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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第三章 奔流篇

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第十二話 シェアードワールドの製作開始!? 文芸部のみんなにベコノベにおけるシェアードワールドの企画を提案したら、すぐに賛同を示してくれて早速世界づくりを始めれることになった件について

「オープンシェアード……ワールド?」

 由那はやや戸惑った表情を目にしながら、僕に向かって確認するかのようにそう問い返してくる。


 授業が全て終わったあとの放課後。

 文芸部の部室にて由那と如月さんに向かい、僕は優弥と昼に話し合った内容を説明していた。


「うん、オープンシェアードされた世界。さっき図書室でも調べてきたけど、海外だとシェアードユニバースなんて言うみたいだね」

「シェアードユニバースですか。その意味では、まさに海外だとクトゥルフ神話とかが有名ですよね。架空の神様とかのお話の」

 ハワード・フィリップス・ラヴクラフトと言う人が発表した小説を元にして作られた架空の神話体系。

 それがクトゥルフ神話と呼ばれるものらしい。


 元々は彼や彼の友人が構築していった神話であるが、それをモチーフや原点として様々な人々が創作活動を今も行っている。まさに僕が目指すオープンシェアードワールドの一つの形とも言えた。


「それほど詳しくはないんだけど、クトゥルフは確かにそうらしいよね。でも、僕がやろうと思っているのはさっき言ったように、ベコノベにおけるシェアードワールドなんだ。もちろん参考にはさせてもらおうと思っているけどね」

「私は先輩のアイデア面白いと思います。と言うか、ある程度そんな指針が合ったら、私でもベコノベで書きやすいかなって思いますし」

 僕の企画の展望を聞いた如月さんは、穏やかな笑みを浮かべながらそう口にする。

 途端、そんな彼女の発言を耳にして、由那がやや驚いた表情を見せた。


「え、如月さんもベコノベで書くつもりなの?」

 彼女のその驚きは僕にも理解ができる。

 というのも、これまで彼女に見せてもらった作品は現実世界での短編恋愛小説が多かった。もちろんベコノベにもそのジャンルの作品は多く存在するけど、正直主流と言えるジャンルではない。


 確かに僕たちのこともあって、最近は彼女もベコノベを読み始めたことを知ってはいた。でもまさか、彼女がベコノベで書くことを口にするのはちょっと予想外ではあった。


「え……いや……その……先輩が考えているシェアードワールドができるなら、せっかくですし一度書いてみたいかなって」

「ほんとに? 是非書いてよ!」

 これで一人目の作家確保!

 嬉しさのあまり、僕は思わず拳を握りしめる。


 すると、なぜか如月さんは苦笑を浮かべてはいたが、小さく頷いてくれた。


「はい。頑張ります」

「そっか、如月さんも参加するわけね……うん、決めた。じゃあ私はシェアードワールドのイラストを描く!」

 それは先程まで顎に手を当てながらなにか考え込んだ様子を見せていた由那の言葉だった。


「いいの? 漫画忙しいんじゃない?」

「誰かさんが原作を止めてたせいでね」

 その由那の言葉に、僕は一瞬胸にナイフを刺された感覚を覚える。

 しかし彼女はすぐにニコリと微笑むと、首を左右に振った。


「嘘よ嘘。知ってるでしょ、原作さえあれば私は描くのが早いってこと」

「うん、それはまあ」

 彼女の作画速度が早いことは僕も以前から知っている。

 何しろ実際に彼女が新人賞に応募した作品も、原作をわたしてからあっという間に描き上げてきたものだったわけだし、実際に担当編集の三崎さんも普通の新人よりかなり早いと太鼓判を押していた。


 だけどやはり彼女に迷惑をかけた事実は変わらない。

 それ故に、僕はわずかばかり苦い思いを噛み締めるも、目の前の彼女にとっては本当に些細な事なのか、既に頭の中シェアードワールドのことでいっぱいのようだった。


「だいたいさ、ベコノベの初心者の人達に小説を書き出しやすいために作るシェアードワールドなんでしょ。だとしたら、そんな人達が世界をイメージしやすいようにイラストがあったほうが良いに決まってるじゃない」

「それは確かにそうかもしれませんね。ちっちゃい子なんかは、真似をするところから絵を描き始めるものですし」

「そうそう、愛ちゃんの言うとおり。最初は塗り絵なんかから初めて、真似をして絵を描くようになっていくのよね」

 なるほど、確かに如月さんや由那の言うことはわかる。


 自転車に乗るときも補助輪をつけるところから始めることは悪いことじゃないし、僕がやっていたサッカーでも最初から大きなコートで練習するのではなく、ちっちゃなミニコートで遊ぶところから始めたほうがとっつきが良い。

 だからこそ、僕はこの企画に強い自信を覚えた。


「小説を書き始める上で、僕も最初はイメージしやすい要素が多い方が良いと思う。実際にベコノベもその意味で言えば、テンプレと呼ばれる共通認識があるから書きやすいわけだしね。今回のシェアードワールドができれば、それを更に明確化できると思うんだ」

「明確化か。ただあまり細かく設定や縛りをつけると自由度がなくなる気がするし、線引きが少し難しいかも」

 由那が示した懸念。

 それは確かになるほどと思うところがあった。


「そうだね。あくまで僕が目指しているのは、ベコノベで作品を書くためのちょっとした後押しになる世界だし……そのあたりは気をつけてみるよ」

「小説を書くためのちょっとした後押しね。となると、幾つかの街並みとか、住民の服装とかも少し描いてみようかな。たぶんイメージが湧きやすくなると思うし」

「あ、それはありがたいです。現代ものだったら、普通に街を歩いているだけでイメージが湧くのですが、西欧風の街並みはどうしてもイメージしにくいですので」

 由那の提案を受け、如月さんはウンウンと何度も頷く。

 そんな彼女の反応に気を良くしたのか、由那は楽しそうな表情を浮かべながら更なる提案を口にした。


「あとは通貨単位とかがあれば便利かな。日本円換算でどれくらいかっていう注釈も付けていればよりわかりやすいかも」

「通貨単位は必要だよね。ただあくまで世界の中の一つの国のものだけを提示して、他の国では決めないほうが良いかも。その方が自由度を高くできる気がするし」

 国家間で様々な文化的差異を出すためにも、一カ国のモデルケースを示すだけにとどめ、それ以外には細かく言及しない方が良いのではないか。

 僕がそう考えた理由を由那もすぐに気づいてくれる。


「つまり共通の貨幣世界にしてもいいし、異なる経済文化を持った国が存在する形にしてもいい。そのあたりは作者さんが使い勝手の良い方を選べる形にするわけね」

「うん。たぶんそうしておいた方が、経済系の知識チートをする場合なんかだと、やりやすい気がするし」

「そうね。例えば複式簿記あたりから始まり、現代の金融工学なんかの知識も知識チートするには使えそうよね。そのあたりはまだ存在しないことにしておきましょう」

「う、うん。それが良いと思うよ」

 複式簿記はわかる。名前と大まかなイメージだけはだけど。

 ただ金融工学なんて言葉をサラリと出されると、さすが由那だなと正直思わずにはいられなかった。


「食べ物とかはどうするんですか?」

「そうだね、基本的には現実世界に順境で良いかも。あとジャガイモは昔からその土地で取れることにしておこうかな。ジャガイモ警察が来たら大変だしさ」

 如月さんの問いかけに対し、僕は苦笑を浮かべながらそう答える。

 途端、由那がそんな僕の顔を見つめてきた。


「ちょっと根に持っているのね」

「はは、僕自身はそんなにだけどね。でも小説を書き始めて、すぐに警察に取り締まられるのはさ」

 初めて感想欄でその手の書き込みに出会った時は、正直面食らった。

 当時はランキングからもこぼれ落ちつつあり、僕自身どうして良いかわからない状況故、一層困惑を覚えていたのも事実だけど。

 一方、そんな苦い記憶を口にした僕に向かい、如月さんは心配そうに自らの疑問を投げかけてきた。


「あの先輩、普段は友達とか先輩たちくらいにしか小説を読んで貰うことがないので、そのあまりイメージが湧かないのですが……ベコノベの感想欄ってそんなにキツイんですか?」

「そんなことはないよ。素敵な読者さんのほうが遥かに多いしさ。でもやっぱりネットの感想って、面と向かって言うわけじゃないからね。どうしてもキツイ言葉だったり、重箱の隅をつつく指摘をしてくる人はいるものでさ」

 そう、大半の読者さんの感想は温かいものがほとんどだった。でも、どうしても一部は攻撃的と言って差し支えないものが交じる。

 その代表的なものはじゃがトマ警察などと呼ばれる存在であった。


 じゃがいもやトマトは、本来は南アメリカ原産の作物。

 しかしベコノベで舞台とされる世界は、しばしばヨーロッパをモデルとすることが多い。その為、これらの作物がヨーロッパに渡ったのが十六世紀以降である以上、中世ヨーロッパを舞台やモデルにした作品においては、これらが登場することはありえないと彼等は主張する。


 もちろんこれらはじゃがいもやトマトに限らず、様々な農作物や工芸品などに於いても同様であり、リアリティレベルの設定などに矛盾が生じていれば容赦なく重箱の隅をつつき、彼らが誤りと考えるものを正すまで攻撃し続ける。

 正直言って、そんな人たちによって、心折られる作者も少なくなかった。


 そしてそれは僕も同様である。

 由那や優弥、そして存在Aこと津瀬先生が僕の背中を支えてくれたからこそ、僕は挫折せず前を向くことが出来ただけ。正直みんながいなかったら、とっくにペンをおいていたかもしれない。


 だからこそ、そんなみんなの代わりをこのシェアードの仕組みが担えればと、僕はそう思わずにはいられなかった。


「じゃがトマ警察はいいわ。彼らに付け入る隙を与えなければ良いわけだし。それよりも世界の設定の方を詰めることに集中しましょうよ」

「そうだね。とにかくベコノベの読者さんたちにとってイメージしやすく、そしてベコノベ的なお約束が使いやすい世界が大前提なわけだ。となれば、ステータスが見える方法がなんかがあることも重要かな」

「ステータス?」

 聞きなれない言葉だったためか、如月さんはキョトンとした表情を浮かべる。

 そんな彼女に向かい、僕は直ぐに補足を口にした。


「えっと、ベコノベの作品では、その世界のキャラクターの能力をパラメーターとして見える作品がそこそこあるんだ。力とか素早さとか魔力とかを数字化してね。たぶんロールプレイングゲームから来た文化だと思うんだけど」

「確かにゲームだと、レベルとかスキルとか魔法とかって細かく設定されて表示されているものが多いものね」

「うん。だから今回のシェアードでも、スキルやパラメーターなどステータスの概念がある世界にしようと思う。もっともその認識がある国、そして無い国があったり、魔法や冒険者ギルドなんかの特殊な道具がなければ見れないって設定が良いと思うけど」

 自分の考えをそう述べた途端、端正なその顔に笑みを浮かべながら、待っていましたとばかりにその口を開いた。

「でたわね、冒険者ギルド」

「まあ、冒険者ギルドでのランク詐欺はお約束の一つだしね」

 異世界転生や魔王討伐後の生まれ変わりなどを経験し、実際は世界でもトップクラスであるSランクの実力を持ちながら、見た目上はEランクくらいの下級ランクのふりをする。そんな主人公の存在は、もはやベコノベのお約束の一つとも言える設定でもあった。


 だからこそそんなお約束を活かすためにも、冒険者ギルドを含め商人ギルドや、工房ギルドなどの存在は組み込んでおくことが望ましいと僕は考える。


「ギルドもあって、レベルもあって、スキルもあるか……なら、基本的にはVRMMOの世界かしら?」

「VRMMOってあのゲームのやつですよね」

 あまりこのジャンルに詳しくないのか、如月さんは確認するようにそう問いかけてくる。


「うん。仮想現実大規模多人数オンライン……ベコノベなんかではよく流行っているジャンルなんだけど、仮想現実を体験できるオンラインゲームと言うところかな」

「で、私は思うんだけど、全てがプログラム上の架空の世界というわけじゃなくて、その世界は別次元か何かに実在しているって設定が良いんじゃないかしら。そしてそこにはVRMMOとして、別世界からアクセスしている人も存在する形で」

「つまり外部の主人公たちから見ればノンプレイヤーキャラクター、いわゆるNPCなんて言われるキャラの目線では、あくまでそこは現実世界。で、そこに対し外の世界からゲームという形を使って特殊な人達がやってくるってところかな」

 これもまたベコノベではよく使われる設定の一つであった。


 VRMMOと思ってプレイしていたら何らかのトラブルに巻き込まれ、そして実際にVRMMO時代の能力のままその世界で生活していくこととなる。

 この場合、ゲームのやりこみデータを自分の能力とできるため、俺TUEEEEなどと呼ばれる最強プレイの土壌を、ある程度自然な形で作品に組み込むことができた。


「まあVRMMOから世界に来ている参加者の数は少ないことにしておけば、プレイヤーのいない国なら現地もの作品としても書けるだろうし、自由度を高くできる気がする」

「そうだね。そのあたりはある程度ファジーにしておいたほうが良さそうかな。例えば作品ごとにぶつからないよう、よく似た平行世界がたくさんあるとかにしておけば、他の作家さんの作品と角が立たないかもしれないしね」

「あ、それは良いかも」

 僕の提案に対し、由那は感心したと言う素振りでニコリと微笑んでくれる。

 そんな彼女の反応に気を良くしながら、僕は簡単に世界設定をまとめた。


「となれば根幹となる世界はひとつで、そこから無数に分岐や平行世界が存在する。更に世界は別の現実世界ともVRMMOで繋がっていると言った形かな」

「悪くないと思うわ。このあたりを基本にして、少しずつ詰めていくとしましょう。あと問題は……昴、貴方ね」

「僕?」

 突然の指名を受け、僕は思わず首を傾げる。

 そんな僕に向かい、由那は呆れたように溜め息を吐き出し、言葉を続けた。


「はぁ……書かなきゃいけないんでしょ?」

「由那の原作を?」

 先日、大幅に遅れて原作を彼女へと渡した僕は、思わずそのことが脳裏をよぎる。

 でも、彼女が危惧していたことはそれではなく、より現実的な分量の問題であった。


「違う……いや違わないけど、それじゃないの。小説よ、小説。大丈夫なの? シェアード・ワールドを作りながら、この世界を舞台にした小説を書かなきゃいけないんでしょ。それも二本も同時に」


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