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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第一章 立志篇

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第二十四話 由那からの贈り物!? いつの間にか義務感と焦燥感から小説を書いていた僕が、再び小説と正面から向き合うことを決意したタイミングで、由那からキャライラストが送られた来た件について

 騒がしかった彼女の部屋での出来事がウソのように、モニターの前には僕一人。

 いつものように、ただひたすらに目の前の原稿と向き合い続ける。


 完全に原稿の中へと没入できているこの時、僕はただ物語の中の観察者。

 言うなれば、転生英雄放浪記の世界における、ただ一人のカメラマンになっていた。


 僕がカメラを通してみた彼らの姿、つまり猛り、嘆き、叫び、そして笑いが、そのまま原稿へと落とし込まれていく。

 そんな彼らを書き出していると、自然と僕も自分の表情が変化していくのがわかった。


 文字を通して世界は産み出され、そしてキャラクターたちは動き出す。

 そんな彼らが、そしてこの世界が僕にとっては愛おしくてたまらない。

 だから僕は、自分が呼吸をするような自然な感覚で、彼らの物語を紡ぎ続ける。


 僕は幸せだった。

 ただまっすぐに、物語の中の彼らと向き合うことができているのだから。


 アリオンズライフを読んで影響され、そして初めて物語を書き始めた時のような、あのワクワクした気持ち。

 それが今、自分の中にはっきりと蘇っているのを僕は感じていた。


 もちろん、その理由は存在する。


 先ほど、何気なく届けられた一通のメール。

 それは新人賞の受賞が決まった彼女から、僕宛に届けられたものであった。




 黒木昴くんへ


 由那です。

 連絡先は聞いていたのに、これが初めてのメールとなってごめん。


 何度もメールしようかなって思ったこともあったけど、実は男の子にメールするのは初めてで、なんと送っていいかわからなくて先延ばしにしちゃってました。

(っていうか、昴が先に送ってくれてたら、悩まなくてよかったのに。ちょっとおこです!)


 何を言うつもりだったかな……とにかく、君に送りたいものがあるので、このメールを書きました。

 うん、なんで急にメールなんかって考えると思ったから、先に理由を言っておこうと思って。


 えっと、私が両親と住んでないことは、前も言ったよね。母さんはイギリスに帰っちゃったし、父さんは、中学に上がった頃から部屋と預金通帳だけ私に預けて、顔も見せなくなっちゃった。


 でも、恨んでるかと言われればそうでもないの。

 私には漫画があったから。


 漫画の中には無限の世界があって、無限の友だちが私にはいた。

 泣いたし、笑ったし、ほんと漫画と出会えて幸せだったわ。


 でも、いつの間にか読むことだけじゃ満足できなくなって、私は漫画を描くようになった。

 そしてすぐに気づいたの。素晴らしい漫画って、どれも作者の強い情熱と経験がこれでもかってくらいつめ込まれてることに。


 もちろん情熱は私にもあったわ。

 でも、込めるべき経験が足りなかった。


 痛感させられたの。

 私の書き上げてる世界は、あまりに空っぽだなって。


 色んな会社の色んな雑誌に何度もを作品を送っても、返ってくる評価はいつも同じ。


 絵は上手い。

 送られてきた評価には、いつもその一言が書かれていた。


 物語れない漫画家。

 それが私、音原由那だった。


 だから足りないものを埋めようと、私は外へ出るようになった。

 流行りの雑誌を読み、流行りの格好をして、そして華やかな街を歩いてみる。


 そんな私の姿を目にして、クラスの人達は私のことを不良だというようになったみたい。

 私はハーフだから、髪の色も目立つし、学校という場にはちょっと服装も合わなかったから……でも、一つだけ良かったことがあるの。


 友達に連れられて偶々見に行った、サッカーの試合。

 そこで、レジスタって呼ばれてる一人の選手を見ることができたの。

 その頃からかな、次第に新人賞でも少し上まで進めるようになった。


 理由は簡単。

 私の作品に奥行きが、そしてちょっとこれまで無かった思いを込めることができるようになったから。


 そして今でも忘れないあの日がきたの。

 サッカーをしていた彼と同じクラスになったあの日。


 そう、高校三年の始業式。

 でも、彼は学校へ来なかった。


 彼は試合で怪我をした。

 そして戻ってきた時は完全に別人とだったわ。


 私には無い瞳の奥の光を持っていた彼。

 そんな彼が、以前の自分を見ているかのように、虚ろな瞳になっていた。


 正直、ショックだった。


 あんな光あふれた彼でさえ、夢はかなわなかった。

 ならば、私が夢にたどり着けるはずがない。そう私は思ったもの。


 だけど、彼はまた変わった。

 そして瞳の奥に輝きを取り戻した。


 そんな彼の隣には夏目って男がいて、二人は教室で楽しそうに物語を作り始めたの。


 私はなんとしても、仲間になりたいと思った。

 頭の中で何度もイメージして、勇気を振り絞って彼に声を掛けてみた。


 一度目は失敗したし、二度目は墓穴を掘ったけど、偶然予備校が一緒になった貴方とようやく名前で呼び合えるようになった時、私はほんと胸が張り裂けそうだった。


 そして彼らのおかげで、私は結果を出すことができた。


 本当に感謝してる。


 でも、チームでやっているって言いながら、私は彼から与えてもらっているだけ。

 優弥みたいにベコノベに詳しいわけでもない私が、なにをできるかって悩んでた。


 だから、私はこのイラストを送ります。


 なんでもできるけど、なんにもできない主人公のアイン。


 他の何人かのキャラと合わせて、イメージ画を書いてみました。

 何も言わず見てくれると嬉しいな。


 それじゃあ、貴方の作品の続きを楽しみにしてる。



  私達のレジスタへ

  今も昔も、そんなレジスタのファンである音原由那より

 




 メールの文面を読んだ撲は、窓の外を眺めながら小さく息を吐き出す。


「レジスタを名乗るにしては、守りばかりに気をとらわれすぎて、最近の僕はちょっとかっこ悪かったけどね」

 そう口にしながら、僕は一度その瞳を閉じる。


 頭の中でゆっくりと反芻されていくメールに綴られた文章。

 そこからは、由那の心からの感謝と、そしてほんの少しばかりの好意を感じ取ることが出来た。


 ひょっとしたら、もちろんそれは僕の勘違いだったのかもしれないけれど。

 何故か不意に胸が暖かくなるのを感じながら、僕は再びその瞳を開くと、そのままメールに添付された画像ファイルを開く。


 そうして僕が目にしたもの。それは転生英雄放浪記の主人公であるアインの姿であった。

 そう、僕が頭の中で想像していた……いや、想像していた以上のアインの姿。


 少しだけ冷めた様な素振りを取るけど、誰よりも優しく、誰よりも傷つきやすい主人公。

 彼女はそれを、作中の子供たちやヒロインたちとともに描いてくれていた。


 思わず涙が零れそうになった。


 いつからだろう。

 ただひたすら上に向かって走ることしか考えられなくなっていたのは。


 ランキングのことばかりに心囚われ、物語の中の世界は、僕の心と同様に次第に狭く窮屈なものになってしまっていた。


 サッカーをしていた頃も、大きな大会に出た時に限って、勝ちにこだわりすぎ周りが見えなくなる事があった。

 サッカーを楽しむという大前提を忘れてしまって。


 そしてそんな時は、たいてい良い結果は得られなかった。


 視野の狭くなった僕のパスは、敵にとって奪いやすいボールでしかなかったから。

 だから監督にもよく言われた。パスの出し手は周りをしっかりと見て、常に視野を広くしていろと。


 本当にあの頃から成長していないなと、僕は思わず苦笑する。

 いつの間にか、僕の頭の中のアインは、まるでのっぺらぼうのような顔のないものになりかけていた。

 でもそれは本当のアインじゃないと、目の前のイラストは僕に語りかけてくれる。


 ああ、もっといい物語が書きたい。


 目の前に存在する生き生きとしたアインを、思う存分物語の中で羽ばたかせてあげたい。

 もう一度、しっかりと周りを見ながら初心に帰って頑張ろう


 みんなから学んだこと、そしてサッカーと執筆という二つの事を通して僕が得たこと、これらを使いながら、ランキングではなく物語と真正面から向きあおう。


 アリオンズライフに出会えたから、そしてベコノベに出会えたから、そして優弥に、津瀬先生に、由那に出会えたから今の僕はある。


 異世界転生というベコノベのキーワードは、まさに僕自身が体験したことだ。

 サッカーという世界から、全く異なる世界への転生の如き出会い。


 本当に小説を書くことに出会えてよかった。


 それは嘘偽り無い僕の気持ち。

 この喜びを、そして感謝を、物語を通して少しでも多くの人に伝えたい。


 やるからには中途半端はしない、いつも全力で結果を求める。


 僕はそう思いながら、再び物語を綴り始める。

 あの頃の思いをこの胸に秘めながら。


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