第二十六話 父への報告!? 優弥とともに運営からの書籍化メッセージを目にした僕は、背中を押してくれた父に報告に向かい、そしてここからが始まりなんだと改めて告げられ志を新たにした件について
家の一番隅にある書斎。
僕はその扉の前に立ち、ゆっくりと息を整える。そして小さくノックをした。
「父さん、入るよ」
僕はそう告げて、部屋の中へと足を踏み入れる。
いつもと変わらぬ溢れんばかりの書類と、山のように存在する無数の書籍。
その中央には、見慣れたあの丸い背中があった。
「昴か……どうした?」
僕の姿を認めた父さんは、眉間にしわを寄せながらそう問いかけてくる。
そんな父に向かい、僕は力強く言葉を発した。
「これを見て欲しいんだ」
そう口にするなり、僕は手にしていたスマホを父へと手渡す。
そこに表示されていた文面を目にして、父はほんの僅かに口元を緩めた。そしてそのまま、僕の顔をマジマジと見つめてくる。
「……そうか。結果を出したか。よくやったな、昴」
「うん。ありがとう、父さん」
僕は迷うこと無く、父さんへの感謝を告げる。
だが父さんは、すぐに首を左右に振った。
「私は何もしていないさ。全てお前の力だ」
「違うよ。父さんが背中を押してくれなかったら、たぶんここまで来れなかった」
「そんなことはない。私は邪魔をしなかっただけだ」
「でも、もし津瀬先生を僕に紹介してくれなかったら、こんな結果は出なかった。本当に父さんのおかげなんだ」
津瀬先生と出会うことが出来なければ、今の僕は、そして転生英雄放浪記は存在しなかった。それは事実だと思う。
だが父さんは、ほんの僅かに苦笑を浮かべると、ぽつりぽつりと言葉をこぼした。
「津瀬君を紹介……か。それに関しては、確かにそうとも言えるし、そうではないとも言えるんだがな」
「え……でも津瀬先生は父さんから話を聞いていたって……」
「まあ彼はそう言うだろうな。良いだろう、お前は次のステージへと進んだ。ならば次は彼の番だろうな」
「父さん?」
父さんの口にした言葉の意味がわからず、僕は戸惑ったままその場に立ち尽くす。
すると父さんは、思わぬことをその口から紡ぎだした。
「お前の小説に関する指導のことは、実は津瀬くんから言ってきたんだ。私が予備校選びで彼に相談した際に、少しだけお手伝いできるかもしれませんから、任せてもらえませんかってね」
「うそ……で、でも、なんで津瀬先生は僕のことを」
父さんの言葉通りだとするならば、説明のつかないことがある。
なぜ津瀬先生が、会ったこともない僕の指導を買って出たのかということだ。
もちろん、父さんへの恩義からという可能性も否定はできない。しかしそれならば、ある意味では父さんのおかげにほかならないとも言える。
だが父さんはそれを明確に否定していた。
となれば、津瀬先生自身が予め僕の存在を知っており、そして力を貸したいと言ったということになる。
でもその理由が何か、僕には見当もつかなかった。
「津瀬くんが何故そうしようと思ったか……か。たぶん彼なりの負い目からだろうな。私は筋違いだといったが、ああ見えてなかなか頑固な質でね。それで彼が務めていた予備校に行かせることにしたのさ」
「え……じゃあ、あの予備校を選んだ理由は!?」
「そう、彼が……津瀬くんが居たからさ。それがお前の進みたい道にとって、最善の道だと思ったからだ。そしてお前は結果を出した。彼と出会い、夢に向かって全力で取り組んでな」
「父さん……」
父さんの言葉に、僕は何も言えなくなった。
なにが何もしていないだ。ずっと僕を見守ってくれていたんじゃないか。
母から聞いたサッカーの時と同じ。この人はいつだって、背中をそっと後押ししてくれる。
そして必要とあれば、適切な助言を僕に向かって口にする人だ。
「だが、昴。ここからだぞ。小説に限らんが、私の仲間にも様々な物書きをしている者がいる。彼らが皆、口をそろえていうことは一つだ。続けていくことが一番難しいとな」
「本を出すのはゴールじゃなく、スタートだってことだね」
「その通りだ。プロで生きていきたいと思うのなら、そのことを忘れないようにしなさい」
父さんはそれだけ告げると、小さく一つ頷いた。
僕はただ、零れ落ちそうになる瞳の中の雫を必死に堪えながら、強くはっきりと頷き返した。
「わかったよ。父さん」
「でも、本当によくやったな、昴」
そう口にして、父さんははっきりと微笑んだ。
ああ、子供の頃、僕は父さんのような大人になりたいと思ったことがある。
そして改めて今、まったく同じ思いを僕は胸に抱いた。




