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大トカゲ

作者: 村崎羯諦

 七色の虹が、洞穴に住む大トカゲに盗まれた。

 もちろん、虹が消えたところで我々の日常生活には何の影響も及ぼさない。雨後の楽しみが一つだけなくなるだけ。それも、娯楽に溢れた現代では、それほど重大な意味をなすというわけではない。しかし、科学者たちは大慌て。盗られた虹を取り戻そうと、何とか政治家説き伏せて、少ない予算をもぎとった。

 極限られた予算の中で、どうにか大トカゲをやっつけたい。最新研究がいうところでは、やつは砂糖が弱点らしい。なんでも、ナメクジにとっての塩のように、砂糖を食べると溶けて消えてしまうという。それがわかれば話がはやい。科学者連合は砂糖をやつに打ち込むために、物理学やら何やらの知識を総動員し、その結果、大トカゲ対策専用大砲と、砂糖で作った砲丸を作り上げることに成功した。

 さて、虹を取り返そう。彼らは大砲と、残された少ない予算で雇った兵隊を引き連れ、大トカゲが住む洞穴へと侵攻していく。人間たちが本気になれば、ただでかいだけの爬虫類などいちころさ。そんな砂糖のように甘い考えを抱いて、彼らは陽気に歩を進めた。

 されども、大トカゲだって馬鹿ではない。彼も自分の弱点は把握していたし、人間どもがそこをついてくることなど簡単に予想できていた。だから、大トカゲは侵攻に備え、多数の蟻を兵隊として雇い、彼らを科学者たちのもとへと送り込んだ。洞穴へと着く前に、科学者たちは蟻の兵隊と衝突した。蟻は勇猛果敢に彼らに立ち向かい、砂糖でできた砲丸を食い尽くそうと試みた。科学者たちは大慌て。不測の事態に指揮系統は混乱を極めた。彼らも結局は学者に過ぎない。予算がないため、指揮官を雇えず、やむなく兵を率いていただけなのだから。さらに、雇った兵隊たちの質もひどかった。ただでさえ少ない予算を、大砲と砲丸を作ることにほとんど費やしてしまっていて、スズメの涙ほどの給与で雇えるものしかいなかった。もちろん非正規雇用であって、福利厚生などかっらきし。彼らが真面目に戦うことなど期待できるわけがない。一方、蟻たちの士気は高かった。もともと働き者だということに加え、大トカゲは彼らに十分すぎるほどの待遇を与えていた。高めの給料はもちろんのこと、傷病手当に遠征手当、さらにはインセンティブ手当まで。これだけ充実していれば、必死になって働くことは当たり前。蟻たちは人間どもをかき分けて、砂糖でできた砲丸を、一つ残らず食べてしまった。情けない人間たちは、右往左往。科学者たちは慌てふためき、兵隊たちは、蟻と一緒に砂糖の砲丸をつまみ食いする始末。結果、人間は逃げ出して、大トカゲ側の勝利となった。

 その後、科学者は復讐を誓い、もう一度の挑戦を政府に訴えた。しかし、財政厳しい中央政府が、一度ならず二度までも、そんな余興に付き合うはずもなく、ついぞ予算が付くことはなかった。そのうち、科学者内部でも、もうやめようという声が大きくなり、結局、その後も出征を行うことはなかった。そういうわけで、我々は七色の虹をもう見ることはできなくなってしまったというわけです。おしまい。


P.S.

七色の虹を手に入れた大トカゲは、あまりにもその虹が綺麗だったので、先っぽだけをかじって食べてしまった。しかし、これは科学者も知らなかったことなのだが、実は虹には砂糖が含まれていた。そういうわけで大トカゲは、虹のかけらを飲み込んだ瞬間、バターのように溶けた、というよりもむしろ、溶けてバターとなった。その結果、洞穴には、先っぽがかけた虹と、床一面のバターだけが残されたそうな。


P.P.S

 この情報をすぐに科学者たちにも伝わって、興味深い現象だとすぐに探索隊を派遣した。けれども、彼らが到着した時にはもう、虹とバターは、大トカゲに雇われていた蟻たちによって略奪されてしまっていた。なんでも、給料が振り込まれる前に、大トカゲがバターとなってしまったため、不思議に思った蟻たちが洞穴を訪れていたらしい。そして、残されていた虹と砂糖を、約束していた給料代わりに持っていってしまったというわけ。

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