Part W‐1
長い戦争があった。
星を焼き尽くすほどの戦争が終わり、生き残った人々は細々と、文明の復興を続けていた。
星全体がスラム街のような様相を呈している中、変わらない地区が一つ。星のへそのようにぽつりと、堅牢な壁に守られた街があった。オリジン政府保護地区。遺伝子に手をくわえられていない、『原種』に分類される人間達の居住区だ。
その中でもひときわ大きいのは、旧時代の近世欧州を思わせる城だ。歴史の保護という名目で、旧時代の文書や遺物が収められた城は、人類史そのものの記録として、世界の統一政府に手厚く保護されていた。
「――――ですから、姫様には一人、専属の従僕がつくことになります。事情が事情ですので、ご容赦ください」
当然、保護の対象には、城に住む『王族』も含まれる。
電動車いすに乗せられ、少女は従者に押されて廊下を進んでいた。
「従僕は、下男の家系から一人立候補者が出ました。外につながりがなく、犯罪歴などもない潔白の男です」
従者が扉を開き、四角い部屋に少女は押し込まれる。
「では、以降全てのご用はその従僕にお申し付けください」
背後で、扉が閉まる音がした。少女は車いすに座ったまま、目だけで部屋を見まわす。城の外れ、長い廊下の突き当りの部屋は、白を基調としたインテリアで統一されていた。少女の柔らかな金糸の髪は、部屋の中で鮮やかに映える。
従僕の青年は部屋の中心で待っていた。褐色の肌に、根本が黒い灰色の髪、服は墨色の制服だ。礼をすると、髪はさらりと銀色に光った。やや長い前髪の奥で、赤褐色の目が鋭く光った。
そして、ぴょこん、とその頭の上で、三角の獣の耳が立ち上がった。
「……あら、支族なのね。お待たせしたかしら」
「待ちましたとも」
ぞんざいに、青年は吐き捨てる。
「……お寝坊なお姫様だ」
「うん……あなたのお名前は?」
「ワーフ。これから先、あなたの手であり、足であり、盾であり、剣である。好きに使ってください」
「そう……種族と、能力は」
「種族ナンバーイチマルゴーゼロヨン。判別名『銀天狼』。能力は転生です」
「そう。私はセシリア。よろしくね」
「はい」
ワーフはやはり雑に返事をして、形だけの礼をした。