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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第三章 奔流篇

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第十六話 企画書は想像以上の高評価!? 頂いた資料とベコノベの統計データをもとに作成した企画書が想像以上の高評価を受け、改めてここからが勝負どころだと僕が決意し直した件について

「読ませてもらったよ、黒木くん」

 由那たちとともに作り上げつつあった今回の企画書。

 その途中経過の報告を求められ、昨晩ひとまずまとまった部分までを石山さんに送った。


 結果として、僕は放課後に石山さんから呼び出され、こうして駅前の喫茶店へと足を運んでいる。

 だが眼前の男性の表情は、会ったときからやや複雑なものであった。


「えっと、どうでしたか?」

「正直にいうと……ズルい」

 石山さんの口からその言葉が発せられた瞬間、僕は血の気が引いた思いとなる。


「え……ダメ……でしたか?」

「ああ、いや、ごめん。悪いって言ってるわけじゃないんだ。勘違いしないで、でも、正直な正直な感想がズルいってだけでさ」

 僕の動揺が伝わったのか、石山さんは慌てて補足を口にする。

 でも、その意味するところがわからなかった僕は、すぐに彼へと疑問をぶつけた。


「ズルいって、どういうことですか? あの企画書がだめなものってわけではないんですよね」

「うん、それはそう。すごく良く出来てると思ったんだ、企画書自体はね。でも、まさか最初からイメージキャラクターとか、街並みとか小道具がイラストで添付されているとは思わなかったよ。しかも全てオリジナルで」

 苦笑を浮かべながら、石川さんは僕に向かってそう告げる。

 途端、僕は頭を掻きながら苦笑を浮かべ返した。


「はは、その件ですか。なんというか、由那がすごく頑張ってくれましたので」

「由那っていうと、例の月刊クラリスのYUNA先生だよね。うん、話には聞いていたけど、流石に上手いな。と言うか、漫画連載に加えてシェアードのイラストも描くって、本当に描くのが早いんだね」

「ええ。しかもその上、受験生ですからね」

「え……でも、そっか。君たち高校三年生だもんね。でもそうなると、センター試験は大丈夫なの? たしか今週じゃなかったっけ?」

 僕の補足に対し、石山さんは心配そうな表情を浮かべそ問いかけてくる。


「はい。明後日と明々後日です」

「明後日……ちょっと待って、これを描いたのは?」

 僕の言葉を耳にして、石山さんは再び手にした企画書のイラストへとその視線を落とす。

 そんな彼の気持ちが痛いほどわかった僕は、首を左右に振りながら事実をそのまま伝えた。


「一昨日までせっせと部室で描いてましたよ。まあ、由那はそれでも問題なさそうですけど」

 今まで三年間きちんとやってきたから、焦る必要なんてまったく無いし。

 僕と如月さんに向かい平然とそう言ってのけた由那のことを思い出し、僕は改めてその場に優弥が居なかってよかったと胸をなでおろす。たぶん、その日は荒れて勉強にならなかっただろうから。


 ともあれ、そんな詳細な事情を知らない石山さんは、やや戸惑った表情を見せながらも、話を本題へと戻した。


「そうなんだ。ま、まあそれは彼女の判断を信じるとして、ともかくこの企画書は他にも色々とズルかったよ。ベコノベに関する数字まで細かく乗せられていたし」

「ああ、そこはカルロス・バイス先生に手伝ってもらったものです。ポイントやアクセス数、そしてそこから予測できる売上の期待値や連動性は、この企画書に対する信頼になるかと思いまして」

 そう、僕は今回の企画書の巻末に、津瀬先生から譲り受けたベコノベの統計データのまとめを添付していた。


 もちろんその目的は一つ。僕たちが作ったこの企画書に、説得力を持たせるためである。

 何しろ、僕自身は一巻で小説を打ち切られた身であるのだ。そんな僕がこの企画が素晴らしいと言うには、何らかの担保するものがある方がより信頼性が高まると言えよう。

 そこで津瀬先生のアドバイスもあり、僕たちが持ち出したのがこの統計データであった。


「今回の企画書の根幹となるオープンシェアードのキーワードや設定に関して、その要点ごとにベコノベの人気や作品ごとの使用頻度なんてものを書かれちゃったら、正直ぐうの音もでなくてね……」

 軽く頭を振りながら石川さんはそこで言葉を切ると、一度コーヒーカップへと口をつける。そして再び、苦笑交じりにその口を開いた。


「手助けがあったとは言えさ、高校生にこんなもの書かれちゃうと、あまりに可愛げがなさすぎてどうしようかなと途方にくれてね。いや、これは褒め言葉なんだよ」

「僕だけの力じゃありません。本当に色んな方に助けてもらいました」

 石川さんの言葉に手柄を独り占めしたような感覚を覚え、僕は慌ててそう告げる。

 すると、石川さんは軽く肩をすくめてみせた。


「助けてくれる人がいることもある意味君の力さ。ともかく、企画書全体としては本当に素晴らしいと思う。でも細かいことを言えば、本命の部分の詰めがやや甘いかな」

「本命というと、シェアードの話ではなく小説の部分の話ですね」

「そう。正直言って、プロットがわかりにくいんだ。あと個々のキャラクターの目的も曖昧だし、物語としての芯が感じられなかった。と言っても、多分世界観がまだ少し固まりきっていないみたいだから、仕方ないんだろうとは思ったけどね」

 フォローを交えてはくれたものの、その石川さんの指摘には、逆に僕の方がぐうの音も出なかった。

 それはシェアードワールドの世界観などを詰めることに明け暮れ、出版社から一番求められているはずの小説自体への取り組みがやや手薄となってしまっていたからだ。


「あと気になるのは、二本書くって話だったけど、小説のプロットが一本分だったことかな。いや、もちろんきちんとプロットを上げてくれたことはうれしいよ。でも、この『異世界国家再興記』はベコノベにアップするつもりのものだよね?」

 全てお見通しと言わんばかりの石山さんの言葉とその表情。

 それを目の当たりにして、僕は弱ったように頭を掻くしかなかった。


 実際に指摘されたとおり、現在の段階で企画書として仕上がっているのは、書くと宣言した小説二本のうちの片方だけであり、しかもそれは書き下ろし分ではなくベコノベにアップためのものである。


 もちろんそのことを正直に言おうかとも思ったが、流石に手を付けていないとはいいづらく、僕はほぼ仕上がりつつある『異世界国家再興記』のプロットを、ベコノベにアップするつもりだと明言せずに企画書の一部として送っていた。

 結果として、そんな目論見は完全に看破されてしまったけれど。


 だからこそ、もはや誤魔化すことは出来ぬと理解し、僕は正直に事実を伝える。


「はい、そのとおりです。ですので、シースター社さんに出すのはもう一本の方でして、それはまだプロットにできてないんです」

「やっぱりね。この『異世界国家再興記』は国造り小説だから、この作品を通して君たちが作るオープンシェアードを説明するつもりっていうのはわかったよ。でもまあ、それは正解だろうね」

 気まずさを覚えていた僕に対し、石山さんは企画書に対するあくまで冷静な分析を告げてくれる。

 それを受けて僕も、大きく首を縦に振った。


「僕もそう思っています。だから国造りをテーマに選びました。世界観を説明するのにも向いていて、ベコノベ的にも人気のテーマですので」

「うん、僕もそれには賛成かな。ただ、正直うちが早く欲しいのはもう一本の方のプロットだからさ、まあ急かすつもりはないけどそちらもよろしく頼むよ」

 プレッシャを全面にかけてくるのではなく、僕の企画のことを立ててくれながら、さらりと仕事を差し込んでくる。

 そんな石山さんの姿勢に、僕は背筋が伸びる思いとなった。


「はい、もちろんです」

「うん、了解。ともかく、もう一度これは持って帰って、今度うちの企画会議でみんなに見せてみるよ。どんな反応をするか、一度見てみたいしね」

 そう口にすると、石山さんは手にした企画書をクリアファイルに仕舞い、ゆっくりと席から立ち上がる。そしてそのまま歩き出そうとしたタイミングで、彼は僕に向かってニコリと微笑みかけてくれた。


「そうそう、黒木くん。送った資料を結構使ってくれていたのは嬉しかったよ。僕が気付いただけでも五十冊は目を通してくれていたみたいだね。これからも頑張って」

 石山さんが喫茶店の扉を出る音を聞いた後、僕は正直完全に一本取られたという気分になっていた。

 彼から送られた書籍にはもちろん文芸部のみんなの協力もあり、全て目は通している。そしてそのうちの厳選した五十三冊を、僕らはシェアードワールドのメイン素材として使用していた。


「まさか資料の数を当てられるとはね。優弥、君の目指している目標は、なかなか大変そうだよ」


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