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刻の召喚士  作者: jnsto
青年期 『竜丿墓 スクラップオーク』
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第52話「過去の栄光」

「ナイスキャッチ!キィン!…くっ、流石に痛むな」

「ギィン!」

「よくここに俺が来るってわかったな。敵が拘束を解くかもしれないのに、待っていてくれたのか?」

「ギィ?」


まあ俺の言葉がわかるわけないか。でも、ちゃんとここにきてくれていたんだ。ありがとうな、キィン。


「……後はあいつらが時間を稼いでくれるはずだ」


ハムリンとココ、それにラークとリティナ。ココが指輪でラーク達を呼んでいたのは気がついていた。だが失敗していると思っていた。だって俺の指輪の有効範囲は精々半径3、400メートルと言ったところ。その10倍以上も念信ができるなんて思わないだろ?


……まあ最近自分を買い被りすぎているかもしれないな。念信の範囲も魔力量に依存する。俺は魔力がほぼない。ココ達に比べてどれほど少ないかはわからないが、異常な程に少ないのはこれまでの人生でわかっている。まあ前世の記憶がある俺としては魔力なんてものがある方が異常なのだけど。


自分は特殊な人間ではない。確かに時間召喚等の特殊なものも使えはするが、それは一つの特技に過ぎない。絶対的な優位性とは言えないんだ。だからこそ、ここまでする必要があった。左肩を負傷してでも一対一の勝負を長引かせる必要があったし、自分ひとりでは何もできない俺は人の助けを借りないと力を発揮できない。リンクがそれを一番良く表してる。





「さあ、待たせたな。これからあんたを救ってやる」


スクラップオークが拘束されている場所に着く。ここまでの道のりは全てハムリンとココで敵を拘束してくれていたらしく、何の不自由なく辿り着くことができた。キィンもつまらないとでも言いそうな顔をしていた。


にしてもまだこいつは硬葉セラリフに絡まってたのか。あの力があれば逃げようと思えば逃げられた気もするが。随分と大人しく待ってるもんだ。


「……、まさか、オレの正体に気付いているのか……?」

「そうかもな」

「……、オレのこの姿を見て、何故わかった」

「盗賊と言ったことと、他の冒険者を見逃す選択肢はあったのに俺達には殺すと告げたことかな」


キィンから降りてスクラップオークの正面に立つ。あー……道具袋は全部さっき切って捨ててしまったんだった。ついてないな。


「……、ではあれは、あいつらから貰い受けた物ということか。オレも判断を誤った、すまん」

「ああ。ちゃんと判断できるだけの頭があるじゃないか。もっと早く気付いて欲しかったよ。盗賊がわざわざあんた相手に何を盗むって言うんだ」


盗賊と決め付けられ殺されそうになったんだ、そこだけはちゃんと言わせて貰おう。下手をすれば死んでいた。


「……、そう言われると苦しいな。確かにその通りだ」

「ま、説教しにきたわけでもない。……誠に遺憾ではあるが、さっさと済ませようか」

「……、何をするつもりだ……?」


さてどうするか……何もないな……ああ、血しかないか。肩の血で足りるかな。……足りるだろ。無ければもっと流してやる。


「ギルドのルール、知ってるか?一応確認しておきたい。冒険者が所持する奴隷に関してだ」

「……、?他の冒険者の奴隷や、奴隷紋をつけた魔獣には危害を加えてはいけない、等という事しか記憶にないが……それもおぼろげだ。何せ冒険者だったのは7、8年くらい前になる」

「それで大丈夫だよ。ハムリンからもさっき大丈夫な筈、と聞いていたが2人から聞いたなら大丈夫だろ」


ここまで話したところでスクラップオークも得心がいったらしい。少し訝しげにこちらを睨みはするが、あまり抵抗する気はなさそうだ。


「……、そういうことか。確かに、それであの女は手出し出来なくなるな」

「そういうことだ」

「、先ほどまであの桃色の髪をした女に身体を弄繰り回されていたのはそういうことか……」

「そういうことだ」

「、あの女、"お前中々面白い身体をしているな、今度少し解体させろ"と言っていたが……」

「……そういうことなんじゃないかな。そこまで俺は関与しないぞ。そうなったら自分で逃げろ」


誠に遺憾ではあるが、つまりそういうことだ。魔獣を奴隷にさえすれば他の冒険者から危害を加えられることはない。ガレットも王女とは言え今はこの国の冒険者となっている。しかもAランクだ。その決まりを知らないわけないだろう。……だから、俺は初めて自分の意思でこいつを奴隷にする。


「……奴隷制なんて大嫌いだが、あんたを俺の奴隷にしてやる。後は何処へでもいけばいい」

「……、なんなんだお前は。……何故オレにそこまでする?」

「考える頭は持ってるんだ。ちゃんと自分で考えろ」

「、…………」


契約の文字はわからないから適当にキィンと同じ物を刻んでおこう。別に俺が何かするわけじゃないから、走らなくても死ぬわけじゃない。


「で、あんたの心臓はどこにあるんだ?心臓の真上じゃないと奴隷紋は機能しない。ハムリンには印をつけておくように言ったんだが」

「、オレにはもう心臓などありはしない。あるのは魔力の核だけだ。それは、心臓部分に埋め込まれている」


ハムリンが開け放ったままで離れたのだろう。目の前の巨人の鉄の腹は左右に開いており、中には薄い水色をした肌が見えていた。軽くグロいくらいだな。本当に、こいつの過去には何があったのだろうか。ん?……随分薄く書かれているが、心臓部になにかある。……奴隷紋スレイヴか。


「既に奴隷紋が描かれてるな。ハムリンが描いてくれたんだろう。ならもう魔力を流すだけで契約は完了だ」

「、む。待て。契約の内容はなんだ」

「知らん。安心しろ。特に拘束なんてしないから。契約出来たらとっとと逃げてくれ」

「、む。そうか……」


……っと、魔力を流さないといけないのに俺には魔力がなかったんだった……まあ、なんとかなるだろ。魔力がなくなっても魔力が通らないわけではないと思っている。ほんの少しの魔力でいい。アレクサンダーと戦った時も薬物召喚の反動の最中だったが、妖精達の魔力を身体に流すことは出来ていた。


「キィン。すまんがちょっとこっちにきてくれ」

「ギィ?」


とりあえず、キィンに手を触れながら魔力を流してみよう。左手でキィンに触れると、わずかながら身体に魔力が流れた。いつもの俺よりも魔力がないくらいだな。でも契約はほんの少し魔力を奴隷紋に流すだけでいい。それさえ出来れば事足りる。


「じゃあ、あんたを俺の奴隷にするぞ。……誠に不本意ながら」

「……、不本意なのに、何故俺を助ける。何がお前をそうさせる。無理だ、わからない……」

「本当にわからないのか?俺達があの人達の服を着ていて、それはあの人達から貰い受けたもので。あんたと旅をしていた時の品を俺達にくれるような、そんな関係なんだぞ?」


馬鹿かこいつは。ここまで考える材料があってなんでわからないんだ。


「……、お前は、アラハンの生まれか」

「そうだよ。旅から帰ってきてから店を出したらしいからちゃんと名前で言ってやる。イナミさんも、アーヴィさんも、タリカさんも、ロゼさんも。皆俺の恩人だ。あの人達の協力がなければ、今俺はここにいなかった。あんたと会うこともなかった。」

「………………、恩義、か」

「そんなところだ」

「、それは、ここまでするものなのか……?一つ間違えば、お前は死んでいたぞ」

「でもそうしなければ、この結末までたどり着けなかった」


ハムリンがこいつと奴隷契約することもできた。ココがこいつと奴隷契約することもできた。でもこれは俺の罪だ。俺が考えてこの作戦を決行している。だからこいつの主になるのは、俺しかいない。奴隷なんて大嫌いだ。出来るならそんなもの居ないほうがいい。でも自分で決めたからには、けじめも自分でつける。ただの我侭だと思ってくれてもいい。だけど、これが俺の生き方だ。


「例え死んだって、一度決めたことは曲げない。自分が間違っていない限りはな。俺はあんたを救うと決めた。だから救ってやるよスクラップオーク」

「、……オレの名はそんなものじゃない。この姿になってからは、M47-ガバナーターという名で呼ばれている。まだその方がマシだ」





「わかった、言い直すよ。先代勇者、神滅勇者ダイダロスのシュワルツ」

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