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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第三章 奔流篇

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第二十話 異世界国家再興記!? シェアードワールドの導入もにらみながら、ベコノベ用に書き上げた作品は文芸部内の評価は上々。ただもう一つの作品テーマが決まらず、未だに立ち往生している件について

 Space Tree Online。

 プレイヤーからはよくSTOなどと略される、新サービスのVRMMOゲームである。


 近年話題となっている新興企業のユグホース社が一から新規設計した全感覚ダイブ型のVRMMOであり、その楽しみ方は全ての娯楽を世界の中に閉じ込めたなどと彼らが豪語する通り、まさに千差万別である。

 コンピューターの演算機能によって中世時代の架空世界がそれこそ大木の枝葉の数ほど無数にシミュレートされており、そこでプレイヤーは思い思いの生活を自由に過ごすことができた。


 その中でも特に様々なメディアが絶賛していたのは、ダイブ後のあまりのリアリティの高さであり、ゲーム世界内での居心地が良すぎたため、テストプレイヤーの多くが現実世界への帰還を尽く渋ったというのが何よりの傍証であろう。

 ワイドショーなどでは一部の識者が、言葉通りの意味として大規模な現実逃避を助長する可能性が高く、下手をすれば社会基盤を破壊しかねないと警鈴を鳴らすほどであった。

 もちろん、そんな彼らの発言はいつもの老害の戯言として、このゲームに期待する若者たちには完全に無視されていたが。


 何れにせよ、サービス開始前からこのように注目され続けていたこのゲームのベータテストには、途方もない数の応募者が殺到することとなった。

 そう、ご多分に漏れずと言っていいと思うがこの僕、御神苗修司もその一人だ。


 大学を出て早四年、ただ会社と自宅を往復するだけの毎日に、僕はもううんざりしていた。

 代わり映えのない日常、代わり映えのない仕事、代わり映えのない世界。

 そんな僕の目に止まったのが、このSpace Tree Onlineの広告記事だった。


 休みの日はただ自宅でネットサーフィンをして一日を過ごし、平日は職場から帰れば寝るだけの日々。

 それ故に、本体ごとこのゲームを購入するのに足るだけの貯金が僕にはあった。言い換えればそれは、本当にこの四年間何もしてこなかったことの現れとも言えたが。

 そのような理由もあり、全額プレイヤー負担という軽くない条件のベータテストへと応募した。


 とはいえ、正直言って参加できるなどとは思っていなかった。

 何しろ、テレビでもネットでも数百万人単位の応募があったと報道されていたからだ。


 だから僕は、どうせ漏れたところで、正規スタートで参加できれば良いなどと軽く考えており、突然巨大なゲーム機本体が代金引換で届くのを驚愕する思いで経験することとなった。


「まずはこの世界での自分となるアバターの設計か」

 ゲームを起動した僕は、ゲーム世界で自分依代となるキャラクターをどんどん設定していく。


 ベータテストではどうもあとから修正ができないらしいので、慎重にと思いつつ僕は現実世界の自分より七割増しくらい美化したアバターを作り上げる。

 そしてゲーム世界での特技や基本パラメーターの設定、そしてスタート地点となる街などを次々と決め、あとは最後に各キャラクター一人一人固有に与えられる宿命がランダムで決定されるのを待つだけだった。


 宿命。


 この二文字を見れば、何やらとても重要度の高い重い設定のように感じる。

 だが実際のところは、ちょっとした商人とのコネがあって商売がしやすかったり、冒険者の知己がいてゲーム開始後に望めばNPCがサポートしてくれると言った程度のものであった。


 自由度の高さを売りにしているため、実際にこの宿命システムは開発チームでも賛否両論あったらしい。

 だが初めてゲームをして何をしていいのかわからない人のために、ちょっとしたRPG的シナリオを提供するための補助システムとされていた。


 実際のところシステムから決定された宿命は一切無視することも可能で、その一覧はメーカーの公式ページに全て公開されている。

 各宿命ごとに多少パラメーターにボーナスが付いたり、またちょっと変わったスキルが手に入ることもあるが、あくまでスパイス程度というのがメーカーの公式見解だった。


「とは言え、ゲームでまで商売系の宿命は遠慮したいな。それ以外ならどんな宿命でもって……え?」

 ランダムとされる宿命が決定されるその瞬間、突然目の前が真っ暗となる。

 同時に僕の意識は突然そこで途切れた。




「う、うぅ……もうゲームの中……か」

 ほんの少しだけ頭痛を僕は感じていた。

 その瞬間、なんとリアル何だと思うと同時に運営に対する僅かないらだちを覚える。


「今のはバグかな。ベータ版らしいと言えばらしいけど」

 急に大量の体感情報が送り込まれたせいで、脳が悲鳴を上げたのだろうか。僕はそんな仮定を脳内で考えるとともに、あとでサポートセンターにクレームを送ることを決意する。

 まあ元々の職業柄、クレームと表現することに嫌気がさすが、正式サービス時に同じことを体験する人が大量に出ることを防ぐためにはやむを得ないだろう。


 僕は首を左右に振りながら、意識を目の前の世界へと移していく。

 途端、慌ただしい人々の足音と悲鳴が僕の耳へと飛び込んできた。


「なんだこれ……え、どういうこと?」

 開いた瞳が映し出した世界。

 そこは存在したのは確かに僕が選択したハーセプト王国の首都セムランではある。

 しかしながら、絶対に指定した覚えのない状況がそこに存在した。


 そう、この街はまさに今、何者かによって侵略されつつあった。


「ちょ、ちょっと待って。スタートの街は平和で安全地帯だってヘルプに!?」

 僕が誰にともなくそう呟いた瞬間、突然目の前に地面にいずこからか飛来した矢が突き刺さる。


「見つけたぞ、生き残りだ!」

 その声は決して好意的なものではなかった。


 いかつい武装をした、大柄な兵士。

 彼は僕に視線を向けるなり、槍を手にしながらこちらに向かって駆け出してくる。


「嘘でしょ。ああ、もうログアウト!」

 そのキーワードを口にした僕は、一瞬だけ自分の存在が薄れ行く感覚を覚える。

 だが突然その減少は中断すると、目の前の空間に赤いログアウト不能の文字が浮かび上がった。


「馬鹿な、何だこれ。くそ、GMコールを」

 僕が慌ててステータス画面を開く間にも、段々と大柄な兵士はこちらへと近づいてくる。


 一瞬の間の後に浮かび上がるステータス画面。

 そこにはなかった。

 説明書にも記載されていた画面端に存在するはずのGMコールが。


 そして同時に一つのものが僕の瞳を捉えて話さなかった。

 そう、ステータス画面に記されている宿命欄にはこう記されていた。


『現実世界から生身のまま召喚され、命をとして崩壊した国を再興する』



(レジスタ著 異世界国家再興記より一部抜粋)







「VRMMOが召喚器となっていたと言う形なわけね。つまりシェアードワールドへの」

 僕が手渡した『異世界国家再興記』の原稿を読み終え、ゆっくりと顔を上げた由那の第一声。

 それに対し僕は大きく一つ頷く。


「うん。崩壊した国の再興を目的とした物語ってのも、意識して作ってみたんだ。と言っても、まだ導入部分だけだけどね」

 週末に書き終えた部分までを、僕はこうして部室にもってきていた。

 そして由那同様にそれを試し読みしてくれた如月さんは、冷静に作品に関する僕の意図を指摘してくる。


「これ、私も非常にいいと思います。国造りをモチーフにしたのは、やっぱり貨幣とかギルドとかそういうシェアードワールドの基本となる世界設定を説明しやすいからですよね」

「もちろん、それも狙いの一つかな。シェアードワールドの根幹システムを、できればこの小説からイメージしてもらえたらと思ってね」

 その通り。

 この作品はベコノベ小説としてだけではなく、今回のシェアードワールドの根幹となるべきものにしなければいけない。


 だからこそ、この作品のテーマとして相応しいものは、転移者による国造りだと僕は判断したのだ。


「『転生英雄放浪記』とは結構違う入り方で物語が始まるのもそれが理由なのね」

「そうだね。あっちは世界のほぼすべてを知っている主人公がやり直す話だったけど、今回は初めてのVRMMOをプレイしている形だからさ。何れにせよ、予備情報がまったくないところから主人公の冒険を始めさせたかったんだ」

「つまり主人公と読者の持つ情報量を同じにするってわけね」

 僕の考えるところを汲み取ってくれた由那は、二度頷くとそう口にする。


「うん。主人公の目を通して、この再興記を追体験してもらいたいなと思って」

「確かにシェアードワールドをイメージしやすくするための工夫としては、良いかもしれないわね」

「ですね。上手く行けば、まさに一石二鳥です!」

 由那に続く形で、如月さんも微笑みながら力強くそう言ってくれる。

 一方、二人の反応から少なからぬ手応えを感じながらも、僕はあくまで油断するつもりはなかった。


「上手く行けばね。でもまずは小説ありきかな。ただ常に世界の広さを感じてもらいながら書きたいとは思う」

「そうね。まずこの作品が受けなければ、いくら気合を入れてシェアードワールドを作っても、誰も興味を持ってくれないかもしれないし……」

「だから、まずはしっかりとこの作品を作り上げていくよ。とはいえ、一つ問題はあるんだけどね」

 僕がそう口にした瞬間、由那は軽く首を傾げる。


「問題?」

「うん。もう一つのほうがまったく進んでなくてさ」

 そう、そうなのだ。

 こちらの国造りの方はプロットも順調に仕上がっており、週末はよく筆も走ってくれた。

 でも、石山さんに念を押されたもう一つに関しては、プロットを組んでは壊しと、まだ満足のいくものを見出せずにいた。


「それって、シースター社の方よね」

「ああ。もちろん書きたいネタはいっぱいあるんだけどね。でも、この作品とリンクしつつ、シェアードワールドの一部となると、どれもしっくり来なくてさ……」

 その上、シースター社に出すものは売れるものでなければならない。絶対に前回と同じ轍を踏む訳にはいかないのだから。


 だけどそのことが、余計に僕を迷わせていた。

 売れるテーマとは何か?


 ベコノベならば絶対とは言わないけれども、人気が出るテーマや要素はわかる。

 僕もこれまで二作書いてきたし、何より津瀬先生がまとめ続けている統計データを見ればそれは一目瞭然だからだ。


 でも、それがそっくりそのまま商業で使えるわけではない。

 何より無料のネット小説と商業小説ならば、読者の年齢層も大きく異なるのだ。特にベコノベ作品は大判で発売される作品が多く、通常の文庫よりもかなり高めの値段設定が多かった。


 それ故に、ベコノベ内で比較的若年層に人気がある作品よりも、ベコノベのランキング下でも読者層の年齢が高い作品の方が商業では伸びる傾向がある。

 だとすれば、少し年齢層が高めの作品を書けばいいと僕も思いはする。


 でも、わからないのだ。自分より上の年齢層の人が求めているものが。

 なぜならば、十八歳の僕には、社会人の人達と同じ生活も、感覚も、そして体験もしていないのだから。


 そんな悩みが脳裏を駆け巡り方針を定められずにいる僕に、突然由那がポンと肩をたたいてくれた。


「まあ、とりあえず今日はここまでにしましょ。悩めばすぐアイデアって思いつくものじゃないしね」

「そうですね。今日はもう部室も閉めちゃいましょう……あ、そうだ、帰りにお二人とちょっと寄りたいところがあるんですけど良いですか?」

 由那の意見に賛同した如月さんは、僕達に向かいそんな提案をしてくる。

 僕は本の虫の彼女のことだから、脳裏には一つの寄り道先が思い浮かんだ。


「シネコンのところの本屋さん?」

「いえ、ちょっと来週までしか空いてないお店があって。でも、気分転換にちょうどいいお店だと思うんです!」

 そんな後輩の誘い。

 それを受けて、僕と由那は思わず顔を見合わせることとなった。


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