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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第三章 奔流篇

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第二十九話 規約改定と商業での戦いの決意!? ベコノベの規約改定とともに瓦解した相互評価同盟。そして僕はシースター社とともに、ベコノベで作り上げた潮流を商業で更に広げると決意した件について

 大陸の外れにあるアガルタという街には不思議なダンジョンがある。

 初めてそんな噂を聞きつけたのはもうどれほど前のことだろうか。


 曰く、そのダンジョンは誰一人攻略したものがいない。

 曰く、そのダンジョンを知った者は他のダンジョンに潜ろうとしない。

 曰く、そのダンジョンを潜った者はその存在を口外しない。


 どれもこれも眉唾ものだと私は思っていた。

 だいたいである、噂が出回っている時点で誰かが口外しているじゃないか。そんな矛盾に気づかない時点で、作り話としても質が低いと、そう私は思っていた。


 だからそんな馬鹿げた噂は、長い間忘れ去っていた。

 聖都市レンメルを支配せんとする魔龍人アシュラトとの戦い、この世界に絶望し死霊の国を作らんとした死霊術師ロンデルセンとの戦い。


 人々を救うため、私は幾多もの戦場を戦い続けていた。

 この世界を救う勇者として。


 そして今日、新たなお告げを私は受けた。


「残された唯一の悪……魔王は大陸のはずれ、アガルタのダンジョンにいる」

 魔王。

 全ての邪悪の生みの親にして、世界を破滅に導く悪の化身。


 そう、この世界を守ると決めたあの日から、私はその存在の打倒だけを夢見てきた。

 だからこそ、そのお告げを授けてくれたフェリート王国最高位の司祭に、私は涙を流し感謝を伝える。

 これで真の意味で、世界を救うことができると。


「なにこれ……」

 フェリート王国から遠く離れたアガルタ市。

 魔王が支配しているとも考えられる暗黒都市にたどり着いた私は、戸惑いを隠せなかった。


 街の中は異様に明るく、死霊が闊歩しているわけでもなければ、人々が苦悩に満ちた様子もない。

 ただひとつ異様なものが存在するとすれば、それは街の中に存在するとんでもない数の行列のであった。


「ちょっとすいません、この列って何ですか?」

「あん? よそもんかい、あんた」

 私が声をかけたのは二十代後半くらいの列に並んだ男性。

 何故か警戒する素振りを見せながら、彼は列の前の人との間を詰めると、私に向かってそう問いかけてくる。


「え、ええ」

「そうか。しかしすまないが、これ以上ライバルを増やしたくないので、教えられないな。というわけで、旅をしているなら、ほら宿街はあっちだぜ」

 声をかけた男性は意味ありげな笑みを浮かべながら、街の中心部を指差す。

 どうにも釈然としないものを私は覚えていた。

 だから私は周囲をぐるりと見回し、この列の整備を行っていると思われる兵士に声をかけた。


「あの、すいません。あの行列って何ですか?」

「は? あれはダンジョンの順番待ちだが……」

 問いかけた兵士は何故か困惑した面持ちで答えてくる。

 だがその回答に、私はより一層戸惑い覚えた。


「じゅ、順番待ち……ですか!?」

 正直、何を言っているのかわからなかった。

 ダンジョンで順番待ちなんて聞いたことが無い。

 だけど、そんな戸惑う私に向かい、その兵士は更に考えられぬことを口にした。


「そうだが……ああ、なるほど。そんな格好をしているのを見るに、あんたはダンジョンに来たわけじゃないのか」

 全身武装と言った私の格好を眺めやると、彼は再び意味のわからぬことを言ってくる。


「いや、ダンジョンに潜りに来たのですが……というか、むしろ並んでる方々のほうがダンジョン向きでない気がしますけど」

 そう、明らかにそぐわないのだ。

 ダンジョン待ちとされる列には、先程のような普段着の男性や、農作業帰りと思われる老人、それどころかたくさんの子供の姿まで見受けられた。


 正直言って、正気の沙汰ではない。

 だがそれどころか、さらなる衝撃の言葉を男性は私へと向けた。


「どういうことだ? とにかく、もしダンジョンに潜るつもりなら、当然のことだが、武器などはあちらの店に預けるんだぞ」

「預けるって、武器をですか!?」

「当たり前だ。まさかとは思うが、そんな危ないものを持って、ダンジョンに入るつもりだったのか?」

「いや、まぁ……」

 私はもう何がなんだかわからなくなってしまった。


 これは魔王が私の到着を予期し、仕組んだ罠ではないか。

 そう、この町の人達は操られているのではないのか。

 そう考えた私は、こっそり街の人たちのステータスを覗き見る。


「サーチ……って、みんなまったく正常……魔法をかけられたり洗脳された形跡もなしか」

「むう、それは魔法か?」

 私の呪文を耳にした兵士の人は、驚いたようにそう問いかけてくる。


「え、ええ。そうですが」

「あのランダさん以外に魔法使ってるの初めて見た。ともかくだ、初めてのようだから、武器は代わりに預けておいてやる。今すぐ並んできなさい」

 そうして、やや強引に剣と盾を預けさせられると、私は行列の最後尾に無理やり並ばされる。

 そして私の前に並ぶのは、楽しそうにはしゃぐ五、六歳といった年齢の少年少女であった。


「こんな子どもたちまでもが……一体ここのダンジョンはどうなってるんだ?」

 もはや困惑などの域を越え、私は思考さえできない心理状態となっっていた。

 そうしてただ行列に並ぶだけの時間が過ぎ、二刻ほど立ったところで私の前にいた少年たちが、何故か小銭を手にしたまま楽しそうにダンジョンの中へ飛び込んでいった。


「はい、次の方どうぞ」

 ダンジョンの入り口を管理している真面目そうな兵士が私に向かって声を掛ける。

 ぼんやりとしていた私は、少しばかり反応が遅れ、慌てて返事を返した。


「え……は、はい」

「あら見かけない顔ですね。当ダンジョンは初めてですか?」

「そ、そうです」

 と言うか、こんな風に兵士が管理しているダンジョン自体初めてであり、武装なしにダンジョンへ入ることも初めてであり、ましてや子供がああやって入っていくダンジョンも初めてである。


「それでは注意事項を。ダンジョンの中では一切の暴力は禁止です。あとモンスターさんたちに会っても、失礼なことをしてはいけませんよ。差別はよくありませんから」

「は?」

 正直、何を言っているのかまったくわからない。

 だけど、そんな私に向かい、目の前の兵士は更なる意味不明な言葉を続ける。


「それと今日は地下三階にシオンさんの店が配置されていることが確認されています。お店の中で大声を出したり、断りなく商品を食べたりしないでくださいね。それでは素敵な買い物を!」

 そう言って彼は私をダンジョンの中へと送り出す。


「な、何なんだここは?」

 そう、それが私の第一印象であった。


 明るい……異様に明るい洞窟がそこにあった。

 いや、洞窟というのは不適当だろう。

 見たこともない物質によって、壁は凹凸なく全て綺麗に整えられ、更には順路案内らしきものまでが壁に矢印として描かれている。


「わけがわからない……とりあえず、色々調べてみるか」

 私はそう呟くと、敢えて壁に書かれた矢印を無視して、ダンジョンの中の探索を始める。

 そしてすぐに理解できた。このダンジョンはあまりに異様であると。


「なんて広く、そしてなんて複雑なのだ……まだ一階なんだぞ!」

 思わず苛立ちが口から溢れてしまう。

 それほどまでにこのダンジョンは広すぎ、私は困惑と不安を覚えずにはいられなかった。

 すると、通路の奥から何者かがこちらへと駆けてくる。


「リザードマンの大型種だと。まさか一階にこんな奴が!」

 そう、それは緑い色のトカゲににた人形モンスターであった。

 私は思わず身構える。大丈夫、たとえ手元にオリハルコンの剣がなくとも、リザードマンぐらいなら魔法で――


「どうしたべ、迷子だっぺか?」

 ……何を言っているんだこいつは?

 いや、問題はそこではない!


「リザードマンが喋った!?」

「いや、喋りぐらいするべ。そんれよりも、急に大きな声を出すからびっくりしたっぺよ」

 目の前の大型種のリザードマンはそう口にすると、カラカラと笑い声を上げる。

 何なのだろう。私は何かに化かされているというのか?


「え、だって……お前たちは普通しゃべらないものだろ」

「はぁ? 喋りくらいはするべ。変な姉さんだな。ともかくどうせシオンさんの店に行くんだろ。なら一緒に行くべ」

 リザードマンはそう口にすると、私の返事を待つことなくそのまま私の脇を素通りし前を歩き始める。


 もはや戸惑いは隠せなかったが、先程の言葉といい、そしてこうして背を晒すことといい、敵意がないことだけはなんとなく私にもわかった。だから私も彼の後に続いて歩き始める。


「いやぁ、最近はシオンさんのところで食べすぎて、すっかり太っちまってな。こうしてウォーキングをしているんだべ。太ってっとモテねえからな」

「は、はぁ……そういうものか」

「そうだべそうだべ。何だ人間さは違うべか?」

「いや、そういうこともないが……」

 私たちの間で交わされる会話自体は、ある意味他愛のないものだった。


 いや、敢えて居るならばあまりに他愛なさすぎ、そして普通すぎた。

 だからこそ、私は一層困惑する。

 そう、隣を歩いているのはそのあたりの木の良い中年オヤジではなく、大型種のリザードマンなのである。


「おんや、話してるうちに、着いたッペよ」

「な、何だここは!?」

 階段を二度降りてたどり着いた場所。

 そこには見たこともない光景が存在した。

 それは数多の魔物と人間が、何かを物色している光景である。


「ここがシオンさんの店だべ」

 隣に立つリザードマンは私に向かってそう説明してくれる。


 確かに店と言われると、それは店のように思われた。

 建物の中には食べ物と思われるものが無数にずらりと陳列され、甘酸っぱい香りがここまで届く。

 そして店の周りで、私より先に入った子どもたちがコボルトの子どもたちと遊びながら何かを食しており、それを角の生えたオーガが優しく見守る。


 はっきり言おう。

 わけがわからない。


「おや、リザロウではないか。今日は非番なのか?」

 突然、店の方向からこちらに向けて発せられた声。

 それを耳にして、隣に立つリザードマンがにこやかに言葉を返す。


「こっれはランダさま。今日も買い出しだべか?」

「ああ。実は二回目でな、爺やに怒られたよ。一日一回以上はダメだってな」

 そう口にしながら、リザードマンに声をかけた者がイカの足のようなものを頬張りつつ店から出てくる。

 それはスラリと伸びた肢体に、どこか影のある整った顔。

 そこだけ切り取れば、まさに美青年と呼ぶにふさわしい。


 だがその青年の頭には一対の角が生えていた。


 アレはダメだ。


 私は大きく後ろに後退る。

 あんな化物、剣もない今、絶対に対峙してはならない。


 私はすぐにそう直感した。

 なぜならば、体の中に抑え込まれた魔力の量が、軽く街一つくらい吹き飛ばすほどであったから。


 だが私の隣に立っていたリザードマンは、笑いながら彼と談笑し始める。


「はは、それは仕方ないッペ。悪魔枢機卿どのも、この店に期待ッペから」

「まあな。だから今回はグミという名の駄菓子を買っていってやるつもりだ」

「そっれは悪魔枢機卿も大喜びだべ、さっすがランダ様だ」

「ふふ……してリザロウ。そこのおなごはどうしたのか?」

 角の生えた美青年はそう口にすると、私に向かいその視線を向けてくる。

 動けない。

 まるで金縛りにあったように、私はその視線に射すくめられてしまっていた。


「ああ、一階で迷子になっていたから拾ってきたべ。旅の人でどうも駄菓子屋は初めてらしい」

「そうかそうか。ならばせっかくだ、ではこの魔王ランダが、駄菓子屋の楽しみ方を教えてやろう。さあ付いてこい人間」

 え、今なんて言ったのこの人!

 困惑と混乱でパニックにり、私の脳は先程の言葉の意味を理解できなくなる。

 でも、そんな私の右手をキュッと掴むと、そのまま店へと私を連れて行く。

 そしてたどり着いた店先で、私はその人と会った。


「あら、いらっしゃいませ。初めてのお客様ですか?」

 絹のような黒い髪を持つ女性、彼女が微笑みながら私を出迎えてくれた。

 彼女の名前はシオン。


 駄菓子屋と称されるこの店の、若き女店主であった。


(レジスタ著 異世界駄菓子屋シオン第一話前編より一部抜粋)







「書き下ろしの原稿、読ませて頂きました」

 大山さんはそう口にすると、ローテーブルの上にプリントアウトした原稿の束を置く。

 東京の護国寺にあるシースター社の編集部の応接室。

 そこで僕は大山さんと二人で対峙していた。


「えっと、それでどうでしたか?」

「いやぁ、期待通り……いや、それ以上です。良い原稿をありがとうございました」

 破顔するとともに、告られたその言葉。

 それを耳にして、僕は右手で胸を軽く押さえる。


「……はぁ、良かったです」

「はは、でも本当に読んでいて楽しませて頂きました。併せてベコノベで公開されているものも読みましたが、甲乙つけがたいところですね」

「なんというか、そう言って頂けると、本当にホッとします」

 それは紛れもなく僕の本心だった。


 あのファミリーレストランであった日から、再び大山さんと会うことをどこか恐れていた自分がいた。

 別に会ったところで、何か問題があるわけでも、そして怒られるわけでもない。それは頭の中では理解していた。

 でもあの時の記憶が僕の心を蝕み、先程の言葉を聞くまでPK戦の味方のキーパーを見守るような心境だった。


 一方、そんな僕の内心を知ってか知らずか、大山さんはニコニコとほほえみながら、その話題の矛先を変える。


「ああ、それと遅ればせながら、日間、週間、そして月間一位、おめでとうございます」

「ありがとうございます。こんなにうまく行ったのは、本当にみんなと、そして石山さんのおかげでして」

「石山くんはずっと君のことを気にかけているみたいでしたから、こうして結果が出たことを一番に喜んでいると思います」

「ええ、何度もメールを頂きましたし、資料も送ってくださいましたから」

 僕はそう告げると、大きく頷く。


 正直言って、今回のシェアードがシースター社の役に立つかは未知数だった。

 だからこそ『異世界駄菓子屋シオン』に関しては、シェアードワールドとも切り離して出版できることを企画では強調している。


 にもかかわらず、石山さんは無駄になるかもしれない僕たちの活動をさせてくれた。

 あの人がいなければ、シェアードワールドはもっと中途半端なものになっていたことは間違いないと思う。本当に感謝してもし足りない。


「しかし、本当にベコノベに新しい流れを作りましたね。ランキングも拝見させていただきましたが、君たちが作ったシャンゼリゼワールドをベースにする作品が急速に増えてきて驚きました」

「ランキング上位に三作品が上がったことが大きかったと思います。あと、直前まで、ちょっとランキングが淀んでましたので、その反動もあるかなと」

 そう、閉塞感に包まれていたベコノベのランキングは大きく変わりつつあった。

 そしてその先頭にあるのが僕たちであり、そして今回のシェアードワールドである。

 

「確か集団工作をしていた人たちがいたんですよね。それが先日の規約改定に繋がったと伺っています」

「そうです。あまりこのことをタイミングが良かったと言いたくはないのですが、それでも時期に恵まれたのはあるかもしれません」

 僕たちがランキング上位に躍り出たタイミングで、ドナウ同盟はもはや隠すことなく全員で自分たちの作品の相互評価を進め続けた。

 おそらく以前から規約改定の準備は進められていたのだろうけど、彼らのやりようはあまりに目に余るものだったのだと思う。何の前触れもなく、ベコノベの運営から規約改定が告知される結果となった。


 そしてそれでもなお工作活動を行うものたちはアカウントを削除され、その中にリーダーだった蘇芳先生もいたため、既にドナウ同盟は瓦解状態だと僕も伝え聞いている。


「困った人たちのことはともかく、君たちはきちんとベコノベの中に一つの潮流を作りました。そしてここからは、その流れをベコノベの外にも広げていかなければなりません。もっともそれは私たちの仕事ですが」

「はい。商業作品として、ベコノベ初の新しい流行の最前線にしていきたいと思います。その上で、一つお願いがあるのですが」

「お願い……ですか。一体、何でしょうか?」

 大山さんは眉間にしわを寄せ、一瞬にして真剣な面持ちとなる。

 そんな彼に向かい、僕は胸に秘めていた一つの提案をその口にした。


「僕の作品を商業化するにあたって、お願いしたいイラストレーターさんがいるんです」

「……確か一作目の時はこちらにお任せ頂いた気がしますが、今回はそれではダメなのですか?」

 そう、処女作である『転生英雄放浪記』では、イラストレーターさんなどは全て編集さんの裁量にお任せした。

 でも、今回ばかりは僕はどうしても譲りたくはなかった。


「ええ。無理を言っているのはわかるのですが……」

「もちろん、作家さんの希望は最大限に尊重します。一応、私の方からも一人リストアップしていたんですがね」

 大山さんはそう口にすると、一冊のファイルを僕に示してみせる。


 さすが仕事が速い人だと僕はそう思う。

 でも、それでも譲れない思いが僕にはあった。


「すいません、勝手なことをして申し訳ないのですが、僕のパートナーは他には考えられないんです。石山さん」

 僕はそう口にすると、応接室の外に居るはずの男性に向かいそう声をかける。

 するとすぐに、僕の担当氏はニコニコした笑みを浮かべながら、部屋の中にその姿を見せた。


「はいはい、ここで待ってもらってましたよ。というわけで、入ってくれるかな、音原先生」

 石山さんの言葉が発せられると同時に、彼女がその姿を現す。

 そう、僕のクラスメイトであり、そしてパートナーでもある由那が。


「……なるほど、そう来ましたか」

「ご存知だったのですか?」

 思わぬ大山さんの反応に僕は驚く。

 すると、大山さんは意味ありげに笑ってみせた。


「いえ、初めてお目にかかります。でも黒木さんが、彼女の漫画の原作者であることくらいは知っていますし、何より私もそのつもりでしたから」

 大山さんはそう言って、僕へと先程のファイルを手渡してくれる。


 その中に閉じられていたもの。

 それは全て、由那が商業で発表してきたイラストに他ならなかった。


「え……これって!?」

「他の人選は考えられなかったんですよ。実際に今回ベコノベの流れを作った一端は彼女のイラストにある。私はそう考えていましたので」

 そう口にすると、大山さんはニコリと笑う。

 僕と由那は思わずお互いの顔を見合わせた。


「大山さん……ありがとうございます」

「いえ、それが最善だと考えたからです。それとご挨拶が遅れました。初めまして、大山です」

 僕から視線を移し、大山さんは由那に向かってそう口にする。

 途端、由那はあたふたと慌てるも、すぐにペコリと頭を下げた。


「は、はじめまして。音原由那です。よろしくお願いいたします」

「ええ、よろしく。しかし石山くん、いい仕事をしたね」

「編集長?」

 突然話を向けられた石山さんは、僅かに戸惑いを見せる。

 すると、そんな彼に向かい大山さんは小さく頷く。


「若い二人をきちんと最前線のスタートラインに立たせた」

「違いますよ。彼らが自分で立ったんです。僕はその後押しを少しだけしたに過ぎません」

 石山さんはそう口にすると、僕たち二人の肩をポンと叩く。

 それを受けて大山さんは、その視線を再び僕へと向け直した。


「そうか。ともかく、君たちにも改めて言うけど、ここが二度目のスタートラインだよ」

「わかっています。ベコノベだけに留まらせるつもりはありません。ここから絶対に新しい流れを作ってみせます」

 僕のその言葉に、大山さんは満足したように頷く。

 そしてそのまま彼は、僕たちに向かい右手を差し出した。


「なら、ここからは私たちの共同作業です。改めて一緒に頑張りましょう。黒木さん、音原さん」


次話となる30話は、23時更新予定となります。

また最終話は0時更新となりますので、よろしくお願いいたします。

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