第63話「なんちゃら2分の1」
「さて、どうするかな」
「何も決めてないんだね……」
「愛する人。とりあえず情報収集が先じゃないか?」
家族会議から一夜明け、俺達はギルドに向かっていた。とりあえずガルディアに会っておかなければならない。アンドリューのことは恐らくガルディアがなんとかしてくれるだろう。だから目下の課題はそこじゃない。
アンドリューの身体が癒えたとしても、俺が魔法学校の入学試験をパスしなければ旅に出ることができなくなってしまったからな。ギルドの依頼も今後のために大事だが、それ以上に試験対策に時間を割かねばいけない。
「そうだな。とりあえずギルドに顔を出した後は魔法学校にでも向かってみるか」
「パパさんから編入試験について聞かなかったの?」
「そういった情報収集含めて条件ってことなんだろう。特にアドバイスとかはなかったな」
「自分に合った試験方法で受けるのが一番だろうしな。まずはどんな試験課題があるのか調べてみようか」
確かに。父さんは編入試験には種類が多いと言っていたし、魔法が使えない俺にとって魔法の実技の課題等がある試験方式は不利だ。一番受かる可能性が高い方法を模索しないとな。
「……とはいえ、随分と長い間放置していたというのに旅には反対するとは。父上の考えていることはよくわからないな」
「会えていなかったとは言え手紙のやり取りはしてたからな。仕事が忙しかっただけだろ」
「……やっと会えたと思ったら旅に出るっていうんだもん。パパさんの気持ちもわかるな」
そう言われると少し痛いな。だけどこのまま王都で優雅に過ごして時間を無駄にするなんてこともしたくない。旅に出て仲間を増やし、魔王達との戦いに向けて万全を期さなければならない。
……本来そんなことは国と王国騎士団の仕事だとは思うが、俺個人がアレクサンダーに目を付けられているからな。王国と魔王国。本格的な戦争がいつ起きるかはわからないが、3年というタイムリミットがある俺は、国の動きとは別に早めに行動を起こさなければならない。
王都に留まれば色々な補助を授かることもあるだろうが、自由に行動することは不可能だろう。王国直属のギルドがあるし、憲兵もいるしな。だから王都に留まるのはあまり良い考えではないだろう。
「……あれ? あんた達、昨日あんなことがあったのにまた依頼でも受けるの? 随分と頑張るわね」
「リティナ。リティナこそどうしたんだ?」
ちょうどギルドの入り口付近でリティナと遭遇した。昨日は俺達と同じで遅かったのに元気なことだ。今日は休日か何かなんだろうか。でなければ王国騎士団の下っ端が午前中にこんなところに来ることはないだろう。
そして、なんだその服は。王国騎士団の制服……には見えないな。王国騎士団の制服は黒基調のものだが、今リティナが来て いる服は深い青を基調にしたものだ。白いシャツに赤いネクタイ。紺色のブレザーに、随分と短いチェックのスカート。ニーソックスまで穿いて……まるで女子高校生だな。
「ボク達はガルディアさんに話があってきたの。リティナちゃん、今日は凄く可愛い服を着てるね!」
「青小娘。貴様、魔法学校の学生だったか?」
……なんだって……おいハムリン、今お前はなんと言った……?
「その青小娘っていうのやめなさいよイカサマギャンブラー。ココに言ってなかったかしら? ワタシ、ハンミット魔法学校にも通ってるの。王国騎士団の活動と半々くらいなんだけどね」
「リティナ!!!」
「きゅ、急に何よ!びっくりしたじゃない!」
リティナに近寄り両手で肩を掴む。逃がさん。こんな近くに学校関係者がいるなんて!逃すわけにはいかない!!!
「俺達が出会ったのは運命だ……リティナ、大事な話がある!」
「あ、ちょ、顔、近いわよ……は、話って何よ……」
何故顔を赤くする必要がある。風邪でも引いているのか。昨日のガルディアじゃあるまいし。……いや、今日は少し無理をして貰ってでも相談させてもらおう。次はいつ会えるかわからないしな。ギルドにも来ているんだし大丈夫だろ。今は時間が惜しい。
「俺達の将来に関わる話なんだ!」
「しょ、将来!?」
「みっともない話だが、俺には経験も無く何もわからないからな……リティナに色々教えて欲しいんだ」
「え、ワ、ワタシも経験なんてないけど……でもそれは2人で一緒に……」
リティナにも経験がない? どういうことだ、入学試験を受けて入ったんじゃないのか。裏口入学? それも有りだな。金で解決するのなら時間が掛からなくて良い。若干卑怯な気もするが背に腹は変えられないな。
まあそんな裏技を持つにしろ持たないにしろ、一緒にアラハンで 暮らしていた筈なのに今魔法学校の学生をやっているというということは、有益な情報を持っているに違いない。
「出来ることならなんでもする、だからーー」
「リッカ君」
「なんだ?」
「愛する人」
「だからなんだよ?」
2人ともなんだその呆れ顔は。俺が何をしたと言うんだ。俺はリティナに魔法学校の入学試験について聞きたいだけだ。だからこんなに必死にお願いをして……
……なんで上目遣いで俺を見ているんだリティナ。なんで人差し指を突き合わせもじもじとしているんだ。なんでいつも肩幅以上に広げてる足を閉じて腰を捻らせているんだ。……よくよく考えればなんで俺は吹き飛ばされてないんだ?
「落ち着いた?」
「……ああ」
これは、もしかしたら色々やってしまったのではないか……?
「愛する人。あれだ、鈍感系主人公というやつか」
「大丈夫、今は大分敏感になってきた」
「び、敏感だとか、な、何言ってるのよ朝っぱらから!」
「リティナ、落ち着け」
相変わらず思春期全開だな。……今までの俺の吐いた台詞を思い出す。
ーーあ、これあかんやつだわ。完全に勘違いさせてるわ。……どうする、どうすればなにも被害を受けずにこの場をやり過ごすことができる……
「ワ、ワタシは落ち着いてるわよ! は、早く話しなさいよ! 待ってあげてるんだけど!」
「……ああ。えっとな……なんて表現したらいいか迷うところなんだが……」
「リッカ君。それも大分危うい」
「天然ジゴロだな」
「ちょっと待て、俺はそんなつもりは……!!」
「……こら!こういう話をする時はちゃんと目を合わせなさいよ!」
この娘にはもうココやリティナは見えていないのだろうか。少しココたちの方に顔を逸らしたら、両手で頬を抑えられまた見つめ合う形になってしまった。
……いや、とても可愛いのだけれどね。その釣りあがった目も言う事を聞かない猫みたいで。そんな強気な女の子がこう、少し震えながらもこちらを見つめているという状況はとても素晴らしいのだが、それは俺の意図するところではなくでだな……どうする、どう切り抜ける……
「……男ならちゃんと、はっきり言いなさいよね……」
やめてくれ。その上目遣い、ここで使うべきものじゃないんだ。それは本当に大事な相手に対して使ってあげてくれ……幼馴染だからってそんなに真剣に相手してくれなくていいんだ……これはもう……
ーー思いっきり茶化すしかない。
「わかった。はっきり言う。リティナ!」
「う、うん……早く言いなさいよ……」
肩に置いている手に力を込める。少しびくっとしつつも、リティナは逃げもしない。逃げてくれ。この俺から。早く。もう後がなくなってきてるんだ……お願いだから逃げてくれよ!!!
「リッカ君?!」
「愛する人?!」
「出来ることならなんでもする、だからーー」
わかってる。これが茨の道だと。でも俺に残された選択肢はそれしかないんだ……!!!
そのほのかに濡れた瞳、俺が乾かしてやる……!!
「お兄ちゃんと呼んでくれ」
「…………は? …………なんで?」
「…………リッカ君…………あなたって人は…………」
「…………お、まさか漫画でよくあるあのシーンが見れるのか?」
「………………………………茶化してるのね? そうなのね? ………ドォォロォォォオッッッッップ!!!!!!」
ーー俺は放物線を描きながら、この流れをどう挽回するかを必死に考えた。
勿論、思いつく前に地面に落ちた。頭から。




