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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第二章 青雲編

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第十一話 文芸部に入る条件!? 後輩の女の子とファーストフード店で話していたら、突然由那が現れて、僕以上に彼女のことを(コスプレ仲間を求める意味で)気に入ってしまった件について

「なるほどね。如月さんは文芸部に入っていて、部員が少なくて困っていると、そういうわけだ」

 それぞれ目的とした図書を借りた後に、彼女の話を聞くため、僕たちは駅前のファーストフード店へと足を運んでいた。


「そ、そうなんです。文化祭の登録の日までに部員が四名以上いないと、参加資格が貰えなくて……」

「で、今は何人いるの?」

「その……私一人です」

 如月さんは、うつむき加減のまま、恥ずかしそうにそう告白する。

 そんな彼女の置かれた状況の悪さを知って、僕は思わず確認を取らずにはいられなかった。


「え……じゃあつまり、あと三人必要ってこと?」

「そうなんです。去年の卒業生は五人も文芸部員がいらっしゃったみたいなんですけど、先輩の学年や二年生に入部される方がいらっしゃらなかったみたいで……」

 だんだん弱々しい声となりながら、如月さんは僕に向かって申し訳無さそうにそう告げてくる。

 一方、僕は彼女の説明から、一つの疑問を抱いていた。


「でも、文化祭はともかく、学校の部活って一人でも大丈夫なの?」

「はい。新規で申請する場合はいろいろ制約があるみたいなんですが、継続の場合は一人でも大丈夫みたいです。なので、文芸部自体は存続の問題はないのですが、文化祭は流石に……」

「確かに、一人や二人のよくわからない出店が増えたら、文化祭の実行委員会も大変だろうからね」

 藍光高校の文化祭では無数の出店や芸術関係の発表が、毎年校内のあちこちでところ狭しと行われる。その為、文化祭実行委員はその場所の振り分けや監督なども含め、当日は非常に激務となることで知られていた。


「委員会の方の言い分はわかるんです。だから無理は言えないと思ってました。でも文化系の部活なのに、文化祭に出店しないというのはちょっと寂しくて……」

「確かにそういうものかも。僕もサッカー部の頃は、毎年体育祭が楽しみだったしね」

 陸上部の連中に負けないことを目標としながら、僕たちは毎年、体育祭の日を心待ちにしていた。

 それを文化系のサークルに置き換えてみれば、確かに彼女の気持ちがわかる気がする。徒競走に出ず、綱も引かず、リレーも走らず、何より障害物競走でパンを咥えない体育祭なんて、僕には考えられなかったからだ。

 だから、目の前でうつむく黒髪の後輩に向かい、僕は首を縦に振る。


「うん、仕方ないよね。わかった、さっきも言ったとおり、僕はいいよ」

「いいよって……え、本当に入ってくださるんですか!」

 僕の返事を耳にした如月さんは、なぜか戸惑ったような素振りを見せる。

 だけどその理由が、僕にはいまいちわからなかった。


「うん、だって困ってるんでしょ?」

「それはそうなんですけど……でも」

 顔の前で人差し指を合わせながら、不安げな表情を浮かべつつ、如月さんはチラチラと僕の顔を伺ってくる。

 後輩であるからこその気後れかなと思った僕は、彼女の不安が解ければと軽く微笑み、そしてそれらしい理由も付け足してみせた。


「今の僕は部活に所属していない帰宅部だからさ。部活に入るのもありかなって思っていたんだけど、ダメかな?」

「ダメなんかじゃないです。むしろ、是非お願いします!」

 そう口にすると、如月さんは目の前のテーブルに頭を付けそうなくらいの勢いで、深々と頭を下げて来る。

 そんな彼女を目にして、僕は思わず苦笑を浮かべた。


「頭を上げてよ。それに僕も小説を書いているわけだしさ、文芸部に入る事自体、そんなに変なことじゃないと思うんだ。だから最初、勧誘しようと思ったんでしょ」

「は、はい。あの、それなんですけど、先輩が書かれている小説って――」

「昴……貴方、何をしているのかしら?」

 如月さんの言葉を遮る形で、突然側方から発せられた冷たい声。

 それを耳にした僕は、いつもの調子で反射的に返答を行った。


「え、後輩の悩み相談かな。サッカー部時代からさ、よく部員に……って、由那!?」

 説明を行いながら、視線を向けた先。

 そこには見慣れたクラスメイトの、不機嫌極まりない表情がそこにあった。


「ええ、私よ。っていうか気づいてなかったのね……」

「いや、いつもの声だったから反射的に答えちゃった感じでさ」

 僕は鼻の頭を軽く掻きながら、何故か怒っていそうな彼女に向かい、そう告げる。

 すると、由那はこめかみをピクリと動かし、そして怒気を孕んだ底冷えするような声で僕に問いかけてきた。


「で、改めて聞くけど、かわいい女の子をはべらかして一体何をしているのかしら?」

「だから悩み相談だって。うちの学校の一年生らしいんだけど、部員がいなくて困ってるらしくてさ、だから部活に入ってあげようかなって」

「女の子が困ってるから部活に入る? 何よそれ。昴、貴方絶対怪しげなネットワークビジネスとかに取り込まれるタイプよ」

 怒りと呆れが入り混じったような声で、由那は仁王立ちの姿勢のまま、僕に向かってそう断言する。

 一日雨、そんな彼女を目にして、僕は一つのアイデアがふと脳裏に浮かんだ。


「ははは、ないない。学校の文芸部だから、そんな心配はいらないよ。というか、そっか。由那、君も入ってよ」

「入る……部活にってこと? 待ってよ、なんでこの私が、こんな泥棒猫の部活に……泥棒……うん、いいわ。入る」

 如月さんを指差しながら、強い剣幕で拒否しようとしていた由那は、彼女の顔に視線を向けたタイミングで、突然口数が乏しくなる。そして、眉間に寄せられていたしわが、まるで憑き物が落ちたかのように消えると、彼女は突然コクリと頷いてきた。


「え、あの……由那?」

 急にその雰囲気を一変させた由那を目の当たりにして、僕は戸惑いを覚えながら彼女へと呼びかけを行う。

 しかし、そんな僕の言葉など耳に入らぬ様子で、由那の視線は眼前の如月さんに釘付けとなっていた。


「ちょっと、なんで? なんでこんなぴったりな子がいるの。というか、こんな子が学校にいたのに、なんで私は今まで気付かなかったの?」

 由那はよくわからないことを口走りながら、おでことおでこがくっつくほどの距離まで、如月さんの顔に自らの顔を近づける。

 明らかにやんちゃそうな由那の予想外の行動。

 それに最も恐怖したのは、間違いなくそばに寄られた如月さんであった。


「ちょ、ちょっと、あの……」

「ストップ、由那。少し落ち着こう」

 如月さんが明らかに怯えていることがわかったため、僕は慌てて二人の間に割って入る。

 すると、ようやく由那の瞳に理性の色が灯り直し、彼女は自らが行った行為を恥ずかしそうにしながら、眼前の後輩に向かい謝罪の言葉を口にした。


「え? あ……ごめんなさい」

「いえ、その……こ、こちらのすごく綺麗な方は先輩のお知り合いなんですか?」

 如月さんは未だに少し怯えながらも、僕に向かってそう尋ねてくる。

 突然何かのスイッチが入ったように如月さんに迫った由那をその目にしながら、僕は簡単に彼女を紹介した。


「うん。僕のクラスメイトでね、三年の音原由那だよ。で、由那、どうしたの一体?」

「いえ、ちょっと……ね」

 自分の行動を省みて流石に思うとことがあったのだろうか、由那は下唇を噛みながらうつむき加減にそう答えた。


「と言うか、本当に文芸部に入ってくれるの?」

「……そうね。それより、この子の名前は?」

「あの……如月愛と言います」

 依然として不安そうな様子ではあったものの、如月さんはそう口にすると、ペコリと頭を下げた。


「そう、愛っていうのね、実にいい名前ね。やはりローズオデッセイに適役だわ」

「ローズオデッセイ?」

 由那の口から飛び出したよくわからぬ単語。

 それを耳にした僕は、何故か不吉な予感を覚える。

 しかし、そんな僕の内心を知ってか知らずか、由那は突然さらに意味のわからぬ独り言を呟きだした。


「こういう取引を持ちかけるのはずるいってわかってるの。でも、今日だけは神様許してください」

「由那……さっきから、何を言ってるかわからないんだけど」

「愛ちゃん、部員に困っているのなら、さっきも言ったとおり私も入ってあげてかまわないわ」

「え、あの……本当……ですか?」

 たぶん如月さんの顔は喜んでいるように見えた。

 もっとも先ほどのことがあったためか、依然として由那に対し、ある程度の警戒はしているみたいだけど。


 そんな警戒される立場の当人。

 彼女は口元のほんの僅かな笑みを浮かべると、小さく首を縦に振った。


「昴が言っていたように、女の子が困っていたら、助けてあげるのは当然だもの」

「さっき人のこと、ネットワークビジネスに取り込まれるとか言ってた気が……いや、なんでもないよ」

 すごい勢いで睨まれたため、僕は思わず黙りこむ。

 その睨んだ当人は、改めて如月さんに向かい微笑みかけると、思いもしないことを口にした。


「それで愛ちゃん、文芸部に入る代わりと言っては何なのだけど、ちょっと私のお手伝いをお願いできないかしら?」

「お手伝い……ですか」

 予想外の要望を突きつけられた如月さんは、途端に当惑した表情を浮かべる。

 だが僕は、由那が求めるお手伝いを察すると、彼女を安心させるように言葉を挟んだ。


「はは、わかったよ彼女に何をさせたいのか。あのさ如月さん。由那は漫画を描いているから、そのアシスタントとして手伝いをして欲しいってことだと思うよ」

「え……ま、漫画!? 先輩、漫画を書かれているんですか!」

 由那の言葉を耳にした如月さんは、驚きの表情を浮かべる。


 うん、そうだよね。


 僕はそんな彼女の反応に納得する。

 何しろこの少し派手目なギャルの見た目で、更にこの性格である。普通は漫画を描いていると思わないことうけ合いであった。


 一方、そんな驚いたような反応を示された由那は、どう反応したものか戸惑いながらも、覚悟を決めたような表情となり、改めてその口を開いた。


「え、うん、そうなんだけど……お手伝いの意味はそれではないの」

「じゃあ、普通にお茶くみとか?」

 僕は由那の意図するところがわからず、考えうるお手伝い案を口にしてみる。

 すると、由那は首を左右に振り、思いもがけぬことを如月さんへと提案した。


「違う、一緒にきて欲しいのよ」

「来てって……何処に連れて行くつもりなの?」

 唐突な如月さんへのお願いを耳にして、僕は首を傾げながらそう尋ねる。

 だがそんな僕の問いかけは、彼女の願いと根本からずれていた。


「ちがう、その『来て』じゃないの。私と一緒に服を『着て』欲しいのよ」

「服? ああ、なるほど。例のお祭りとか言うやつだね!」

「え?」

 優弥の言葉を思い出した僕は、納得したとばかりに大きく頷く。

 しかし未だ話のまったく見えぬ如月さんは、ただオロオロするばかりだった。


 そんな目の前の黒髪の後輩に向かい、由那はニッコリと微笑む。


「今度の夏コンのために私が作ったローズオデッセイの服、貴方に着て欲しいの。それが文芸部に加入する条件よ」

 彼女の願いは僕の予想通り、やはりあの趣味のためのものであった。


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