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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第一章 立志篇
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第十八話 初の日間ランキング入り!? 投稿した新作の反応が気になってすごくナーバスになっていたけれど、前作の読者さん達が後押しをしてくれたおかげで、初めて日間ランキングに載ることができた件について

 夢を実現した。

 人々が望んだ夢を、そして僕が望んだ夢を。


 でも何かが間違っていた。

 まるでボタンを掛け違えたような、あべこべな結果。


 本当に欲しかったものは手に入らず、ただ結果だけが残された。

 僕の手に残ったものは、虚しい言葉だけ。


 英雄。


 その言葉だけがかつての僕に、そして今の俺に残された。


「って……なんつう夢だよ」

 俺は額を押さえながら、ゆっくりと体を起こす。

 粗末なベッドに被っていたのはただの布切れ。

 その上、昨夜無理やり飲まされたのが質の悪い蒸留酒とくれば、あんな夢を見ることもあるだろう。


「にしても、つくづく朝から幸先悪いぜ」

 俺はそう愚痴りながら、そのまま体を起こす。

 小柄で華奢な体に、黒尽くめの衣服。そして髪までもがインクをぶちまけたような真っ黒。

 まさに黒ずくめを体現した普段着のまま、俺は眠ってしまっていたようだ。

 この全身を包む黒という色は、この国においてあまりいい色ではない。なぜならば、かつてこの国を救った英雄が、純白という真逆の色を好んでいたとされるからだ。


「ふん、とりあえず朝飯でも喰って、本当になにして過ごすか決めるか」

 俺はそう呟きながら部屋をあとにした。


「お、起きてきたなごくつぶし」

 借りている二階の部屋から階段を降りると、バーとなっている一階のカウンターの方向から、突然声を向けられた。


「……なんだ、そのごくつぶしってのは。それが客に対する口の聞き方か?」

「部屋代を滞納している奴は客って呼ばねえんだよ。で、ごくつぶし、今日くらいはギルドに行って依頼を受けてくるんだろうな?」

「なんか朝からおっさんのむさ苦しい顔を見せられると、途端に勤労意欲が失せるね」

 俺は軽く肩をすくめながら、この宿のオーナーであり、ワイングラスを磨いているクレイリーに向かってそう告げる。

 すると彼は、呆れた口調で大きく溜め息を吐き出した。


「お前さ、その胸のB級冒険者の紋章が泣くぜ。この街のギルドには、お前以外にはD級以下の駆け出しばっかなんだ。少しくらいは、トップの自覚を持って働けよ」

「やだよ、めんどくさい。あいにく今日は、先約があるしな」

「先約?」

「ああ。ここに迎えに来るって言ってたんだが……お、来たな」

 俺はそう口にすると、バーの入口から姿を現した、可愛らしい三人組の待ち人に向かい笑みを見せる。

 すると、彼らの中で最年長であり唯一の男子であるフレックが、少し緊張した面持ちのまま、ぴょこんと頭を下げた。


「えっと……アイン兄ちゃん、遅くなってごめん」

「おう、気にすんな坊主。ちゃんと来たから許してやるよ」

 俺はそう口にすると、ニンマリと笑ってやる。


 真面目で優等生気質のフレックに、ちょっと自信家でおっちょこちょいのマリア、そして眼鏡をかけて普段は本ばかり読んでいるローザ。

 先日、溜まりに溜まったツケを払うために、俺はしぶしぶギルドのクエストを引き受ける羽目となった。そのクエストを終えた帰り際に、街の近くでF級モンスターであるホーンラビットに苦戦していたのが、目の前の可愛らしい新人パーティ三人組である。


 ちょっとした気まぐれで俺は手を貸してやったわけだが、それ以来やたらと彼らに懐かれてしまい、そして今日の約束をするに至った。

 一方、そんな幼い三人は、俺を迎えに来たのはいいものの、おそらくバーになんて足を踏み入れたのは始めてだったんだろう。どこか落ち着かない素振りを見せながら、店の中をキョロキョロと見て回っていた。


「先約ってガキの子守りのことかよ。というかアイン、おまえもまだ十分に坊主って歳だろ」

「いいんだよ、俺は。気分的には、あんたと同じくらいのおっさんだからな」

 薄く笑いながら俺がそう告げると、クレイリーは呆れたように首を左右に振った。


「気分で年齢は決まらねえよ。ともかく、こいつらをどこに連れてくつもりなんだ?」

「ちょっとガジェム山まで、遊びに行ってくるだけさ」

 まるで近所の公園へ遊びに行くかのように気軽さで、俺はそう口にした。

 するとクレイリーは、驚きを隠せずに思わず目を見開く。


「お、おい……ガジェム山ってお前……」

「だから、こいつらの修行も兼ねてさ。ま、この街のガキたちには、傷一つ付けずに連れて帰ってくるよ。じゃあな」

 俺はそう口にして、ニコリと微笑む。


 さて、今日はこいつらを連れてサクッとピクニックに行くとしようか。冒険者ランクD推奨と言われる、ガジェム山にな。


(レジスタ著 転生英雄放浪記より一部抜粋)





「どうしたんだ、こんなところで」

 誰も居ないと思っていたこの場所で掛けられた声。

 僕は体をブルリと震わせると、慌てて背後を振り向いた。


「先生!」

「ふふ。昴くん、こんばんは」

「どうして僕がここにいることを」

「階段を登っていく君の姿を認めたのさ。それに私も、ちょうどこの場所に用があったのでね」

 先生はそう口にすると、胸ポケットから取り出した紙タバコにサッと火をつける。そうして薄暗い予備校の屋上に、淡い小さな火が灯った。


「下では吸われないんですか?」

「あまりタバコの臭いを残すのも、どうかと思ってね。一応、私だって思慮と分別ある大人つもりだから」

「思慮と分別ある大人なら、わざわざ健康に悪いことをしないですよ」

 自分が好きな人がタバコを吸う事。それにあまりよい感情を持てなかった僕は、先生に向かってあえてそう告げる。

 すると先生は、おかしそうに笑いながら肩をすくめてみせた。


「ふふ、そう言われると返す言葉も無いな。まあこれはさ、私の中でのささやかな反抗でね。それくらいは、お目こぼしして欲しいところだな」

「反抗……ですか」

 僕は眉間にしわを寄せながら、先生の言葉を繰り返す。

 途端、先生はニヤリと微笑み、そして嬉しそうにその唇を動かした。


「ああ、反抗。どうやら私は、エリートなんていう人種だと見られているようでね。なかなかに窮屈しているのさ」

「正直言って、どう見えてもエリートにしか見えませんよ」

「そうかい? 実際は程遠いんだがね。まあいずれにせよ、こいつは道に背くっていう、ささやかな行為なのだよ。少なくとも、この私にとってはね」

 道に背く。

 その物言いにピンとこなかった僕は、確認するように先生へと言葉を向けた。


「タバコがですか? 確かに体には良くないと思いますけど」

「そう、誰が考えても体に良くない。そして知り合いが吸いたいと言い出せば、私なら止めるな。でも、自分は吸う。矛盾だよ。そんな頭の悪さもたまには良い」

「それが道に背くってことですか」

 頭が悪い行為をすることが、道に背くことであるかに関しては、些か疑問を覚えた。それゆえに僕は、先生に向かってまっすぐにそう問いかける。


「そのうちの一つではあるな。またその意味では、ベコノベも同じと言えるがね。本来進むべき、研究者としての本道から外れた世界。そこで論文ではなく、小説を書き投稿している自分。普通に考えれば、十分以上に矛盾した道さ」

「でも、本来の道から外れた道もなかなかに面白い……ですよね?」

 その満足そうな表情から、僕は先生の言い回しを真似してそう口にした。

 途端、先生は嬉しそうに僕の言葉を肯定する。


「ふふ、その通りさ。ベコノベ上の私ではなく、研究者の津瀬明人にとっては無駄でしか無い。あの空間に足を踏み入れること、そして自らの功績とならぬ文章を書くことはね。でもまた、その行為にまさる喜びも無いのさ。だから私は書き続けている」

「正しい行為だけが、正解と言うわけでは無いのですね」

 何気なく口にした僕の言葉。

 それに対し、先生は意味ありげに笑うと、あえて謎かけのようなことを口にした。


「さて、正解とはなんだろうね。研究者を志す私にとっては、ノーベル賞の様な有名な賞を取れば正解の人生と言えるのかな? ふふ、残念ながら私はそうは思わない。親に敷かれたレールを走り続けてきた私にとって、正しくない道であるベコノベもまた、私にとては正解だと思っている。そしてそれは、君も同じじゃないかな?」

「僕も……ですか。確かにそうかもしれません」

 サッカー選手となる道が絶たれた僕にとって、新しく出会うことが出来たベコノベの世界は、まさに明るい輝きに満ちていた。


 そう、それはまるでこの夜空に存在する無数の星と言えるかもしれない。


 一つ一つの形は異なり、明るさも大きさもそして形も異なるけど、ベコノベの世界には無数の小説が光り輝いていた。

 その上で僕は、数多の星の中に於いて、唯一無二の輝きを放ちたいと思っている。


 もちろん一度の敗北から、それが如何に困難なことか理解したつもりではある。

 でも僕は、諦めることなく小説家を目指すという道を選ぶ。それが自分にとって、一つの正解であると信じて。


「ふふ、まあそういうことさ。なにも最大公約数的な道だけが正解ではない。少なくとも、今の私はそう信じている。もちろん、こうして君に説教臭いことを口にすることも正解だとね」

「はは、でもなんか少しだけ、自分を信じられる気がしてきました」

「それは結構。どうにも君の背中が煤けていたものでね。その様子だと、新作を投稿して落ち着かないってところかな?」

 その先生の言葉に、僕は一瞬固まる。

 でも、目の前の人ならばさもありなんと思い直すと、首を左右に振りながらその口を開いた。


「先生は本当に、なんでもお見通しですね」

「何でも見通せるわけはないさ。ただの仮説の積み上げだよ。だいたい、この間に新作の話をしたところなんだ。そしてこんな場所にやって来る君の挙動不審さを重ねあわせれば、予測としてはそれほど外さないだろうと思ったというところでね」

 先生はそう口にすると、再び軽く紙タバコを咥える。

 そして軽く煙を吐き出した後に、再びその口を開いた。


「まあ不安な気持ちもわかる。実際、私は投稿する前に様々なデータを解析し、その上で自分の作り上げた物語には自信があった。でも、投稿してからしばらくは何度も自分のページを見返したものさ。誰かの感想が来ていないか、何人ぐらいが読みに来ているかってね」

「先生にも不安なことってあるんですね」

「はは、私をなんだと思っているんだい。君のお父上とは違って、まだまだ二十を少し超えた若造にすぎんよ」

 苦笑を浮かべながら、先生は敢えて父の名前を出しっつつそう謙遜する。

 そんな折、突然僕のポケットに入れていたスマホが、メッセージの受信音を鳴らした。


「優弥……え!?」

 画面に表示された文面に驚き、僕は一瞬呼吸が止まりそうになる。

 すると、携帯の吸殻入れにタバコを仕舞った先生は、僕に向かって口を開いた。


「その表情だと、何か良い話でもあったのかな?」

「それが……あの……入ったみたいです」

「入った? 何にだね」

 僕の言葉を聞いた先生は、思わず眉間にしわを寄せる。

 そんな先生に向かい、僕は震える唇でどうにか一言だけ言葉を絞り出した。


「日間に……」

「おいおい、日間ランキングの更新は夕方頃のはずだったが。もしかして、君は気づいていなかったのかい?」

「いえ、まさかいきなりランキングに入るなんて、夢にも思っていませんでしたので」

 先生の言葉に対し、僕はいまだ体の震えを自覚しながら、それだけを口にする。

 僕が手にした携帯の画面。

 そこには、これまで見たこともなかったアクセス数が記されていた。


「なるほど……ね。でも、昴くん。もう結果は出た。ならば直視し給え」

「はい……はい!」

 僕は繰り返すように強く大きく返事すると、震える指先をどうにか動かし、そしてベコノベのランキング画面を表示させる。

 そして三百位まで存在するそのランキングの一番下の方に、はっきりと僕の作品の名前があった。


「転生英雄放浪記……ほ、本当にランキングに入っています!」

「ふふ。おめでとう」

 先生は満足気に笑いながら、真正面から祝福を口にしてくれる。

 僕はその言葉だけでも、思わず舞い上がりそうな気持ちになる。

 しかし更に驚くべきことが、僕の携帯の画面上には記されていた。だからこそ、僕は思わず、上ずった声を発する。


「いえ、あの……今感想見たら、みんな知ってる方ばかりで」

「知っている方?」

「はい。前の転生ダンジョン奮闘記で感想をくださった方たち。先生のおっしゃられていた通り、みんな新しい作品に付いてきてくれたみたいです!」

 そう、それはまさに先生の助言通りであった。


 決して多いとは言えないまでも、転生ダンジョン奮闘記には感想を送って下さる方たちがいた。

 そしてその時に目にした彼らの名前と、まさに今、感想にコメントを付けて下さっている方々は完全に一致していた。


「そうか。読者に好かれているようで実に結構。でもそれは、君がきちんと物語を畳んだからさ。そして、喜ぶのはここまでにしよう。なぜなら、君の目標はここではないのだからね」

 先生はそれだけを口にすると、再び新しいタバコを軽く咥える。そして一息ついたところで、僕に向かって一つの問いを発した。


「さて、昴くん。次に何をすべきかはわかっているね?」

「もちろんです。この日のために、十五話は用意しています」

 そう、たとえ下位であろうとも、ランキングに入ったら行わねばならぬこと。

 それは更に上を目指し駆け続けることであり、つまりはこの時のために貯めておいたストックを、遠慮無く使っていくことであった。


「少し心もとないが、まあ良しとしようか。ならばだ、早速作戦会議と行こう。どうせなら少しでも多くの方に見てもらいたいもの。だからこそ、正しい手を打つとしようか」


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