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刻の召喚士  作者: jnsto
青年期 『竜丿墓 スクラップオーク』
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第60話「夜泣鳥」

「全く……言う気はないようだな。……ところでスクラップ。貴様に聞きたいことがあったんだ」


隠し切った。守り通した。俺は。誰が好き好んでこんなに大勢の人がいるところでファーストキスの話なんぞしなくてはいけないんだ。それにあれはカウントしていない。まだラークやリティナと会ったばかりの頃の話だしな。


キィンの俊敏さに感謝しよう。グーギとドォラに追い回されながらも上手く立ち回ってくれてた。……慣れた風だったのは経験があるからだろうか。人気の走竜だったということだしファンから逃げてでもいたのだろうか。アイドルかよ。


「、なんだ?」

「何故アラハンに帰らなかったんだ。貴様は約束したんだろ。昔の仲間とも、アリアという女とも」


やっぱりそれを聞くか。確かにハムリンにとっては無視できないことだろうとは思っていたけど。


「……、おめおめと帰ることができる筈もあるまい」

「おめおめと帰るのが貴様の役目だ。7年間、どれほどの思いで貴様の仲間が過ごしているかわからないのか」

「……、死んだと思っていた方がいい。あいつらをまた危険な場所に連れて行くよりはその方がマシだ」


俺達はいいのかよ。と言いたいところだが、俺がアレクサンダーと戦うことは確定してるからな。


「それは貴様の偽善だ。自己満足だ。大切な者がいなくなった人間の心がそんな簡単に癒えると思うな」


火竜ドライダとの過去があるハムリンにとって、今のシュワルツの行動は腑に落ちないのだろう。置き換えれば、シュワルツはハムリンにとってのドライダだ。後の者の為に自らを犠牲にする。残された者の気持ちはハムリンは痛いほどわかる筈だ。だからこそ、聞かずにはいられなかったんだろう。


「……、お前に何がわかると言うんだ」

「わかるさそれくらい。不幸なのが自分だけだと思うなよ愚か者が。残された者の気持ちを少しは考えろ」


でもシュワルツの気持ちもわかる。何のために逃がした。それは仲間の命を守るためだ。姿を現し、また前の仲間と共に旅に出ることになったとしたら。


シュワルツがそんなことを望んでいる筈が無い。むしろ死闘を繰り広げ、その後に機械の身体にされ。それでもまだ魔王達と戦おうという意思があること自体が奇跡のようなものだ。そんな精神力、並大抵のものではない。


そんな強靭な精神力を持つとは言え、昔の仲間と共に旅をすることはシュワルツの精神的な重荷になってしまう。今度は必ず守らなければと。それは逆も言えることで、今度こそはシュワルツを死なせまいとあの人達も躍起になるかもしれない。そんなギスギスした旅は上手くいくのだろうか。……あの人達の気持ちを考えるとあまり深く考えたくはないところだが、とりあえずはシュワルツの思うとおりにさせてやりたい。


「……俺はシュワルツが決めたならそれでいいと思うが」

「何故だ愛する人。このまま昔の仲間に会わずにまた死ぬことだってありえるんだ」

「会ってからまた死ぬ可能性だってある。会うか会わないかで言ったら会った方がいいとは俺も思うけど、会わせるんだったら昔の姿で会わせてやりたいという気持ちの方がでかい。その方法を探していくっていうのもいいんじゃないか? 転生が出来るんだ、元の身体に戻すことだってできるかもしれない」


あくまで希望的観測だけどな。でも世界は広い。一緒に旅をする以上、俺達は家族だ。そんな方法を見つけてやれたらと思っている。


「……どんな姿でも、帰ってきてさえくれれば私は嬉しいぞ」

「もし俺が同じような状況になったらそうしてやるよ。首だけになってもただいまって言って脅かしてやるから覚悟しろよ?」

「最高のインテリアじゃないか!」


ブルッとした。今身体の底からブルッとした。いくら夜で冷えているとは言え今の発言は気温以下の底知れない怖さが含まれていた気がする。もはや変態という言葉では表現しきれない。サイコパスだ。


「、本気で言っているのかリッカ。……そんな方法がある筈がない」

「お前こそ何を証拠にそんなこと言ってるんだ。出来ないなんて決め付けるくらいだったら、絶対やってみせると覚悟を決めろよ。お前が元の身体に戻ることは戦力の増強にも繋がるんだ。別に哀憫の感情だけで話しているわけじゃないぞ」

「相変わらず素直じゃないわねこの男は」

「身内にはとことん甘いからね。リッカは」


やめろ。そんな援護射撃いらないぞ。折角それっぽい言い訳考えたのに無駄になるだろうが。


「……まあいい。7年もあってなんでアラハンに帰らなかったかは理解できないところだが、ここまで来たらいつ帰っても同じだ。私も貴様の身体を戻すのを手伝わせてもらうぞ。色々実験させてもらうからな」

「、……急に礼を言いたくなくなったんだが」

「礼には及ばん。趣味と実益も兼ねてるからな」

「、趣味が悪いな」


確かに。人の身体を弄くりまわすのが趣味とは。……あ、魔獣の解体のほうか。どちらにしろ趣味悪いな。サバイバル的な知識は本当に助かっているけど。


「リッカ君リッカ君!」

「急にどうしたココ?」

「さっきのただいまで思い出した!いってらっしゃいって言ったのに、ただいまって言われてない!」


ああ、そんなことがあったな……ほら、あの時は脳味噌から出るアドレナリンに酔いしれていたから。酩酊状態だったから。今思い出すと無茶苦茶恥ずかしいな。


「ああ、あの恥ずかしいやり取りか。お帰れ小娘」

「なんですかそれ!ハムリンさんには言ってません!!」

「だからハンニバルと呼べと言っているだろうが!!」


……どうにも俺達には真剣な空気と言うのは合わないらしい。すぐに変な方向に行ってしまうな。それはそれで暗くなりすぎずいいことなのだけれど。


「、すまん、リッカ。お前も大変だろうに、オレのことまで背負わせてしまうな」

「一緒に背負ってなんぼだろ。今日から家族だしな。これからよろしく、シュワルツ」

「、シュワルツは先代勇者と気付かれる可能性が高い。ガバナーターでいい」


なるほど。ありふれた名前っていうわけでもないもんな。その名前だけで目立ってしまう。それに先代勇者本人だしな。


「馬鹿か貴様は。それも魔王軍にばれる可能性があるだろ。スクラップでいいじゃないか」

「スクラップは流石に……シュワさんとか……?」


なんかどこかで聞いたことがあるような呼び名だな。危ういぞ。


「そのまま過ぎだろ。ボブとかでいいんじゃないかな」

「……、適当すぎないかリッカ。考えるならちゃんと考えてくれ」

「我侭だな……仕方ない」


ガバナーターをもじるか?ガバン……絵を描く時に用いる道具かどこぞの宇宙警察になってしまうな。あとのヒント、黒い水。ブラックウォーター……ブラウ?お、いいじゃん。……いや、ただでさえ怪しいのにこの世界の名前っぽくないのはやめとくか……


あとの検討材料は……竜か。水竜。ウォータードラゴン。ウドラ。なんか怪獣でいそうだな。却下。なんかないか、こいつは胸に竜の核を入れていて……なんで俺の周りに居る奴は身体の中に竜を入れたがるんだ。いや、突っ込みじゃなくて名前をだな……シュワルツと竜、シュワルツ&竜……アンドリュー……


「アンドリュー……どうだ?」

「、む。悪くないな。少なくとも魔獣には思われまい」

「貴様などスクラップで十分だ」

「まださっきの話の尾を引いてるんですか……よろしくお願いします、アンドリューさん!」


とりあえず母さんには凄い鎧をしているだけの一般人ということで通しておこう。後々ばれるくらいなら最初からちゃんと紹介した方がいい。でも家にはこいつが住めるスペースないからギルドにでも泊めてもらえるかガルディアのおっさんに聞いておこうかな。





「もう深夜だというのに元気ですわね貴方がたは……まるで小夜啼鳥サヨナキドリみたいですわ」

「小夜啼鳥?」


ハムリンの後ろで横向きに座っているガレットさんが、少し眠そうに話し始めた。


「……わたくしの国によくいる鳥なのですけれど、声は美しいのに夜近くに騒がしく鳴いていますの。今の貴方がたを見ているとまさにそれですわね」

「ガレットさんは俺達の声が美しいと?」

「……夜中に騒がしい、のほうですわ」


別にいいじゃないか。騒がしいと言っても、王都が近いとは言えまだ人っ子一人いない草原の中心だ。なんだったらここでカレーを作って二次会を繰り広げたっていい。カレーであれば小さいどころか大泣きしてくれそうな人員も揃っているしな。腹減った。


「ねえねえリッカ君」

「なんだカレー担当大臣」

「……どういう役職なのかなそれは……ボク達のパーティの名前、さっきガレットさんが言っていた鳥の名前とかどうかな?」


パーティの名前か。確かギルドでも複数人で行動する時は団体名を決めてくれと言われていたな。個人に向けた依頼だけではなく団体向けの依頼が来た時に斡旋しやすくなるのだとか。


「いいんじゃないか?」

「ちょっとココ!リッカ!ワタシ達ともパーティの名前決めたでしょ!」

「リティナ。僕達もすぐ旅に出るわけじゃないからね。冒険者として活動するにはパーティ名があったほうが何かと便利なんだよ。朝焼丿星モーニングスター小夜啼鳥サヨナキドリ。僕は関係性があって悪くない名前だと思うよ」


言われてみるとそうだな。朝と夜か。……モーニングスターとか言ってたなそういえば。皆割りとちゃんと覚えているもんだ。もう一度酔っ払わせて記憶を削除させないと。


「……夜が明ければ朝が来るとか、そういうこと……?」


上目遣いでこっちを見るな。寂しがり屋か。


「……リティナも中々詩的だな!いっそのこと眼帯とか付けてみたらどうだ」

「何を言っているかはわからないけど、茶化してるわよね、リッカ?」

「あの顔は意地悪してる時の顔だよリティナちゃん」

「そんなことはない。なあラーク?」

「僕から同意を得られると思っているのかい……?」


幼馴染全員からのジト目を引き受けつつ、ハムリンからの視線は華麗に無視する(モーニングスターに突っ込まれたくない)。


「……確かに声は美しいのですが、墓場鳥という別名もある鳥ですわ。あまりおススメはしませんけれど」

「そういうことならまさにお似合いではないか。ついさっきまでドライダの眠った地に居たんだ。あそこは私達4人が出会った場所ということになるしな」

「、小夜啼鳥サヨナキドリ、確か渡り鳥だったな。オレには似合いの言葉かもしれん」

「アンドリューさんは小さいっていうより大きめですけど……」

「、大きさの話ではなくてだな……」

「じゃあ夜泣鳥、でいいんじゃないか?」


自分の過去を思い出す。精霊の森で、俺は自分の才能のなさに打ちひしがれ泣いていた。この夜泣鳥という名前は、俺にもお似合いなのかもしれない。この名前を聞けば、俺はあの日のこと思い出すだろう。……そういう意味ではこの名前はココとも繋がるのかもな。……いや、ココは酒飲むと泣き上戸になるからそっちでいいや。


「夜泣鳥……なんかかっこいいね!」

「決まりだな。私達は今日から夜泣鳥だ」

「、久しぶりに思い出した。仲間と言う物は、いいものだな。みな、よろしく頼む」

「ああ。この名前を背負って、世界を冒険しよう」









「旅?駄目だね。認められないよ」


家に帰ってきていた父さんからの一言は、俺達のやる気を一気にマントル近くまで沈めさせた。

挿絵(By みてみん)

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