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刻の召喚士  作者: jnsto
青年期 『竜丿墓 スクラップオーク』
59/80

第55話「勇者シュワルツ2」

「……水竜の魔力を補いながら3日も粘るとはね……」


……聞こえない。いや、聞き取りづらい。


「でも覚醒していない奴っていうのはやっぱりこの程度なのかな。この3日間で覚醒してくれることを願っていたけど、役立たずだね。君は」


……眼は見えていない。身体は力が入らない。いや、むしろ。身体は"ちゃんとあるのか"


「今度はもっと根回しをしっかりしないとね。確実に覚醒させないと」


……残っている魔力を身体になんとか流してみる。いや、流れない。両手に流したものは肩でとまり、足に流したものは腿でとまり。


「どうしたらいいかな?……おい、ちゃんと聞いているかい?君に相談してるんだよ?つい最近、異世界から来た奴と話したんだけどさ。そいつの世界の文化では君みたいのを達磨って言うんだって。僕の願いが叶ったら、もう一つの眼もちゃんと潰してあげるよ」


……そうか、片眼が潰れているのか。でもそれすらも、どちらの眼が潰れているかすら。オレにはもうわからない。


「……まだ死んでないのはある意味奇跡だね。勇者って気持ち悪いな。こんな状態でも生きてるなんて。はは!惨めで面白いけどさ!!……あ、そうだ。あいつが新しい玩具が欲しいとか言ってたな。もう使い道もないしあげてこようか」


……髪が引っ張られている?突然重力の方向が変わった気がする。髪を持たれ、吊るされているのか……?


「運が良かったら、生まれ変われるかもね」


……何もすることができなかった。でも、それでも唯一動きを止めていなかったオレという生き物の中心が、23年ぶりに動くことをやめてしまった。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





「ーーおやおや。まさか成功するなんて。これは驚きね。ちゃんと話せるか試してみましょう。ハロー?ハロー?聞こえてる?ちゃんと生き返ったの?」


「……、ぁ……」


「あらあら。まだ新しい口に慣れていないようね。でもすぐ慣れるわ!私が作ったんだもの。生物学的にもそれなりに優秀な身体にしてあるわ!」


なんだ、ここは……光がぼやけて見える。オレはどこにいるんだ。


「いやいや!天才だとは思っていたけど、まさか転生実験を成功させるなんて!自分の才能が怖いわあ!」


段々と眼が馴染んできた。ここは……わからない。結局なんなのだ、ここは。よくわからない黒色の液体の中に居るらしい。なのに声は脳に直接響いている。どういう仕組みなんだこれは。


目の前に、白衣を着た何かが居るのはわかる。脳に響いているこの若い女の声が、目の前で動いているこいつだということは、なんとなくではあるがわかる。


「ふむふむ。反応はあるみたいね。じゃあもう少し様子をみましょうか。2、3日もすれば話せるようになってるでしょう!」


状況は把握できた。だが、現状が把握できない。オレはアレクサンダーに殺された筈。なのに、何故ここに意識を持って存在しているのか。ここが天国?そんな訳はない、こんな油臭い天国などオレは認めない。なら、オレは……生き返ったのか……?


「ほうほう。少しずつ反応が激しくなってきているわ!あっ!自己紹介がまだだったかしら!事後紹介でも大丈夫よね。こほん。私はアリア!よろしくね魔獣47号!あ、かっこ悪いわね。M47?」


……何を言っているんだこいつは……魔獣47号?それはオレのことか?


手に力を入れる。動きづらいが少しは動くようだ。……これは、オレの手、なのか。金属。黒い金属で覆われた手。手甲などではない。中に手の感触等ありはしないのだから。


「やだやだ!折角の成功作なのに!えーと……24号が少し生き返った時は10時だったから、1024メガバイトいこーる1ギガで"ギガ"って名前にしてたんだっけ……?」


……喧しいな。なんだこの女は。少し位、ゆっくり考えさせてくれ。


「えとえと。今回も10時?じゃあ却下!……でも折角だから24号のニュアンスも入れたいわ!ああ、生前の名前を聞いておくんだった!こういうことにはセンスがないわ!!ん、これは余ったナット。……どこのかしら。わからないから名前にでもつけてあげましょう!」


「さてさて……ギガナット……なんか惜しい気もするのよね。こう……センスが光らないかしら……GIGANATTO……」


「そだそだ!生き返ったんだからrebornのRでも入れてみましょうか!GIGANATTOR!ギガナーター!……少しギガに寄りすぎてる……?独創性に欠ける?オンリーワン感が足りない?」


……ああ、こいつはあれだ。頭がいっちゃってるタイプの、そういう生物だ。


「うむうむ。……ガバナーター……ガバナーター!貴方はガバナーター!!かっこいい!!!古い鉄は著作権的にあれだからね!貴方は今日からガバナーター!そう呼ぶわ!よろしくね!!!」


ガバ、ナーター……?オレはシュワルツだ。そんなよくわからない名前は認めない。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「おいおい!ガバナーター!起きてる?ゴハンよゴハン!」

「、また水を継ぎ足すだけだろう。何がゴハンだ……」

「あれあれ?相変わらずつれないわね君は。そんなことじゃ大きくなれないわよ?」

「、これ以上でかくなってどうする……十分過ぎるくらい体はでかいぞ」


……意識が戻ってから2週間。オレは相変わらず油臭い水の中にいた。彼女の名前はアリア。人間ながらに魔王国で働いている天才科学者とのことだ。勿論自称ではあるが。


王都で才能を買われ個人の研究所を与えられていたのだが、2年前魔族に連れ去られて以来ここに押し込められているらしい。王都より自由になんでもできるここが気に入っているらしく、逃げるつもりもないのだとか。変わった奴だ。


相変わらず彼女の姿はぼやけて見えないが、後ろに魔獣が歪に改造されているようなものも見える。薄暗い部屋の中にはいくつもの実験道具のような何かあるみたいだ。……命を弄ぶような、神にも逆らう研究を行っているのだろう。


「いやいや。大きいことはいいことよガバナーター!終いにはホワイトデビルと呼ばれ敵から恐れられるように……ん、どちらかというと赤くて3倍の方かしら」

「、相変わらず何を言ってるかわからんな。それも異世界の"あにめ"、とかいうものの知識か?……お前の言う異世界で死んでこの世界に生まれ出たという話は、どうも信じがたい」

「こらこら。そこは疑ってはだめよ。現に貴方も世界は超えてないけど、この世界に再度生まれ出たんですから!」


……そう。オレは一度命を落とした。だがこのアリアという女に魂を現世に引き戻され、この世に再度命を授かったらしい。ここは魔王城ではないが魔王城近くの研究所の地下らしく、オレは新しい実験材料として連れて来られた。


そして実験は成功し、オレはこの鋼の肉体を持つようになってしまった。そういうことだ。前の身体の1,5倍以上はあるかと思えるこの身体は、まだ動きが悪い。


殺され、改造され、生き返り、この水の容器の中に閉じ込められ。……オレは今、何のために生きているのだろうか。


「うんうん。やっぱり話し相手がいるっていうのはいいものね!研究も捗る捗る!この調子ならあと1週間もすれば外に出られるんじゃないかな?」

「、外に出て一体何をしろというんだ」


こいつはただ、自分の興味があることを突き詰めたいだけの人間だろう。その行為には善意も悪意もない。ただ、興味があるから。子供が虫を虐めるように、たとえそれが人体実験だろうと。彼女はその道を追求していくのだろう。最初は警戒していたが、毎日このような感じなので慣れてしまった。気付けばここまで話す仲になってしまっていた。


でもそれも、何もすることがないからだ。外に出たところで、こんな身体で何をしろと言うのだ。動きの悪いこの身体ではまともに戦うことも出来ないだろう。アレクサンダーに復讐することも叶わないだろう。ならいっそ、ここでこのまま溺れて死んでいく方が、負け犬に成り下がったオレにはお似合いかも知れない。


「あれあれ。外にでたくないの?鳥篭の中の鳥はいつだって、鳥篭の外を眺めているものよ!私が好きなのはカラスだけど!カラスは自由よ!黒くて汚くても、自分の好きなように生きるの!」

「、死体も漁っていそうだしな、お前は……」

挿絵(By みてみん)

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