Part W‐4
白い清潔な部屋。好みの服。快適な空調。よく栄養が考えられ、かつ美味しい食事。忠実な侍従。まるで最高級の骨董品を扱うように、真綿でくるまれて世話をされる日々だった。
「死んでやろうかしら」
バルコニーを眺めて、ぽつりとそんなことを言う。
「許しませんよ」
傍らに立っていたワーフが言って、セシリアは苦笑した。
「あなたにそんなことを言う権利はないわ」
「……そうかも知れませんね」
「……はあ。この間の端末を頂戴。あんなのでも、ないよりましだわ」
セシリアが突き出した手に、ワーフは無造作に端末を乗せた。
端末を弄るセシリアから離れ、ワーフはワゴンに近寄る。並んだ紅茶の缶から、『ニルギリ』と書かれたものを取った。
「ねえ」
「はい」
セシリアの呼び掛けに振り返り、ワーフは表情を引き締める。
「やっぱり、今でも、私と友達になるのは嫌?」
「……だから、笑えないと言っています。……紅茶にお砂糖は?」
「いらないわ」
「……左様で」
ワーフはやや唇を尖らせる。その様子に、セシリアは首を傾げた。
「……ねえ、ワーフ」
「はい」
「……私、ずっと、気になっていることがあってね」
車いすの向きを変え、セシリアはワーフと正面から向き合った。
「私の知る限り、この城にはオリジナルしかいなかったわ。あなたはどうやって下男になったの?」
「……何だ、そんなことですか」
ぽつり、とワーフは呟いて息を吐く。
「転生の能力が上手く扱えれば、それは無限に時間があることと同じです。まして、転生は特殊性が高い能力。それが目の届く範囲にいるのは、研究者にとっても都合がいいんじゃないですか」
「……でも」
「必要だったんです。下男という身分が」
ワーフはセシリアに近付き、大きな手でその顎を掴んだ。
「人類の生き証人になっていくあなたと、ゼロ距離でいられる立ち位置が」
顎を引かれ、否応なしにセシリアはワーフを見上げさせられる。ワーフの口元は、珍しく笑っていた。鋭い犬歯が覗く、獰猛な笑みだ。
「……そう」
しかし、セシリアはつまらなそうにそれだけ返した。