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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第一章 立志篇

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第二十一話 ジャガイモ警察の襲来!? ランキングが停滞をし始めて打つ手がなくなった僕の感想欄に、中世ファンタジーを事細かに検証する人達がやってきて、どうにも収拾がつかなくなってきた件について

 今日もベコノベのトップページに表示された、赤色に染まった文字。

 ほんの数日前までは嬉しくて夢中でクリックしていた。この感想が届いたことを示すメッセージを目にすれば。


 だけど、今の僕はまったく異なる感情を覚える。

 目にしたくないという、激しい胸の痛みを。


 確かに全ての人に最高だと思ってもらえるなんて、そんな甘いことは思ってなかった。

 でも、目の前に存在する現実は、はっきりと僕の胸に深い刃を突き刺す。


 結局僕は、この日も届けられた感想に返信をすることができなかった。


 明らかに潮目は変わった。

 落ちる、墜ちる、堕ちる。


 気がつけば、ランキングの一桁に居たことが嘘のように、僕は下へ下へと転げ落ちていった。

 そして待っていましたと言わんばかりに、次々と新しい作品が、僕を踏みつけて上へ上へと駆け上がっていく。


 それでも僕はもがき続ける。


 もう一度あの位置へ、ランキングの上へと戻りたい。

 だから今日も、僕は暗闇の中を走り続ける。


 それは僕の最も嫌いなこと。

 ゴールまでの道のりを見ずに、闇雲にボールを運ぼうとする行為に他ならない。


 でも、立ち止まることは出来ない。

 今はとにかく更新を、作品を投稿し続けなければならなかった。


 そう、読者を……読者を掴まないといけない。


 だから僕は今日もただモニターに向かい続ける。

 淡く消えていく、プロへの道のりを見つめながら。





「あんまり気にすんなよ、昴」

「いや、別に気にはしていないけどさ……」

 昼休みの教室。

 僕はスマホの画面を見つめながら、そう口にするも深い溜め息を吐き出した。


「嘘つけ、顔に気にしてるって書いてあるぜ」

「なに、なに、どうしたの?」

 その声の主は、僕と優弥を交互に見比べながら、いつの間にかちょこんと僕の席の側に立っていた。

 そんな彼女を目にして、優弥は軽く頭を掻くと、苦い表情を浮かべながら説明を口にしてくれた。


「いや、昴の感想欄がちょっと荒れててな」

「感想欄が荒れる? それってどういうこと?」

「ベコノベには、作者に作品の感想を書き込む場所があることは知ってるだろ? あそこに困ったお客さんが来てるってことだ」

 そう、優弥の言うとおりである。

 ランキングを登ってアクセス数が増え始めた頃から、僕の作品の感想欄には、これまでは見かけることがなかったような感想が、チラホラと見られるようになっていた。


「困ったお客さんって言うと、クレイマーみたいなものってこと?」

「まあ親戚みたいなもんだな」

 溜め息を吐き出しながら、優弥はそう口にする。

 すると由那は、自分のスマホを取り出すと、そのまま僕の感想欄を確認しだした。


「ふぅん。でもこれを見る感じだと、ちょっと辛口なのもあるけど、みんな素直な感想って気がするけど」

「まあたいていの感想はな。でも例えばさ、その下のやつを見てみろよ」

 由那のスマホを覗き込みながら、優弥は彼女に向かってそう告げる。

 その言葉を受けて由那は軽くスマホの画面をスライドさせると、そこに書かれた感想を彼女は何気なく読み上げていった。


「なになに……『中世をモデルにしているのにジャガイモを登場させるとか、作者の教養の無さが透けて見えますね』って……何よこれ!」

 由那はその感想を目にした瞬間、その端正な顔に不快気な表情を浮かべる。

 そんな苛立ちを隠せぬ彼女に向かい、優弥は首を小さく首を振りながら、ゆっくりとその口を開いた。


「これが所謂、じゃがトマ警察ってやつだ」

「じゃがトマ警察?」

 まったく耳慣れぬ言葉だったのか、由那は眉間にしわを寄せながら、優弥に向かって聞き返す。


「ああ。ジャガイモとかトマトって、じつは南アメリカ原産の作物でな。ヨーロッパに渡ったのは十六世紀以降なんだよ。だから、実際の中世ヨーロッパに存在しなかったのは事実ではあるんだ」

「でもそれって現実の話でしょ?」

「そうだ。だから的外れって言えば的外れなんだよ。異世界の中世ヨーロッパ世界には、普通にトマトもジャガイモもあるかもしれないからな」

「別に歴史ものじゃないんだし、なんでそんなことで目くじらを立てるのかしら」

 理解できないといった表情を浮かべながら、由那は僅かに首を傾げる。

 するとそんな彼女に向かい、優弥は溜め息混じりに説明を加えた。


「じゃがトマ原理主義者の連中に言わせれば、そのあたりが現実に忠実でないってことは、リアリティレベルが低い見るに値しない作品ってことになるらしい。もちろん、寒冷地なのに高温多湿地帯の果物を登場させたりとか、作者の勉強不足の場合も往々にしてあるんだけどな。でもさ、それもあくまで現実の世界の法則に沿った場合の話だしな」

「ほんとくだらない連中ね」

「でもな、そんなのはジャガイモやトマトだけじゃなくてな、他にも色々あるのさ。揺り椅子は十八世紀以降が主流だから、中世の世界に存在するのはおかしいとか、貨幣制度においては銅と銀と金の価値のバランスがおかしいとかな……ま、この辺りをまとめてファンタジー警察って言ったりもするわけだが、俺に言わせればただの無粋な連中さ」

 優弥はそう口にすると、軽く肩をすくめる。そして僕の肩をポンと叩いた後に、思わぬ提案を口にした。


「なあ昴、今日は放課後時間あるか?」

「放課後? 予備校はない日だけどさ」

「なら決まりだな。久しぶりに作戦会議をしようぜ。見せたいものもあるし」

 優弥はそう言うと、ニコッと笑いかけてくる。

 正直にいえば、僕としてはあまり気乗りしなかった。なぜなら、まだ今日の夜の更新分が書き終わっていないからだ。だからこそ、執筆以外の時間を取ることなど、僕にはとても考えられる状況ではなかった。

 だが、見せたいものというその言葉だけが、どうしても僕の心に引っかかる。


「あのさ、見せたいものってなに?」

「ん、とある作家日記なんだが、もう昼休みも終わるだろ。だから気分転換も兼ねて、放課後にな」

「良いわよ。じゃあ放課後に集合ね」

 僕が断りの言葉を口にするより早く、隣に立つ由那が勝手に同意を示す。

 そんな彼女の言葉に戸惑ったのは、当然僕だけではなかった。


「おい、お前も参加する気かよ」

「なに、私をのけ者にするつもり? 第一、作戦会議室は私の家って決まってるでしょ」

「いや、そんなこと決めた覚えはないんだが……第一、またあのピンクの部屋だろ」

 由那の発言に対し、優弥はやや困惑した様子を見せる。

 一方、僕は気になった一つのことを確認してみた。


「由那、予備校は大丈夫なの? 確か今日は、授業とってた気がするけど」

「うん。火曜日と水曜日と金曜日に、授業日が変更になっちゃって」

「え……じゃあ、今は僕と同じ曜日ってこと?」

 そう、由那が口にした三つの曜日は、僕が予備校に通う日でもある。

 以前までも週に一回だけは同じだったけど、まさか三日もかぶることに成ったとは思っていなかった。


「そ、そうだね。偶然そうなっちゃったみたい」

「いや、どう考えてもそれは必ゼ――」

「なにか言った?」

 優弥が言葉を挟みかけたところで、由那の鋭い言葉が向けられる。

 途端、優弥は表情を引き攣らせると、彼女の鋭い眼光から思わず視線を逸らした。


「いや、ははは、なんでもないぜ。うん」

「なんというか、ふたりとも仲がいいよね。で、それはともかく、優弥は大丈夫なの?」

 もし万が一優弥がダメなら、執筆に専念できると思って口にした言葉。

 だけど当然のことながら、踏まれていた右足を解放された目の前の男は、あっさりとその首を縦に振った。


「心配無用だ。バイトがない日は、この俺にやることなんか何もないぜ」

「胸を張って言うことじゃないでしょ」

「まあそう言うなって。ともかく音原、家でケーキでも用意して待っててくれよ。じゃ、そういうことでな」

 優弥はそう告げると、勝手に占拠していた隣の夏川くんの席から立ち上がり、そのまま歩み去っていく。

 途端、彼の背に向けて音原の声が発せられた。


「ちょ、ちょっと夏目。来る側が、ケーキは持って来なさいよ。ねえ、聞いてるの?」

 慌てて向けられた彼女の声。

 それはタイミングが悪いことに、午後の授業開始のチャイムと綺麗に重なり、優弥の耳に入ることはなかった。


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