第二話 目指せベコノベ作家!? ダンジョンマスターものの小説を書いてみようと思うんだが、どうやればいいかわからないので友人に方法を教わっていると、なぜかクラスの女子に睨まれてしまった件について
「でさ、優弥。一つ聞きたいんだけど良いかな?」
「何だ、改まって?」
優弥は怪訝そうな表情を浮かべながら首を傾げる。
そんな彼に向かって、僕は脳裏を渦巻いていた一つの疑問を彼へとぶつけた。
「あのさ……小説ってどうやって書けばいいのかな?」
「へ?」
クラスでもそれなりに人気があるという優弥の整った顔。
それが引きつった表情のまま、完全に僕の眼前で固まった。
「いや、なにしろ初めてでさ。小説を書くと決めたけど、具体的にどうしたら良いかわからなくて」
「……一応聞くけど、書きたい話はあるんだよな?」
「それはある。と言うか、この週末に色んな作品読んで、僕ならこうしてみたいってのがたくさんあったから、多分問題ないと思う」
優弥の疑いの視線を受け、僕はそんな懸念を振り払うかのようにそう告げる。
すると、ようやく疑念が引っ込んだのか、優弥はいつもの笑みを浮かべた。
「そうか、安心したぜ。まさか書きたい話もないのに、思いつきで小説家になるって言い出したのかと思ってさあ」
「それはないよ。ボールを蹴ったこと無いのにサッカー選手になりたいっていうようなさ、小学生じゃないんだから」
優弥の言葉に対し、僕は唇を僅かに尖らせて反論する。
途端、優弥は苦笑を浮かべ。軽く両手を広げてみせた。
「はは、そりゃそうだ。ともかくさあ、書きたいことがあるんなら、それを物語にしてみろよ」
「うん、そうなんだけど……でもどうやって?」
「いや、とりあえず書けばいいじゃん。文字にすればさ」
僕の疑問が上手く伝わっていないのか、優弥はやや呆れた口調でそう答えてくる。
だから僕は仕方なく、思いつく範囲での最初に行うべき行動を口にした。
「そっか……とりあえず帰りに本屋に行くとしよう。という訳で、付き合ってくれないかな」
「本屋? 小説を書くマニュアル本でも探しに行くのか?」
「へ? 原稿用紙を買いに行くんだけど」
何を当たり前のことを聞くんだろう。
文字を書けというのなら、原稿用紙は必須じゃないか。
「げ、原稿用紙!? あのさ、書いた作品をどうするつもりなんだ?」
「ベコノベに投稿するんだけど」
当たり前の回答。
すると、優弥から返されたのは非常にシンプルな提言であった。
「原稿用紙いらなくね?」
「いらないの?」
「お前さあ、ネットでベコノベ読んだんだろ」
「うん。パソコンで読んだ」
「ならさ、それはどうやって書かれたと思う?」
「パソコン」
「そうだよな。まあ最近は携帯電話やスマホで書く奴もいるけど」
「あ、ひょっとして原稿用紙っていらないのか?」
確かにそうだ。
まともに長い文章を書いたのは、小学校の時の作文が最後だったから、どうしても原稿用紙に書くというイメージが残っていた。
でも確かに、ネットにアップするわけだ。となれば、わざわざ原稿用紙に書いたとしても、後でそれをパソコンに打ち込み直さなきゃいけない。なるほど、つまり二度手間となるわけだ。
「原稿用紙なんてまったくいらねえよ。というかさあ、なんかたまに怪しく感じる時があるけど、お前ってほんとに現代に生きてんのか?」
「そりゃあ、君の目の前にいるんだから今を生きてるよ。でもそっか、パソコンか」
「……まさかパソコンが使えないとは言わねえよな?」
優弥はそう言うなり疑念の眼差しを向けてくる。
ちょっと悔しい。
だから僕は、敢えて胸を張ってやった。
「僕がどうやってベコノベを読んだか、ちょっと考えればわかるだろ。いまどきそんなわけ無いさ」
「あのさ、サッカーを一緒にしてた時も思っていたけど、お前の負けず嫌いってよくわからない時に顔を出すよな」
肩を落としながらそう口にする優弥に対し、僕は僅かに首を傾げてみせる。
「そう? まあ、あんまり細かいことはどうでもいいよ」
「はぁ、まあいいや……で、振り出しに戻るが、どんな話を書くつもりなんだ?」
その優弥の問いを受け、僕はこの週末の間、自分の頭の中に揺蕩っていたものをシンプルに言葉にした。
「そうだね、中世ヨーロッパを舞台にして主人公が活躍する、これまでにない話」
「ベコノベらしいといえばらしい話なんだが、何というかすっげぇふわっとしてるよなぁ、それ」
……どうやら、揺蕩っていたままの状態ではお気に召さなかったらしい。
だから僕は、畳み掛けるように、漠然と考えていた世界設定を口にした。
「それとなんというか、狭い世界から外に飛び出す話さ」
「いや、そんな堂々と言われても、まだ全然抽象的だからな。とりあえずさあ、ノートにでもいいから、どんな話を書くのかまとめてみろよ」
優弥はやや引きつった表情を浮かべながら、僕に向かってそう提案する。
だが、そんな彼の提案に、僕はわずかな引っかかりを覚えた。
「ノートに? パソコンじゃなくて?」
「考えをまとめたりするのはパソコンよりも、何かに手で書きだした方が、頭の中が上手く整理されたりするもんだぜ」
頭の中にあるイメージを何かに書き出す。
その優弥の言葉を聞いて、僕が思い浮かべたものはサッカーの試合前のミーティングだった。
「なるほど、試合前のミーティングで、ホワイトボードにやってたあれね」
「……お前、頭ン中本当、サッカーばっかりなのな。まあいいや。ともかく小説を書く上で重要なのは、全体的の設計図だ。これを”プロット”って言う。まあ今回、紙に書きだすってのはプロットの前のネタ出しなんだが、お前は初めてだし、それがそのままプロットになるかもな」
「ふむ。とりあえず、午後の授業中にでもまとめておくよ」
確かに頭の中が混沌としていて、自分でも上手く説明できてはいない感じはある。
その意味でも、確かに書きたいことを文字にしていくのは有効なわけだ。
「……一応、授業はまじめに聞けよ。と言っても、夢中になると周りが見えないお前には、たぶん無理だろうがな」
「うん、任せて」
僕は満面の笑みを浮かべると、迷うこと無く親指を突き立てた。
「はぁ……テストが終わったばかりだからって、程々にな」
優弥はそう口にすると、深い溜め息を吐き出した。
「で、二時間使ってどうだったんだ?」
ホームルームが終わり、担任が教室を出た直後、優弥は僕の席のまでやってくると、午後の成果を問いかけてくる。
僕は自信満々に頷くと、机の上に置いていた数学のノートを、彼へと手渡した。
「とりあえず、これを見てくれないかな」
「何々……ほう、中世ヨーロッパ。暗闇の中にヒロインと二人。敵が攻めてくる。ダンジョンの地下深く……なるほどダンジョンものってわけか!」
僕の中で漠然と存在していた書きたいものの羅列。
それを目にした優弥は、驚きながらそう口にした。
「ああ。あと、最初は世界を狭くしたい。そして次第に広がりを見せていきたい」
優弥が僕のノートに目を通すのを目の当たりにしながら、僕は畳み掛けるように自らの構想を伝えようとする。
途端、優弥は片手を前に突き出して、一度僕の言葉を遮った。
「ま、待てって。サッカーのお前の指示と一緒だ。お前にだけゴールまでの筋道が見えているからって、急に話が飛躍し過ぎなんだよ。もう少し丁寧に、順を追って説明してくれ」
その優弥の言葉を受けて、僕は懐かしいサッカー時代のミーティングを思い出す。
確かに似たようなことを、あの頃もよく言われていたのは事実だ。だから僕は、顎に手を当てて少し頭の中を整理し直すと、改めてゆっくりと説明を行う。
「そっか……要するにね、主人公はダンジョンの中に召喚された青年。彼は強制的にダンジョンの支配者にされてしまう」
「ふむふむ、続けて」
「で、何故彼がダンジョンマスターにされたのか。それはそのダンジョンを構築しているコアと相性が良かったからさ」
「コアって用語がいきなり出てきたけど、要はダンジョンとの適性が高いってことだな」
僕の説明を自分なりに噛み砕きながら、優弥は確認するようにそう言ってくる。
「そう。適性があるものを強制的にダンジョンマスターにさせる。それがこのダンジョンコアの能力ということだね」
「なるほど。少しSFチックだが、それを剣と魔法の世界でやるわけだ」
「え、何でわかったの?」
「昼休みに中世ヨーロッパがモデルだと言ってただろ」
そういえばそうか。
確かに、先にその話だけはしていた気がする。
「確かにその通り。中世ヨーロッパをモデルにした剣と魔法の世界」
「で、どのあたりが今までにない話なんだ?」
「転生するところさ」
この話のまさに根幹となる部分、それを僕は端的に説明する。
すると優弥は、眉間にしわを寄せながら疑問を投げかけてきた。
「転生? 主人公が転生する話なんてそれこそ無数にあると思うけど?」
「いや違う。転生するのは主人公じゃないんだ」
「じゃあ、ヒロインが転生者?」
「間違いってわけじゃないけど、正解でもないかな」
転生者は主人公ではない。また純粋にはヒロインでもない。これら二人が転生者の設定は、週末に読んだ作品の中にもたくさん類型があった。
それでは残念ながら、僕が思う独自性には至らない。
「待ってくれ、ちょっとわかんなくなってきた。じゃあさあ、一体何が転生するんだよ」
「ダンジョンさ」
自信満々に僕はそう告げる。
途端、優弥は間の抜けた声を発した。
「は?」
「だからダンジョン自身が転生するんだよ。いろんな世界を旅する形でな」
「……ないな。少なくとも俺は見たことがない」
それは明らかに、先程までと完全に異なるトーンの声であった。
その声を引き出した僕は、自分の中での自信をわずかに深める。
「具体的にはこうさ。自らの世界に転生してきたダンジョンと、主人公はたまたま親和性が高かった。そのせいで、強制的に記憶を消去され、彼はダンジョンマスターにされてしまう」
「それで?」
「ヒロインはダンジョンコアのローザ。ダンジョンのコアである彼女と主人公の命は繋がることとなる」
「なるほど。それでヒロインが転生者というのは間違いではないというわけか。でも待てって、ということはさ、彼女が黒幕なのか?」
少し身を乗り出しながら、優弥はそう尋ねてくる。
僕は少し回答に迷ったものの、彼女に関する更に詳細な設定を語ることにした。
「黒幕かと言われれば、そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。彼女は製作者の呪いで、己の望む望まぬにかかわらず、転生を繰り返すダンジョンと運命共同体となってしまっているんだ」
「つまり悲劇のヒロインってわけだな」
「うん、そんな感じ。で、自らに関する記憶を消去された主人公は、最初はヒロインをなじる。だけど、ダンジョンに囚われた彼女の悲しい運命を知って、一緒にダンジョンに縛られた運命から抜けだそうと奮闘するわけさ……どうかな?」
わずかな緊張が僕に走った。
正直、作品の構想なんて話すのは始めてのことだ。もちろん、自分では面白いのではないかと思っている。いろいろな作品を読んでいて、その中で主人公とヒロインに人間の不幸をもう少しだけ背負わせてみたいと思ったのが発想の原点だ。
どんなに頑張っていても、突然降りかかってくる不幸は存在する。
でも、そこから新たな世界に向かって前に進ませていきたいと思う。
そう、僕がこの作品を通して、そうしたいように。
優弥の言葉を待つ間、そんな風に様々な葛藤が僕の中で渦巻いていた。だが、目の前の灰色の少年の邪魔をせぬよう、ただただ静かに、僕は彼の感想を待つ。
そして少し悩んだすえに、優弥はゆっくりと唇を動かした。
「悪くない……と思う」
「え、ほんと?」
「ただ問題はだ、書けるか? かなり複雑な話だろ。結構、難しい気がするぜ。最初なんだから、もっとシンプルなものでもいい気がするけどな」
「シンプル……か」
確かに一理あるかもしれない。
こうやって一対一で喋っている形でも、僕の話を優弥が理解するのには時間がかかった。
ましてやそれを文章だけで、しかも情報の羅列ではなく小説の中でとなると、優弥の言うとおり難易度は高いのだろう。
あれ……変だな。
その時、僕は初めて一つの違和感を覚えた。そして躊躇することなく、目の前の青年へと疑問をぶつける。
「あのさ、少し気になったんだけど……優弥ってなんでそんなに詳しいの?」
「そりゃあ、簡単だ。俺も昔さあ、ベコノベで書いていたからな」
「え、ええ!? マジで?」
間違いなく、そう間違いなくこの日一番の驚きだった。
というか、親友だと思いながら、まさか彼にそんな一面が隠されていたとは。
「いや、マジだけどさあ。というか、お前の『マジで』って言葉、似合わないからすげえ気持ち悪いのな」
「いや、マジで驚いたんだ。ほんと」
ケチを付けられて悔しかったから、僕はあえてそう繰り返した。
すると、優弥は僅かに渋い顔をしたが、無視することにしたらしい。
「……ともかく、書いていたのは本当だ。と言っても、バイトとかが忙しくなって、今は止めちまったけどな」
「しかし、知らなかったな。優弥にそんな趣味があったとは。人って案外見かけによらないものなんだね」
「ひでぇなあ。というか、それを言うなら、頭の中にサッカーボールが入っていると言われていたお前がさあ、小説を書こうとするほうがもっと似合わねえよ」
「ふむ……確かにそういうものかな。なるほどね」
ああ、それはそうかもしれない。
ほんの三ヶ月前の自分に言っても、絶対に信じないことは容易に想像がついた。
「というか、そこは納得しちゃうのな。いや、お前らしいけどさあ」
「でも、優弥の言いたいのは、あまり複雑になりすぎず、シンプルに書けってことだよね。つまりはサッカーの組み立てと一緒だ」
「はは、まあその例えがお前にとって一番わかり易いんなら、まあそれでいいや。とにかく、処女作なんだ。設定はそれでいいとしても、あまり変に凝った作りを狙わず、できるだけシンプルに書いてみろよ」
優弥の言っていることは、確かにもっともだ。
わかりやすくシンプルに。つまり受け手に優しいパスを文章で出す!
「うん、そうだね。とりあえず、今晩にでも一話目を書いてみるよ」
「さっきの話で一話目となると……そうだな、召喚されて意識を失った青年が、ヒロインであるダンジョンコアに出会うまでってところかな」
僕の話から、ざっくりと一話目の当たりを優弥はつけた。
なるほど、たぶんこれが経験の差というものなんだろう。
「確かに一話目なら、そこまでが良さそうだね。しかし優弥、君ってすごいね」
「現役を退いたからって、一日の長ってやつはあるからな。ともかく、オーケー。じゃあ、本当に書けていたら、明日読ませてもらうぜ」
「ああ、任して!」
「よし、そうと決まったら帰ると――」
優弥がそう口にしながら、勝手に借りていた席から立ち上がろうとしたその時、僕たちの前に長い金髪の女性がすっと立ちはだかった。
パッと見た印象としては、どこのクラスにも居る少し遊んでる感じの今時の女子高生だと僕は思った。でもよくよく見てみると、日本人らしからぬようなスラリとした体型に、少し高い鼻と整ったその顔立ちはとてもではないけど、どこのクラスにもいない。
そう、まるでテレビや雑誌に出ているようなモデルさんか何かが、何かの手違いでこのクラスに撮影に来たのではないかと、そんなありえぬことを僕は思った。
「あ、あのね……」
目の前の女子高生は、その端正な唇を僅かに震わせると、少し迷うような素振りを見せる。
そんな彼女の反応に戸惑いつつ、僕は先ほどからずっと頭の中に存在した疑問をそのままぶつけた。
「えっと……誰?」
首をかしげながら僕がそう口にした瞬間、金髪の女子高生はその両目を見開く。そしてたちまち、その双眸は険しいものへとなっていった。
「え、どういうことかしら?」
「ごめん、音原。ほら、こいつクラス替えしてから、入院が長かったから」
「……ふん、そう。いい、別に。邪魔だから、どいて欲しいんだけど」
音原と呼ばれた女性は不機嫌さを全身で醸し出しながらそう口にすると、優弥を押しのけて、部屋の後方から退室していった。
そんな彼女の後ろ姿を視線で追っていた優弥は、頬を引きつらせると、すごい剣幕で僕に食ってかかってきた。
「昴! お前はなんなの。何か俺を巻き添えにしようって、そんな恨みでもあんの?」
「は、なんの話?」
「音原のことだよ」
珍しく興奮状態にある優弥を目の当たりにして、僕は首をかしげると、はっきりと自分の見解を告げる。
「ああ、さっきの子のことか。はは、特に知らない奴にどうこうするほど、僕はバカじゃないよ」
「バカだよ、十分にバカ。このクラスのキングオブバカ」
「おいおい、ちょっと人より頭の中の筋肉が多いってだけで、キングとは大げさじゃない?」
あまりに過剰な優弥の表現に、僕は軽く両腕を広げると、肩をすくめてみせる。
しかし、僕のそんな反応を前にして、優弥はブンブンと首を左右に振った。
「違う、そうじゃない。あの音原由那に面と向かって、知らないなんていうからバカだって言ってるんだ」
「はぁ、何、有名人? 僕は知らないけど」
「この学年の女子の中でも別格の存在だよ。イギリス人ハーフのギャルでさ、他の普通の女の子からは恐れられてる。あいつに目をつけられたせいで、学園をやめさせられた子までいるって噂だぜ」
「ふぅん、じゃあ悪い奴なんだ。なら別にいいじゃん」
なんだ、少しばかり心配して損したと僕は思う。たぶんこれを言ったら優弥が怒りそうだから言わないけど。
でもそんな僕の気遣いを、優弥が汲んでくれることはなかった。
「まったく良くねぇよ。いいか、あいつに喧嘩を売ったということは、女子達全員を敵に回したようなものだぞ。実質、あいつが仕切ってるようなもんだからな。ほんと、お前何してくれんの?」
「でも、悪い奴なんだろ? それに、どうせ普段会わない奴に嫌われても別に関係ないって」
「大有りなんだよ。普段会わないとか意味わかんねえこと言ってるけど……音原は俺達のクラスメイトだよ!」
む……そういえば、あんな派手な色の金髪もいたか。
春休みに怪我をして、クラスに戻ってきても特に自己紹介などしなかったから、普段喋らない連中のことは結構あやふやだった。
「へぇ、それは知らなかった。なるほど、それじゃあ普段も会うかもね」
「普段も会うかもじゃない! ああ、もうなんだかな。あいつが他の奴に命令して、この俺がモテなくなったらどうしてくれるんだ」
「別にいいんじゃない。特に減るもんじゃないしさ」
「減るんだよ、俺のメンタルがガリガリと」
「そう……まあ頑張ってくれ。僕にはあまり関係なさそうだし」
「っていうか、おまえが一番嫌われたはずだ」
すぐに優弥がそう断言すると、僕は首をかしげながら問い返す。
「そうなの?」
「さっきの会話を思い出して、それ以外の可能性があると思うか?」
「あんまりなさそうかなぁ」
まあ少なくとも、好かれるような会話はしていないと思う。だけど、嫌われるかどうかは、また別問題ではないだろうか。
しかしそんな僕の考えをよそに、優弥は自信満々に自らの見解を突きつけてきた。
「あんまりじゃねえよ。絶対ねえからな」
「なあ、優弥。あんまりカリカリしたらダメだよ。若ハゲになるっていうしさ。ただでさえさっきの金髪の子みたいに、髪を染めてるんだから」
「昴!」
その日、ヘソを曲げてしまった優弥に対し、僕は近所のラーメンを餃子付きでおごる羽目になった。理不尽だ。