Part W‐2
自分好みの紅茶を啜り、セシリアは車いすの背もたれに背を預けた。バルコニーから見える街は、旧時代の面影を残しながらも、端々に長かった戦争の影が落ちている。
「お姫様、お味は?」
「いいわ。凄いのね、私の好みぴったり」
「それも、侍従の仕事ですから」
ワーフの言葉に、セシリアは眉根を寄せた。
「ねえ、その侍従っていうの、やめてくれないかしら。私、せっかくだしあなたとお友達になりたいわ」
「……友達?」
今度はワーフが眉根を寄せる番だった。三角耳をぴたりと寝かせ、ワーフは唇を曲げる。
「笑えない……本当に笑えない冗談ですね」
「……そこまで言わなくてもいいじゃない」
「おやつはガトーショコラでよろしいですか」
ワーフが踵を返し、「ああ、ちょっと」とその背にセシリアが呼び掛ける。
「ズィルヴァーの転生って、記憶の何割かを引き継げるのよね。あなたも、昔のこととか、覚えているの?」
「……そこそこ。でも、精々三世代までですよ。人間の脳にも限界はありますから」
「……そう」
セシリアは視線を落とす。
「……いつの時代のお話をご所望ですか」
やや呆れたように息を吐いて、ワーフはセシリアを振り返る。ぱっと顔を明るくして、セシリアは背筋を伸ばした。
「じゃ、大戦前のことを知りたいわ。旧時代のこと」
「……はあ。城のデータベースにアクセスしてみます」
「あなたの記憶じゃないの!?」
「だから三世代程度だって言ったじゃないですか」
甲高いセシリアの声がこたえたのか、ワーフは耳を手で伏せた。
「はあ……じゃあいいわ別に。公的な記録じゃ意味がないのよ」
「左様で」
「それより、あなたとお話したいわ。おやつのあとは、あなたの分も紅茶を淹れましょ。どうせ、私には仕事らしい仕事なんてないんだから」
「……俺はコーヒー派なんですけど……まあいいでしょう」
ワーフは微苦笑を浮かべて息を吐いた。