表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第一章 立志篇
6/91

第六話 想定ライバルは日間一位!? 勝手にライバルだと考えている作品がランキングを駆け上がり、悔しいけどその作品作りや投稿戦略を分析して、いつかの日か必ず上回ってやろうと決意した件について

 既にクラスメイトの数も少なくなった放課後の教室。

 その部屋中に響く様な声で、優弥は驚きの声を上げた。


「おいおい。じゃあ、マジで両親に宣言したわけ?」

「宣言というか、小説家になるって言ってきただけだよ」

 些かオーバーリアクションなんじゃないかと思いながら、僕は苦笑交じりに彼の反応を受け止める。

 しかしそんな僕の内心を知ることなく、優弥は大きく肩をすくめながら、呆れたようなぞぶりを見せた。


「だからそれを宣言と言うんじゃねえか。なんというか、高三にして堂々と小説家になるという奴も凄いけど、それを認めたっていうお前んちの親も大概すげぇよな」

「まあ、最後は父さんがね。と言うか、あの人も昔、ジャズミュージシャンになろうとして、挫折したことがあったらしいし」

「へぇ、お前んちの親父さんは一度見たことあるけど、なんか硬そうな人ってイメージだったなあ。しかし、人間って見た目ではわからんもんだね」

 優弥は二度ほど父と会ったことがある。


 うちの自宅に来た時と、たまたま帰りの駅で偶然出会った時だ。

 どちらの折も、特に会話を交わしていなかったと思う。だけどその二回だけの出会いで、硬いという印象を覚えたらしい。


「硬いというよりも、単純に寡黙な人かな。でもまあ、うちの親の話は別にいいよ。それよりも昨日紹介してくれた無職英雄戦記を読んだんだけど」

「お、どうだった?」

「すごいね。確かに日間ランキングで一位になると思った」

 そう、それが僕の率直な感想だった。


 流行り作品を分析してやろうなんて思いながら作品を読み始めたものの、あっという間に公開されている最後まで読み切ってしまった。

 それほどに引き込まれる作品だったというのが、悔しいけど正直な感想である。


「日間どころか、既に週間ランキングでも二位まで上がってるみたいだしな」

 ベコノベのランキングは、作品が得たポイントを元に幾つかに細分化される。

 その細分化の代表的なものの一つは、小説ジャンルごとのランキング。そしてもう一つが日間、週間、月間、四半期、半期、年間と区切られた期間ランキングであった。


 この期間ランキングの仕組みは、その期間においてどれだけポイントを上積みしたかを比較するものである。つまり週間二位ということは、この一週間において無職英雄戦記は、何十万と存在するベコノベの全作品中で二番目にポイントを稼いだことを示していた。


「でもたぶん、妥当だと思う。あらすじも惹きつけるものを感じたけど、中身はそれ以上だった。正直、今の段階では勝てない」

「勝てていたら、お前のが一位になってるはずだしな」

「まあね」

 苦笑交じりの優弥の言葉に、僕は軽く肩をすくめてみせる。

 優弥はそんな僕の反応を目にして、笑いながら確認するように言葉を紡いだ。


「まあ読んだからわかると思うが、あの作品は主人公の行動の理由付けが抜群にうまい。例えば、昨日も話したギルドの乗っ取りの話だけど、そこまでは読んだか?」

「うん、公開されている分は全部読んだよ。昨日の作家日記を読む限りでは、まだ十話以上の公開前ストックが有るみたいだけど」

 作家日記と呼ばれるブログを、ベコノベは無料で提供してくれる。

 人によっては本当に日々の日記を書く者もいるし、僕のように全く使っていない者もいる。

 そして無職英雄戦記の作者は、かなり几帳面に作品の解説や投稿スケジュールなどを毎回詳細に記していた。


「ストックか……それもベコノベでランキングを上がるには重要な事だな。まあそれはともかく、先にギルドの件だ」

「言いたいことはわかるよ。ギルドを乗っ取るという事をあくまで自然に、そして主人公の行為が正しいと感じさせるように書いているってことだろ」

「そう、その通り。この作者は主人公に対するヘイト管理が抜群にうまい」

「ヘイト?」

 聞き慣れない言葉を耳にして、僕は思わず聞き返す。

 すると、優弥は軽く頭を掻きながら、説明を口にした。


「恨みというか、まあ敵対心だな。主人公が卑怯な手を使うにしても、読者が彼を嫌いになりそうなギリギリ手前までに留めている。ギルドの件で言えば、確かに主人公の乗っ取り方は、金と弱みに漬け込んだ悪辣なものだった。だけど、それまでのギルドの運営の連中はより悪辣だった。だから主人公の行動を押し通すことが出来る」

「そして実際に主人公がギルドを影で操り始めたら、ギルドは見た目上、人々の為の優良組織になった。だから読者も、主人公の行為を追認してしまう……か」

「その通り。まあ、ダークヒーロー的な書き方という感じだな」

「ダークヒーローか……正直言うと、作品は面白かったけど、あの主人公は好きになれなかったんだよね。行動理念自体はさ、理解できなくもないんだけど」

 作品を読んだ正直な感想を、僕は思わず漏らす。

 だがすぐに優弥が、反論を口にした。


「別にお前がダークヒーローを書く必要はないし、構わないと思うぜ。同じテンプレ外しをしても仕方ないしな。それに読者が親しみやすいって意味では、お前の主人公の方は突然事件に巻き込まれた一般市民だ。その意味では、より感情移入しやすいと思う」

「だけど人気があるのは、この無職英雄戦記だ」

「そう。とりあえずキャラの属性の問題は置いておくとしよう。それ以外で、はっきりと分かる大きな差があると俺は思う。わかるか?」

「もちろん文章力も違うと思う……でもたぶん、テンプレを元にした期待と裏切りだろうね」

 ベコノベの読者の心を掴む設定と物語の切り出し方。

 それを踏襲しながらも、この作品はそのままお約束の展開になだれ込まず、突如として全く違う方向へと物語が転がり始める。

 その点が他の安易なテンプレ作品とは決定的に異なっていた。


「ふふ、昴。お前もベコノベを理解してきたな。俺も全く同意見だぜ。あと、もう一つ上げるなら、さっきも言った十分なストックだろうな」

「いわゆる書き貯めっていうやつだね」

「ああ。例えば、昴。お前って、転生ダンジョン奮闘記って、いつ投稿してる?」

「ん? 家で夜に書き終わってからだから、だいたい日が変わる前後くらいが多いかな」

 自宅に帰ってから小説を書き始め、そしてキリの良い所まで書き終われば投稿する。それは大体いつも深夜前後だった。


「うん、普通はそうだな。書き上げたらそのまま投稿する奴が一番多い。でもな、この無職英雄戦記は毎朝八時に必ず投稿されてる。俺はこれも人気の理由だと思うんだ」

「毎日同じ時間にってことか。つまり読者の人も、決まった時間に読みに行きやすいってわけだね」

「そう、スマホでもパソコンでも良いけど、ベコノベにアクセスした時に、読みたい小説が更新してなかったらがっかりするだろ。そして何回もアクセスしてそれでも更新されてなかったら、いつの間にか別にいいやってなっちまう。他にもたくさん小説は投稿されてるからな」

 確かに更新時間が安定している方が、読む側としてはストレスなく小説を楽しめる。

 なるほど、そこまで考えて作品を投稿している人もいるわけだ。


「確かにそのとおりかもね。でもさ、なんていうかこの作者って、計算で小説を書いている感がすごく強いよね」

「ああ、それは俺も思った。例えばアリオンズライフなんて、キャラが奔放に動きまわって、それを楽しむって作品だよな。でもこの無職英雄戦記は、予め細かく決められたシナリオを丁寧になぞってる感じがある」

 決められたシナリオをなぞる。

 つまりかなり緻密にプロットを組んでいるということなんだろう。


「計算と自由……か。でもたぶん、どっちが良いとか悪いじゃないんだろうね」

「ああ。両方できれば無敵なんだろうけどな。ま、いろんなやり方があるってことさ。で、お前はこのあとどうする。すぐに帰って書き始めんのか?」

 その優弥の言葉に僕は顔をしかめる。そして小さく溜め息を吐き出した。


「そうしたいところなんだけどね。今日はこのあと、ちょっと寄らなければいけないところがあるんだ」

「へぇ、珍しいじゃん。帰宅部になってから、いつも家に直帰ってイメージだったけど」

「実は小説家を目指す代わりってことで、二つ約束をしたんだ」

 右手の指を二本立てながら、僕は優弥に向かってそう口にする。


「約束?」

「一つは小説家を目指すのは一年間だけ。それまでに結果を出すこと」

「一年か……常識的に考えればほとんど無理だな」

 その見解は尤もだ。正直、僕もかなり厳しいと思ってはいる。でも……


「……でも可能性はゼロじゃない」

「お前らしいな。その言い方」

「そうかな?」

「ああ。無茶でチャレンジングなスルーパスを通そうとした後、お前いつも言ってただろ。可能性はゼロじゃなかったってな」

 懐かしい……思わずそう思ってしまった。


 サッカーを離れたのは二ヶ月だけど、優弥とサッカーをしなくなってからはもう一年。

 当時、ディフェンダーだった優弥から預かったボールで、僕がリスキーなパスを出すとよく彼に叱られたものだ。


「まあね。でも、通した時はほとんど得点に結びついた。だからボールってのは、蹴ってみなければわからないものさ」

「確かに……な。で、もう一つの約束は?」

 肩を軽くすくめてみせた後に、優弥は笑いながらそう問いかけてくる。

 僕はその問いに対し、溜め息を吐き出しながらしぶしぶ答えを口にした。


「ちょっとさ……予備校に行く事になっちゃってね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ