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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第二章 青雲編

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第十七話 作品投稿開始!? ついにベコノベに新作となる『フクつく』の投稿を開始したのだけど、後の先を取るという僕たちの投稿戦略を看破され、神楽先生に作戦を潰されてしまった件について

 今朝投稿したばかりの新作。

 いつものカフェの軒先で第一話を読み終えた優弥は、完全に予想外という表情を浮かべていた。


「なるほどこう来たか。いや、前に見たプロット段階で、ファッションの話で女性主人公ってのは理解していたが、要項にあった壮年紳士を執事にして、さらに若い美青年を敵役……そして要項にない孤児院出身の少年を相方に持ってくるとはな」

「はは、まあ主人公はともかく、他の配役には制限がなかったからね。主人公が裕福な悪役令嬢な分、貧しい現地出身の少年を相方のデザイナーに配置することで、様々なギャップを演出できると思ったんだ。実際に貧しい家出身の偉大なデザイナーは存在するしね」

 そう説明したところで、この作品を書くに当たり参考にした何人かのデザイナーの顔を脳裏に浮かべる。その上で僕は、パッソを相方のデザイナーに配置したもう一つの理由を続けて口にした。


「あとは、他の公募作品を一通り見たけど、どれもイラストのある三人を中心にストーリーを回していたからね。だから敢えて設定のないキャラを重要人物に持ってくることで、違いを示せると考えたのもあったしさ」

 既に投稿を開始した他の漫画原作部門の応募作品。

 その中でも、現時点で三千ポイント以上を取っている作品を中心として、各作品の指定キャラの配役を僕は全て確認していた。


「まさに後の先を選択したメリットその一ってやつだな」

「言うなれば、後出しジャンケンみたいなものだけどね。もっともその分のリスクも背負っているわけだから、僕らの分析が間違っていたらただ無残に敗れ去るだけさ」

 軽く肩をすくめながら、僕は優弥に向かってそう告げる。

 そんな僕の覚悟に苦笑しながら、優弥は改めて視線をスマホへと落とした。


「確かにな。しかし一つ気になったんだが、タイトルが長過ぎねえか? なんか略称とか無いのかよ?」

「略称ねえ……デザインツクールとか?」

 頭の中でパッと思いついた名前を僕は優弥に向かって言ってみる。

 だがイマイチ気にいらなかったのか、優弥はダメ出しをしてきた。


「どこかで聞いたような名前だけど、もう少し短縮した方がいいんじゃね?」

「あまり短くすると、既に使われてそうだからなぁ。ちょっとまってね、被ってる名前がないか検索するから……ああ、『デザ』と『つく』はくっつけるとまずいかな。先に使っている人いるし。だとしたら、『フクつく』とかかな」

「『フクつく』か、なんかマヌケな感じだよな」

 僕も内心で思っていた感想を、優弥は率直に口にする。

 だけど僕は、何故かこの少しマヌケな感じの愛称が嫌いになれなかった。


「まあ正式な名称ではなくただの略称だしさ、ちょっと変わってるくらいの方が、記憶に残るかもしれないよ?」

「ふむ、確かにそれはあるかもな。しかし昴、この『フクつく』だけどさ、お前この手の話が書けたんだなぁ。いや、正直驚いているよ」

「まあかなり下調べをしたからね。基本的に十九世紀後半にフランスでオートクチュールが発展するまではビルドごとの分業制が主流だったから、それをモデルにしたんだ。で、そこに世界大戦中のアメリカンファッションの発達史を参考にして――」

「まてまて、落ち着け。そのことじゃない。というか、その辺りに関しても、ほんと良く調べたのはわかったよ。あと調べたことを、そのまま全部使わなかったこともな」

 僕が世界設定に関する詳細な説明を述べ始めようとしたところで、優弥は右の手のひらを突き出してくると、僕の言葉を遮りあっさりとした評価を口にする。


「前に津瀬先生に指摘されたからね。読者は小説を求めているのであって、資料集を求めているわけじゃないって」

「確かにな。調べたことはついつい全部使いたくなるのが人情ってものだが、その中からテーマに合うものだけを厳選するのも、ある意味重要な工程だ。そこがきちっとできてるてのは、たぶん成長したってことだよ」

「そうかな。はは、ありがとう」

 彼の褒め言葉を受け、僕はほんの少しだけ胸のつかえが取れる。


 そう、この作品は僕にとってかなり思い切って制作したものであった。

 これまでの僕の作品は、その全てが男性主人公であり、彼の視点から一人称で物語を構築する用に作ってきたものばかりである。しかしながら、僕は初めてこの作品で女性主人公かつ三人称を使用した。


 いずれももちろん、今後の漫画原作を見越してのものである。

 そんな僕の考えはさておき、優弥は顎に手を当てると、改めて先ほどの彼の驚きの理由を口にした。


「まあそれはそれとしてだ、俺が驚いたってのはそういう知識の問題じゃなくて、なんていうか昴の書く女性キャラクターに、前にはなかった奥行きが出た気がするってことだ」

「奥行きか……それはたぶん由那のおかげかな」

 率直な回答を僕は優弥に向かって口にする。

 すると彼は、少しばかり意外そうな表情を浮かべ、ややずれた回答を行ってきた。


「由那のおかげ? あいつをモデルにしたからってことか?」

「違うって。モデルにしたとかそんなじゃなくて、由那が貸してくれた女性向け漫画のおかげってことさ」

 そう、この作品を作る上で最も役に立ったもの。

 それは服飾史の資料ではなく、由那が貸してくれた女性向け漫画であった。


「ああ、なるほどそういうことか。確かに俺たちに結構な宿題を出されたからな」

「うん。だけどアレを読んで、少しだけ女の子がどんなことを望んでいるかわかった気がするよ」

 変身願望や恋愛、強くなること、認められること。

 漫画には様々な願望がそこに込められている。そして女性向け漫画を読むことで、その読者の人達が求めている物が、ほんの少しだけ僕にもわかった気がしていた。


「ほう、じゃあ、俺と今度ナンパに行こうぜ」

「行かないよ。と言うか、いまどきナンパなんて流行らないよ」

「こういうのは、流行る流行らないじゃねえんだよ。というか、世の中草ばっかり増えてやがるからさ、それじゃあダメだろ」

 優弥は首を左右に振りながら、思わず愚痴をこぼす。

 そんな彼に向かい、僕は苦笑交じりに苦言を呈した。


「そういう問題でも無いと思うけどね。それに優弥はナンパより先に、受験勉強をした方がいいんじゃない?」

「その貴重な時間を、こうやってお前のために使っているんだろうが」

 優弥は僕の指摘に対し、両手を左右に広げながら抗議してくる。

 だけど僕は、そんな彼に向かい冷静な指摘を口にした。


「自分から会おうって言ってきたのは、一体誰だったっけ?」

「勉強には気分転換も必要だからな。そんな黄金より高価な時間を、お前のために割いてやってるんだ。もっと感謝しろよ」

 僕の皮肉などどこ吹く風で、優弥はあっさりとそう言ってのける。

 僕は少しばかり悔しかったため、敢えて感謝の対象をずらすことにした。


「まあ優弥はともかく、漫画を貸してくれた由那には感謝はしないとね」

「だから俺にもだろ。まあいいや。それよりも、そろそろランキングの更新時間のはずだけど、覚悟は良いか?」

「いつでもいいよ。どうせビビっていても、一日三回は来るんだしさ」

 ベコノベの日間ランキングは早朝、昼、夕方と一日三回更新される。

 だからこの更新を見逃したところで、あまり大した問題はないと僕は高をくくっていた。何しろ、今朝新作を投稿したばかりなのだから。


 しかしそんな僕の予想とは異なり、優弥の表情は驚きに満ちたものとなる。


「なら早速……え!?」

「どうしたの優弥? 三百位以内にもう入っていたとか?」

 ランキングの表示される下限は三百位である。

 そこへ一両日中に入ることが、僕のひとまずの目標であった。

 だが優弥の声は短く、そして否定の色を帯びていた。


「違う」

「え、じゃあ箸にも棒にもかからなかったわけ? まあ投稿初日だしね。過剰な期待は――」

「違うそうじゃないんだ。つまり逆だよ」

 僕の言葉を遮る形で、優弥はそう口にする。

 途端、僕は眉間にしわが寄るのを感じながら、優弥に向かって確認するように問いかけた。


「逆?」

「ああ、十五位。十五位なんだ、日間総合ランキングの」

 予期せぬその数字。

 それを耳にした瞬間、僕は驚きの声を上げる。


「ウソでしょ。だって投稿してから最初のランキング更新だよ。いくらなんでも……え……本当に?」

「ああ、ほら見てみろよ」

 そう言うなり、優弥は彼のスマホを僕へと見せてくる。


 そこに示されていた順位。

 それは紛れも無く十五位であり、七百ポイントもの数字がその横に記されていた。


「七百……いやでもまだ投稿してから半日も立っていないし」

「変だな。いや、もともと昴にはベコノベの固定ファンが付いているから、ランキングに入ること自体は不思議じゃない。しかし、こんなにいきなり……まさか!」

 優弥はそう口にすると、慌ただしくスマホを操作する。そして一つのページヘとアクセスしたところで、途端にその表情を歪ませた。


「しまった、やられた!」

「どうしたの、優弥」

 彼の反応の意味がわからず、僕は困惑を覚えながらそう問いかける。

 するとそんな僕に向かい、優弥は苦々しい口調で苛立ち混じりの言葉を吐き出した。


「あいつの仕業だ。くそ、なぜ俺たちの狙いに感づきやがった」

「あいつ?」

 その意図する人物がわからず、僕はそのまま問い返す。

 途端、彼は大きく頷くと、懸念すべきその人物の名と行為をその口にした。


「ああ、あいつだ。神楽だよ、あいつが昴の作品を面白いって、ブログや短文投稿サイトで宣伝しやがったんだ。ちくしょう、してやられた」

 そう、彼の僕たちの作品を賞賛する行為。


 それは表面的には好意の表れのように映るものの、間違いなく僕たちの描く計画に大きな変更を迫る行為であった。


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