リベラル勇者
浜田ゆうすけは今時の若者としては珍しく、かなりリベラル臭の強い政治信条を持っていた。
移民招致には積極賛成・国際機関の権限強化にも積極賛成・自己のアイデンティティを『地球市民』である事に置いていた。
極めて珍しいアプローチではあるのだが、上記の価値観に基づき異世界ラノベを愛好していた。
重ねて言うが、オタク世界においては浜田ゆうすけの様な男は極めて珍しい。
何度か異世界ラノベの同好オフ会にも出席したが、勿論誰とも話が合わなった。
ゆうすけの将来の夢だって、他の厨二病オタク同様に『世界を救った勇者』となる事である。
だが、それを表現する際に左翼系バイアスが掛かる為に伝わらないだけなのだ。
「やれやれ。 まだまだ日本は後進的だな。 地球市民としての自覚が乏しいよね。」
オタクサークルに入れなかったゆうすけは左翼サークルに接近するも、高齢化著しい日本の左翼サークルはオタクサークル以上にゆうすけのラノベ趣味に冷淡だった。
ゆうすけは日本に絶望した。
「これだから日本は駄目なんだ! ここがヨーロッパなら絶対に僕を受け入れてくれる筈なのに!!」
ヨーロッパがゆうすけを受け入れると云う思い込みに根拠は無かったが、なまじ根拠が無いだけにその思い込みは強固だった。
国際派を自称する割に国際知識も国際教養も持ち合わていないゆうすけが、いつしか異世界とヨーロッパを混同し始めたのは仕方のない事だったのかも知れない。
浜田ゆうすけはヨーロッパへの移住を希望していたのだが、カネも職能も語学力も無かったのでその望みは叶わなかった。
仕方がないので更に異世界ライトノベルに耽溺するようになった。
余程、祖国からの逃避願望が高まった所為だろうか、ある日ゆうすけは異世界に飛ばされた。
腰をさすりながら立ち上がったゆうすけが周囲を眺めると、なんとヨーロッパ風の町並みが眼下に広がっているではないか。
そこが異世界なのかヨーロッパなのか判別は出来なかったが、もはやどちらでも良かった。
夢が叶ったのである。
しばらく感慨に浸っていると、目の前から数名の男が歩いて来る。
男達は中世ヨーロッパ風の衣装に身を包んでおり、ゆうすけの聞き取れない言語で談笑しながらこちらに向かっている。
高い鼻・割れたアゴ・薄茶色の髪・白い肌に炎症染みた赤い日焼け跡。
それらの特徴はまさしく、ゆうすけが思い描いていたヨーロッパ人の身体的特徴だった。
喜悦したゆうすけは満面の笑みを浮かべ、大きく手を広げながら彼らに駆けよって行った。
「おーい! おーい! まいねーむいず ゆーすけはまだっ! 日本から来マーシタ!!」
正気の沙汰とは思えないが、勿論ゆうすけは常に本気である。
男達は駆けよって来るゆうすけに気付き、当然笑顔を硬直させた。
リーダー格らしい男が鋭くゆうすけに何事か(恐らくは警告であろう)を叫ぶ。
だが、男達の反応の意味を理解出来なかったゆうすけは無邪気に彼らのパーソナルスペースに飛び込んでしまう。
男達は激昂と云うよりも恐慌して、悲鳴を上げながらゆうすけを袋叩きにした。
余程ゆうすけの接近が恐ろしかったのだろう、男達は泣きじゃくりながら女の様に甲高い声で叫びながら拳骨をゆうすけの全身に叩き込み続けた。
それはそうである。
見慣れない服装の異生物が異言語で叫びながら接近して来たら、誰だって怖いだろう。
男達はゆうすけが動かなくなった事を確認すると、悲鳴を挙げながらそれぞれの家へと遁走し、涙ながらに母親にこのトラブルを報告した。
母親達は長老や騎士団にゆうすけの遺骸を通報し、ゆうすけ殺害が息子の功績となる様なストーリーを即興で作った。
長老会議は男達の行動を『義勇戦闘』と認定し、男達に『勇者』の称号を与えた。
男達は世界を救った勇者として永く讃えられる事となる。




