません。じゃぁ、聞きますね」


 ヒゲはイラついた口調で不満を言ったが、お嬢さんは軽い口調で受け流した。


 「フン!」


 そんな対応をされてもヒゲはただ鼻を鳴らすことぐらいしかできないほど弱まったようだ。てっきり怒鳴りつけたりすると思った。


 「なぜ私を殺そうとしたんですか?」


 「依頼されたからだ」


 「誰に依頼されたんですか?」


 「知らねぇ、大金の前で依頼主はどこのどいつなんて気にしねぇよ。それにこの手の仕事じゃ依頼主のことを探らんのは常識だ。依頼主のことを必要以上知ったが最後消されたヤツは山ほど居んからな」


 「そうですか……じゃ依頼主からお金以外、ほかに貰ったものはないんですか?」


 「金以外というとお前を確実に殺すために寄越した毒ぐらいしかねぇな」


 「つまりあるんですね。今持っていますか?」


 「持っていんよ。コイツは危なすぎんからな。裏切られてコイツを使われたら冗談じゃねぇ」


 「ちょっと見せてもらえますか?」


 「フン! 今の俺は断れるんか? クソが。髭の中に隠してあんよ。好きなだけ見ろ! だが、俺の髭を切ったりしたら、ただじゃ済まねえぞ!」


 ん? ヒゲの中?


 お嬢さんも意外とばかりに目を見開いた。

 そして髭をかき分けてみると1つ小さなガラスの小瓶があった。

 小瓶は裏側の髭で縛って吊り下げている。中身は透明な液体が半分ほどある。


 なるほど、表側の髭が幕になって小瓶を隠した。例え髭がベタベタになってもその飾りつけが提灯の枠のようになって、幕を支えて不自然な膨らみが見えないようにした。

 

 お嬢さんは小瓶をそのまま手にのせた。よく見るために手にのせたと思ったらお嬢さんは暫し目を瞑った。


 「お前なにやっtーー痛てえええええぇ!」


 お嬢さんの奇行に疑問の声を上げようと口を開いたヒゲの声は途中、悲鳴に変わった。


 メイドたちもお嬢さんがしたことでどよめきはじめた。


 「ヒャリエー……」


 チェルカが声をかけてもお嬢さんは何も言わずに広間を出ようと出口に向かって歩き出した。


 手に小瓶を握りしめたまま……


 「あっ そうだ。みんな、もう殺っていいよ」


 お嬢さんはベッドの時と同じ虚ろな眼差しで振り返って常体でそう言ったらまた歩き出した。チェルカは怯えて少し棒立ちになったがすぐに追いかけた。


 「このアマ! 俺の髭を引っこぬきやがって! 戻ってこい! ぶっ殺してやる!」


 ガンッ


 「……っ!」


 一人のメイドが何も言わずにさっき拾った武器で喚くヒゲを殴った。


 「てめぇ! 何しやがる! 殺さないって約束だろう」


 「ええ。そうですよ。()()()()

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