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9、説明してもらった

 「学校はどうだった?」「宿題やった?」そういうのは私にとって嫌な言葉だ。


 せっかく仕事で忙しい両親がのんびりそうにしているのを見て、いっしょに遊ぼうと誘いたかったのに、毎回声をかけるとこんな言葉しか返ってこなかった。


 当然それは親として私のことを心配しているのは理解しているが、でも心は納得できなかった。


 たとえ私が「宿題はない」とか言っても返ってくるのは「お姉ちゃんたちと遊びなさい」しかなかった。そしてもっと嫌なのは2人の姉のどちらを誘っても、同じような返事しか貰えなかった。


 だから、私は家族に「いっしょに遊んで欲しい」などと言わなくなった。


 今思えば、それは初めて自分の意志で諦めた欲求だった。


 「おい!一体どうなってると聞いてんだ!」


 だからだろうか。私はそんなつまらない事を言う人が嫌いなのは。


 でも、ここは我慢して情報を聞き出そう。猛毒まで使って殺そうとしたから、どうせ後はまたお嬢さんたちを追撃する気満々だろう。その時に殺ればいい。


 「お頭、他のやつみんな死にました。生き残ったコイツも変です」


 「なんだと!? 小娘1人を殺んのに4人も出したんだぞ! 何があった早く言え!」


 うるさいが、我慢。


 「さっきから何を言っている? おっさんは誰だ? オレのこと知っているのか?」


 どうだ!報復質問だ!


 「おい。コイツ何を言ってんだ」


 「わかりません。さっき会った時からこうだったんです。 まるで何も覚えてないようで……」


 お頭が一瞬私を見てため息をついた。


 「お前が説明してやれ」


 「えっ」


 「早くしろ」


 「はい!」


 どうやら、ここまで案内してくれた野太い声のやつに丸投げしたようだ。やっぱり嫌な上司だ。


 「えーと、我々は主に強盗する盗賊団だ。そして、お前も我々の一員だ」


 侵入者たちの正体は強盗か……でも身代金のために誘拐するならまだしも、なぜ猛毒を使ってまでお嬢さんを殺そうとした? 金目の物を奪ってさっさと逃げればいいのに。


 「数日前、あるやつが大金を抱えて取引して欲しいと我々のアジトに来た。

 正直最初は自分から来たカモだと思った」


 つまり誰かに依頼されてお嬢さんを殺しに来たというわけか。なるほど。


 「で、その取引はこの国で一番大きい商会の会長の娘の殺害だ。

 お前と他の3人に前金といっしょに渡された毒で作った毒ナイフを持たせてその娘を殺すため、俺らとは別行動だ。どうだ?思い出したか?」


 ど忘れではあるまいし、軽く説明されただけで思い出せるわけないだろう。それに私は赤の他人だ。


 「悪い、思い出せない。でも、大体のことはわかったが、気になることがある」


 「なんだ?」


 「依頼主は誰?そして見た限りメイドしかいないが、この屋敷に警備の人はいないのか?」


 チェルカを探し回った時といい、お嬢さんたちが強盗から逃げ回る時といい。警備の人の気配は全然ない。別に没落ではないのに警備を雇わないなんておかしい。


 「は~~お前、本当何も覚えてないな」


 呆れるようにため息をつかれて愚痴を言われた。


 「依頼人のことを探らないのは常識だ。だから知らん。

 警備がいないのは商会の会長のけちで1、2日屋敷の警備がその娘の嫁荷を船に積む作業に回されると依頼主が言ってたぜ。

 だから俺らがこんなに楽に仕事できる」


 そういえばこの都市を簡単に見つけられたのは港の灯りのおかげだ。

 どうして夜なのにこんなに賑やかなのかと思ったらお嬢さんの嫁荷を積んでいるのだったか。


 最初は港に行くつもりだったが、何をしているのか知った今は行かなくてもよくなった。よかった。


 「これで自分が何なのかわかったろう。そんで、一体何があった?」


 しかし、お嬢さんは本当に不遇な人だな。

 親の愛を満足に貰えない上、その親に親しい人がよそよそしくされた。

 そして、今は勝手に決められた婚約で嫁がされる上、命まで狙われている。


 やはり、生きるって面倒くさいな。


 「おい! なにぼーとしてんだ!」


 あっ、また考え込んでしまった。その間お頭が何か言ったようだ。


 「悪い、ちょっと気持ちの整理をしていた。 なんか言った?」


 「殺しに行った時、何があったと聞いてんだ!」


 私が聞きたいことはもうないし、この事情聴取みたいなことが終わったらお嬢さんたちを追撃するだろう。これではやること1つだけだ。


 「お~~それは襲撃されたよ」


 「なんだと! 誰にだ!」


 私はゆっくりとしまった毒ナイフを取り出しながらこう言う。

 

 「()だ」


 言うやいなや私はもっとも近くに居た野太い声を襲った。斬りつけたが、目の前でナイフを出したせいで警戒されたから傷口は浅かった。毒があるしこれで十分だろう。狙いを変えようと目立つヒゲのお頭の方を見る。


 するとお頭はもうすぐ近く迫っていた。そして気がつくと私は地面に押さえつけられて首筋にナイフが当てられた。


 このお頭は伊達ではないようだ。


 「きゃあああああああ!」


 項垂れていたメイドたちの誰かが異変に気づいて今更の悲鳴をあげた。


 「黙らせろ!」


 ぱっし!

 という音とともに悲鳴が嗚咽に変わった。


 「さぁ、どういうつもりか聞かせてもらおう」


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